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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第332話 テンプレ、キター!


 ボニーが解散を告げて会議室から出て行くと、ふうっと空気が緩んだ。


(抑えてはいるんだろうけど、ボニーさんもアルカさんと一緒で、魔力の密度が濃いわあ……強いんだろうなあ。ギルド職員って強くないとダメなんだろうね)


 いろいろ興味深い話を聞けて、りのは大満足だった。

 新人冒険者としてはどうでもいい話なのかもしれない。実際、後ろから見ていると前のほとんどの新人冒険者たちの背からはやる気が抜けていたので。

 だが、りのとしてはとても面白かった。

 ダンジョンドロップ品の分類、値のつけ方、流通のこと。ダンジョン以外で魔獣を倒した時の解体について。ドロップ品との違いについて。

 こまごまとしてはいたが、おそらくここを押さえているかどうかが、稼げる冒険者になれるかどうかの分かれ目になっているような気がする。


(だってボニーさん、その話をまじめに聞いてる冒険者チェックしてるっぽかったもんなあ)


 新人研修は、びっくりするくらい小さなところまでチェックされてるから要注意。これマメです。

 りのは別に評価されたいわけではないけれど、ギルド職員ならある程度は事情も知られているだろうから、今さらとりつくろう必要もないかなと思って、熱心に聞いていた。


 うん、面白かったー!


 大満足で、下にいるアダンたちと合流しようとドアの方を向くと、そこに二人、新人剣士らしき装備の男の子と、気の弱そうな魔術師装備の男の子がドアをふさいでいた。


「おい、お前」


 わあ、イキってらあ!

 スルーしても良かったのだけれど、あまりにもテンプレな声かけをされたので、面白くなってしまった。

 ちょっとイラッとしたとか、まさかそんな。


 返事はせずに、目を細めてじいっと見つめてやる。


(どけやガキども)


 うっすらと「威圧」をかけてみた。この程度の薄い威圧だと、魔力感知が鋭くないと怖くないそうだ。


(ギルド内での衝突は、命に関わらない限りギルド側は関知しない、ただし殺すのはダメ、そして冒険者は舐められたらオシマイ。そう言ってたもんなボニーさん)


 魔術師の男の子の方は、とたんにびくりとしていた。かたかたと震える手を、反対側の手で押さえつけているが、結局両方の手が震えている。

 剣士の方は何も感じていないようだった。


(んー、魔術師の方はまだ見どころがあるのかな?)


