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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第315話 エビ退治の顛末


 真っ青の中にたたずむ金色の髪のエルフ。

 絵面だけ見ればたしかに美しい。美しいが。


(どっちかというとホラーなのでは……?)


 いぶかしむりのを置いて、カノンはどんどんと話をすすめていく。


「ほら、騎士団のトーナメントの時、すごく弱そうな試合してた二人がいたじゃないですか」

「ああ、元近衛騎士団団長と、元第一騎士団団長ね。お腹がたるんでるひとたち」


 カノンはけらけらと笑って、そうそう、うちのお父さんみたいなお腹の人たちです、と軽やかに言った。


「あの二人が慌ててエルフさんに、なんでこんなところにいるんだって怒鳴っちゃって。そしたらエルフさん、不思議そうに首をかしげて、サンダープローンの討伐依頼が出ているからですが、って。しれっと言うって、こういうことなんだなーって思いました」

「ああ……うん、目に浮かぶようだよ……」


 りのは再び遠い目になる。

 ラウとラギスロード元団長に面識があるかは知らないが、ラウのエーファ王太后への嫌悪感は並大抵のものじゃなかった。

 それを思えば、エーファ王太后の甥にあたるラギスロード元団長を煽り散らかすくらい嬉々としてやるだろうなあ、という感じだ。


「その二人、今、騎士団で訓練受けてるところなのに、なんでそっちに行ったんだろうね?」

「リシェが言ってたんですけど、その船着き場がおじさんたちの家のつくったやつで、案内のためについてきたとかなんとか?」

「へえー」


 アダンさんの読みはぴったり当たってたわけだ。すごいな。


「その時に、河……あれ河なのかな、反対側が全く見えなかったけど、そこから、びゅーんってものすごくおっきいのがとびかかってきたんです」


 カノンは箸を握っていない方の手を下から斜め上にしゅっと突き上げて動きを教えてくれる。


「転がってるのは赤いエビだったんですけど、それは真っ黒だったんですよ。赤いエビは私より少し大きいくらい? 二メーターくらい? だったんですけど、その黒いのは赤いのの倍くらいあって、すごい迫力で。そしたらエルフさんが、」



 おやおや、親玉が出てきましたね。

 私たち冒険者に倒すなというなら、あなたたち二人が倒すんですよね? どうぞ?



 りのは必死で笑いをこらえた。

 口の中にエビフライが入っているのだ、噴き出したら大惨事である。

 でもおかしい。

 言いそう、ラウさんめっちゃ言いそう、何それ面白すぎない!?


 ひくひくと痙攣するりのに、もーその時おじさんたちったら、口をかぱーんって開けて、あの小さい方のおじさんはカタカタ震えちゃってて、とカノンが追撃してきた。


「ちょ、ちょっと待って、おなかいたい……!」


 なんとかエビフライを飲みこんで笑いをこらえつつ。


「小さいほうって、第一騎士団の団長だったほうよね? 茶色っぽい髪にピンクの目の」

「そうそう、おじさんなのか子どもなのかよくわかんない人です。ええと、何て言うんですっけ、……とっちゃんぼうや?」


 りのは笑いで撃沈した。


「ラウさん、その黒いエビの方にどうぞーって二人を突き出しちゃって、自分はさっさと私たちのところに来て、あああなたが聖女様ですね、はじめましてーって。後ろで、おじさんたちがぎゃーとかひいーとか言ってるの、全く気にしてなくって」


 見たかった……すごく見たかった……!


「リシェとかローランとかもエルフさんと会うの初めてだったみたいで。エルフさん、二人にもきれいに挨拶してました。おじいちゃんやローランの護衛で来てたおじいちゃん、アシルさんって言うんですけど、その人たちとは知り合いだったみたいです。それでみんなでわいわいやってたら、おじさんたち、こっちに逃げてきちゃって。それで、アディおじいちゃんとアシルさんがはあーってため息ついて」


 うわあ……。

 カッコよく倒して団長に戻せって言うつもりが、逆に倒せずに助けを求めて逃げてきたってことか。

 終わったなあいつら……。

 というかラウさん、そのつもりで親玉だけ残していたのでは……?


