第331話 新人研修
料理の補充をしたりいろいろ作ったりしているうちに、あっという間にダンジョン見学の日はやってきた。
今回は公式的な外出だがお忍びということになっているので、りのは新人魔術師のリンとして、ロゼリアは新人剣士のロゼの格好になっている。
ダークブロンドに青い目のりのと、紅色の髪に桃色の目のロゼリアは、いつものように前宮でアダンを待つのではなく、さっさと馬車に乗って冒険者ギルドを目指していた。
ラウのパーティーに新人を混ぜてダンジョンへ行くというかたちをとるので、冒険者ギルドで待ち合わせたほうが自然だろうということになったのである。
「リン、緊張してますか?」
「そうだねえ、初めてだからねえ」
「トリスールダンジョンは難しいダンジョンではありませんけど、初めてだと緊張しますよね」
私がいますからね、と胸を叩いて見せるロゼリアが頼もしい。そしてかわいい。
りのもありがとう、頼りにしてるねと笑った。
実際のところ、ダンジョンに行くのは億劫だけど楽しみでもあるというハーフアンドハーフな感じなので、どちらかと言うと気持ちはフラットだ。
でもロゼリアがかわいいので、それでやる気を出しているりのだった。
冒険者ギルドにつくと、すでにアダンとゼノンは来ていて、酒場のエリアでエールを飲んでいた。
ここで出されているエールはとてもアルコール度数が低いので、水分と栄養補給の意味くらいしかない。だから特にひっかかることもなく、りのたちは二人の側に寄った。
「こんにちは、アダンさん、ゼノン君」
「こんにちは」
きっちりと冒険者装備、魔術師装備をまとった二人は、ラフに気楽に手を上げて、よう、よろしくねーと挨拶を返す。
(うーん、冒険者仕草って感じ! カッコいいね! ゼノン君は眩しすぎるけどね!)
「リンさん」
「あ、アルカさん、こんにちはー!」
「こんにちは。今日、登録なさると伺っております。これから冒険者ギルドの新人研修を行いますので、それを受講されてからの登録となります。研修会場へご案内いたしますね」
「あ、ハイ!」
慌てて立ち上がり、じゃあ行ってくるね、とアダンたちに手を振った。
アルカの後をついて二階に上がると、前回通された会議室のようなところへ通される。
中に入ると、数人の若者……りのからするとまだ学生さんのような年齢の子たちがいて、ぎろりとこちらを見てきた。
(おお、これ、テンプレいけちゃう? 絡まれちゃったり!?)
頑張って背伸びをしようとしている少年少女たちのぎらぎらした感じがかわいくてまぶしい。
りのは小さく会釈して、後ろの席にすとんと座った。
アルカが出て行って、しんと沈黙が広がる。
りのの後にも数人の若者が入ってきたが、皆が入ってくるなり、硬直したように黙って座った。
(うーん、話してる子もいないから、黙ってる方がいいかな)
スンとした顔で、内心ドキドキハラハラしながら待っていると、一人の男性冒険者が入ってきた。
背がとても高い。二メートルは軽く越えているんじゃなかろうか。この世界で会った誰よりも高い。ラウより長い!