 りのは少しだけ目を細めた。この剣士装備の方、鈍いうえに貴族っぽいなあ。尊大な様子がものすごく第一の騎士たちとかぶっている。


「き、きさま、おれ様が、話しかけてやってるのに、なぜ、だまっている!」


 魔力の威圧は感じとれていないようだが、この顔は怖かったらしい。


「オレサマ、何の用?」

「は?」


 きょとんとした顔が幼い。貴族の子ども。きっと嫡男ではないのだろう。アダンやゼノンと同じような感じだろうか。


「馬鹿にしてるのか!」

「してるねー」

「はあ!?」

「名前も名乗らずに人をお前呼ばわりするようなやつ、馬鹿にするしかなくない? やっと名乗った名前が『オレサマ』だしさあ」


 首をかしげると、後ろからぷっと噴き出すような音が聞こえた。

 一緒に研修を受けていた子たちもドアを塞がれて出られないのだろう。


「な、ななな、」

「で、オレサマ君、何の用?」


 にっこり笑ってやると、オレサマ君がえらそうな顔を取り戻して居丈高に言った。


「おれのパーティーに入れてやるから来い」

「え、いやですけど」


 速攻で返すと、後ろからは笑い声が、前からははあ!? という声がした。


「な、ななな、なな」

「ちゃんとしゃべりなよ、『な』だけじゃわかんないんだけど」


 この子、これから大丈夫なのかな? ちょっとおばちゃん心配なんですが。


「お、おれが入れてやるって言ってるんだぞ!?」

「あんたのどこにそんな魅力が?」


 弱そうだし偉そうだし、人の言うこと聞かないし、言ってることわかんないし。心から不思議になって聞くと、少年は顔を真っ赤にして、弱くない! と叫んだ。


「それに、俺は貴族の出だぞ!!」


 やっぱりかあ、とりのは失笑してしまった。

 ここで折っておかないと、この子あっさり死にそうだなあ。


「あんた、頭弱いんだね。冒険者向いてないんじゃない?」

「なんだと!」

「たった十分前くらいに言われたばっかりじゃん、冒険者は貴族だろうが平民だろうが関係ないって。ギルド内で身分を振りかざすと嫌われて助けてもらえなくなるから、その覚悟で振りかざせって。十分前に言われたこと忘れるなんて、頭弱いんだなあって思われて当たり前でしょ」


 っていうか、邪魔だからどいてくれない?


「う、うるさい! おれは、おれは弱くない! おれは、『蒼雷』みたいになって、ぜったい、貴族籍を、もらうんだ!」


 ぶわんと、魔力のような威圧のような何かが、少年からちょっとだけ溢れている。

 ふむ、アダンさんを目標にしているとは、なかなか見どころがあるではないか。

 やたらと上から目線でりのはちょっと悦に入った。

 それなら、やっぱりきれーに叩き折っておくほうがいいなあ、死なれたら夢見が悪くなりそうだし。



「なら、せめてあたしくらいは倒せるようにならないとね?――『威圧』」



 りのは唇だけを動かして「威圧」を少年のまわりだけにぐるりとかけた。先ほどの薄いのではなく、ちゃんとした「威圧」だ。

 ファルカ・エスタリにかけたときはコントロールが甘くてティアーヌやリシェルまで怖がらせてしまったので、しっかり練習しておいた。だから、今は少年だけにかけることができる。



「あ、ぐ、う、うっ」



 少年はとたんに真っ青になって震え出し、片膝をついた。冷や汗がぽたぽたと顎を伝って床に落ちている。

 その傍にりのは歩み寄って、その横にしゃがみ込んだ。できるだけ偉そうにその顔を覗き込む。

 少年が意地のように顔を上げて、りのを見上げてきた。けれどその目には恐怖と混乱の色が濃い。


「オレサマ君、生き残りたかったら、多くを学ぶといい。学ばなければ空っぽのままだ」


 某王太后のようにね。


「そのためには謙虚でいることが大事だよ。偉そうな奴に教えてくれる人なんていないんだからね」


 少年の目が驚きに見開かれた。

 そんなことすら、この子は教えてもらわなかったのか。


「あたしに勝てると思えたら、また誘いに来て。その時にあんたがいい感じになってたら考えるから」


 にっこりと笑ってみせた。

 がんばれ、青少年。

 アダンさんを目標にする気概があるなら、きっとまだ矯正はきくだろう。


 それから、りのは立ち上がって、横のガタガタ震えている魔術師の子にも目をやった。


「どういう事情でパーティー組んでるかはしらないけど、あんたの命、こいつにかかってるんだから、生き残りたかったらもう少し躾しなよ。あんたの方が冒険者としてはやれそうなんだから」

「え」

「いや、え、じゃなくて。あたしがさっきかけた魔術、わかってたじゃない。なら魔力感知はうまいんでしょ? ダンジョンに入った時、すっごく役に立つってきいたよ、魔力感知」


 りのも行ったことはないので、聞いた話しか言えないけれど。


「身分とか、魔獣が気にしてくれるの? 偉いから魔獣が襲ってこないとかあるの?」

「それ、は」

「なら、身分関係なく、あんたがこの子をなんとかしないと。パーティー勧誘さえこの調子じゃダンジョン潜れないでしょ」

「う゛」


 りのも行ったことはないので以下略。

 一応、「解除」と小さく呟いて「威圧」を解除した。

 もう無詠唱になれすぎて、魔術とかをかけた後から呟いているような気がする。

 少年は、「威圧」が外れて脱力し、激しい呼吸を繰り返していた。



 さて、もういいかな。

 待たせてるし行こう。

 そう思った時、ドアの向こうからリン、と低いバリトンの声がした。



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