「二人が私たちのまわりに『防壁』張ってくれて、ラウ護衛を少し頼むぞって。で、すたすたすたって河の方へ行って、黒エビが飛び上がってばりばりばりーって雷を撃ったのをアシルさんが剣をこう、びゅんって振って、真っ二つにしちゃって!」


 カノンが箸をふりまわす。

 カノンちゃんお箸ふっちゃだめよー。

 あ、ごめんなさい!


「それで、その隙に河のぎりぎりまで行ってたアディおじいちゃんが土の魔術で黒エビを固めちゃって」

「え? 固める?」

「そうなんです、岸の方からこう、鎖みたいに土を生やして……伸ばして? それで黒エビのハサミをぐるぐるーってして、吊り上げちゃったんです」

「すごい!」

「でしょ!?」


 臨場感たっぷりのカノンの話は楽しい。

 きゅうりとエビの酢の物の甘酸っぱさを味わいながら、りのはわくわくと次を待つ。


「そこに、アシルさんがこう、剣を魔力ですっごい大きくして。氷の魔力だったと思うんですけど、気合一閃! って感じで剣を振り下ろしたら、黒エビがタテにすぱ――――んって! 真っ二つ!」

「縦に!?」

「タテでした!」


 それはロブスターとかで見るやつでは? オーブン焼きとかのやつでは!?


「えー、なんかおいしそうだね」

「それが、黒エビは毒もちなんですって。こっそり『鑑定』してみたんですけど、食用不可って」

「そっかあ、残念……」

「ですよねー。私も残念だなーって見てたら、エルフさんが、倒した赤いのの中からおいしそうなのを見つくろって、切り分けてくれたんです、お土産にどうぞって。こっちの貴族の人たちは食べないけど、私の国ではみんな大好きなんですよって言ってました」

「え、こっちではエビ食べないの!? だからチェル様たち、ピザパーティーの時に驚いてたのね!」

「みたいです。でもあのピザパって内緒だったから、アディおじいちゃんてばソワソワしてました」


 ふふっと笑うカノンの皿には、何本目かわからないエビフライ。

 エビフライといっても、しっぽのある一尾まるごとの形ではなく、切り身のフライだから(なにせ大きいので)、何枚目というほうが正しいのかもしれない。


 それにしても、サンダープローンの調達を頼んだのはガディア商会だったのだが、何も言わずに請け負ってくれたので知らなかった。かなりの手間と苦労をかけてしまったのではないだろうか。

 今度からはその辺も考慮してお願いしなきゃ、とりのは反省した。


「ねえリンさん、エビおいしいって広めたら、もっと手に入りやすくなりますかね?」

「なると思うよぉ、需要が大きくなれば供給も増えるだろうし。ただ、サンダープローンって珍しい魔獣なのかな? それともよくいる魔獣なのかな?」


 首をひねると、ラウさんが教えてくれたんですけど、とカノンがエビマヨを皿に取りながら教えてくれた。


「けっこうファニア大河にはいるんですって。冒険者ギルドには通常依頼でサンダープローン討伐があるくらいだそうです」

「ああ、確かにあったね、討伐依頼。それでなんで今まで広まってないんだろ、おいしいのにね。本当にふしぎだよ私は」

「あんまりチャレンジとかしないんですかね、こっちの人たち。食べたらおいしいのに。ラウさんも教えてあげればいいのにね」

「そうだねえ……」


 エビをいつでも食べたいから、広めるほうがいいんじゃないだろうか、そのためには何をしようか。

 そんな話をしながら、サンダープローン退治がカノンのトラウマになってはいないようで、少なからずりのはほっとした。

 血が青だったこともあるのだろうが、魔獣とはいえ命を奪うことに対しての忌避感はあまりなかったようだ。

 ラウがダンジョン体験プランを組み立ててくれているはずだが、さて自分はどうなるだろうか。

 なにせりのは、まだ生きている魔獣を見たことがないのだ。


(私も、食材になるような魔獣なら大丈夫だと思うんだよね。羊の屠殺はトルコでお祭りの時にちらっと見たしな)


 でも、見ることと自分の手で屠ることは別物だろう。

 それに、たとえばゴブリンとか、二足歩行の、食べない生き物を屠れるかはまったくわからない。


 四十年生きてても、自分のことって案外わからないものなんだなあ、とりのは思った。



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