ものすごくきれいに手入れされているミルクティー色の髪に、深い紺色の目。長めの前髪が目にかかって、対比の鮮やかさが美しい。顔立ちも整っていて美形だ。
わあ、と思って見上げていると、男性が口を開いた。
「ハァイ、新人さんたち! ようこそ、冒険者ギルド、ラハラン支部へ!」
おお……。
濃いな……。
前を見ると、少年少女たちがわずかにのけ反っていたので、こちらの世界でも十分濃いタイプの人なのだろう。
「アタシはラハラン支部所属のギルド職員兼冒険者のボニファツィオ・バルベーリ、新人研修を担当してるわ。ボニーって呼んでね~!」
ボニー。かわいい名前だ。
「今日は軽く新人研修をして、アナタたちが登録をしたら実技研修とかも別の日にするから参加してね。新人期間中はアタシがアナタたちのお手伝いをするようになってるから、困ったことがあったら相談しちゃっていいわよー♪ 楽しみにしてるわ♪」
なるほど、一対多だけど、ちゃんとチューターがつくのかぁ、とりのは感心した。ずいぶんと手厚い。
こちらの世界では、冒険者の存在は大切なのだろう。何といっても、魔獣退治を生業とする職業なのだから。
「さあ、じゃあさっそく説明に入るわよ~。た・だ・し、寝たりしたら……」
ボニーは皆の前に親指と人差し指をつきだした。その両指の間に、バチィィィッ! とすごい音がして、金色の電撃が走った。
うわあ……。
「ウフフ、アタシにバチってさせないでね~」
にっこり。
凄みのある笑顔に、一同の背がピーンと伸びた。
ボニーはまず、これから冒険者になるための手順について説明してくれた。
この研修が終わったら冒険者登録をし、依頼を受けることができるようになる。
ランクはウッドから始まり、最高位がプラチナ。ウッドランクのうちは見習い扱いで、実質ブロンズランクからが正式な冒険者になる。
ウッドランクは、ある程度の量と質の採取、それに軽い討伐で卒業できるようになっていて、たいていは冒険者ギルドが実施している新人研修に参加すればオッケーなんだそうだ。この研修は実地研修で、ダンジョンに行くらしい。現場でとっとと冒険者のイロハを仕込むということなのだろう。
新人研修に参加しなくても、知り合いの冒険者に引率してもらってもいい。これは冒険者ランクのアップグレードに必要な依頼なので、頼めば引き受けてくれる冒険者も多いという。
そうやってブロンズに上がってからは、自己責任・自主性が重視される。
これは冒険者だけではなく、冒険者ギルド自体にも言えるのだそうだ。
「冒険者ギルドはこの世界中に広がってるけど、どこの国にも属してないの。独立した組織になってるわ。各支部のつながりも、冒険者同士のつながりも、どこの国であろうと口出しはさせなくってよ! そのかわり、冒険者ギルドの掟は絶対。それを破れば、冒険者としての資格は剥奪されるから気をつけてね」
独立行政法人みたいな感じなのかな?
国が関わることが必要ない、というよりは、関わらせないというスタンスっぽいけれど。まあ実際はどうなっているのかわかりませんけどね、とりのは若干遠い目をした。建前は大事だし、その奥の本音と現実を見すえることもまた大事……。
冒険者として守るべきルールはいろいろあるが、冒険者殺しと、魔獣の押し付けはご法度。この二つは明らかになれば速攻で資格を剥奪されるらしい。
細かいルールは支部によっても違うので、拠点となるギルドを移った時は確認することが大切なんだそうだ。
そういうことをいろいろと話してくれた中で、りのが興味を持ったのは冒険者ギルドの銀行機能だった。
冒険者ギルドは、冒険者からの金の預かりをやっているのだという。
自分の口座に冒険者ギルドで稼いだ金を預けることができ、世界中どこの支部からでもそれは引き出せるのだという。
「そういうアーティファクトを古の時代の聖女様が見つけてくださって、それを利用して作られた仕組みなのよ。そのアーティファクトがあるから、膨大な数の冒険者の資金を管理できてるってワ・ケ」
ぶほっと吹き出しそうになるのを懸命にこらえる。
(ここでも聖女様かあ……ATМ的なのがアーティファクトで出てきたとかなのかなあ?)
気にはなるけど、それを知ったからりのに何ができるというわけでもない。
(大事なのは、つまり自分の口座が持てて、冒険者ギルドで預け入れと引き出しができるってことよね。そして、冒険者ギルドは独立性が高い……。うん、何かの時に使えるかもしれないなあ。たとえば商会や国からの振り込みはやってないのかな? あとでラウさんに聞いてみよう)
お金の管理は大切だ。りのはこの話を頭にとどめておこうと思った。
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