第314話 エビ尽くし
アラチェリアが帰った後、王宮の部屋をメリルたちに任せて、りのも聖女の屋敷へ戻った。
自室で、今日ガディア商会で買った布のチェックをしたり、セタとソワに教えてもらったことを書きつけたりしていると、頭の中にメールの着信音が響いた。
「あれ、カノンちゃん何かあったかな? 視察で何かあったとか?」
インベントリから慌ててスマホを取り出す。マナーモードにしていなければ、着信音は頭の中に直接響くということを教えてくれたのはカノンだ。マナーモードを解除しているときにりのからメールがいって、いきなり頭の中で音が鳴ってびっくりしちゃいました、と。
カノンからのメールを開く。
リンさん、エビいっぱいもらっちゃいました!
晩ごはんに持っていってもいいですか?
そっちに泊まる許可はとってまーす!
喜びにあふれた内容に、ほっと息をついた。
(うん、視察はうまくいって、誰も怪我がなくて、エビがいっぱい手に入ったことはわかった。今夜はエビ尽くしができそう!)
りのは、もちろんオッケーよーとハートマークとエビの絵文字付きで返事をし、周囲を片付けて一階のキッチンへ降りた。
いろいろ作るなら広い方が料理しやすい。
そろそろ日も陰ってくる時間だ、ちょっと急がなくっちゃ。
「リンさーん、ただいまー!!」
「おかえりカノンちゃん、一階にいるよー」
「はーい!」
せっせと下ごしらえをしていると、ころーんという可愛い音とほぼ同時にカノンの声がした。
たぶん「テレポート」で森の入り口から飛んできたのだろう。
台所に駆け込んできたカノンをさっと確認したが、どこにもけがはない。よかった。
「リンさんこれ見てください、すごくないですか!?」
カノンが両手で抱えていたのは、大きなバスケット、というか、ざるのようなもので、その中にスライム紙に包まれたものがどでーんと鎮座している。
「わあ、おっきいねえ」
「一番おいしいところだって、分けてくれたんです! リンさんと一緒に食べてねって! エルフ、初めて見ました!」
カノンは大興奮だ。
「ああ、ラウさんね?」
「ですです、ラウ何とかさん! すごかったあ、本当に耳長いんだもん、びっくりしちゃった!」
「ナマで見ると感動するよねえ、私も初めて会った時、エルフさんだー! って心の中で叫んじゃったもの」
あはは、とカノンが笑う。
話したいことがたくさんある、という感じだったが、りのはちょんとカノンのおでこをつついた。
「カノンちゃん、エビ天とエビフライ、どっちがいい? 料理法が違うから、今日はどっちか一つにしようと思うんだけど」
「それは……悩む……」
ぎゅっと眉根を寄せて真剣に考え込んでいるのがかわいい。
ちなみに白ご飯はありますかと聞かれたので、エビチャーハンにしようと思ってたんだけど、と答えると、じゃあエビフライで! と言われた。エビ天だったら白ご飯がいいらしい。チャーハンがあるならエビフライなんだそうだ。
「カノンちゃん、お風呂はご飯の後? 先? 準備はしてあるからどっちでもいいよ」
「ありがとうございます。え、もしかして二階の大浴場も?」
「もっちろん。っていうか私、ここにいるときは大浴場しか使ってないもの。『クリーン』さまさまよね」
「便利すぎてもう『クリーン』なしじゃ掃除できない気がします……あ、じゃあ私、先にお風呂に入ってきてもいいですか?」
「いいよー、私はご飯食べてから入るからゆっくりしてきて」
「ありがとうございまーす!」
元気よくカノンがキッチンから出ていって、りのはお土産のエビならぬサンダープローンをスライム紙から外した。
でかい。某アメリカの会員制スーパーで売っていた、まるごとの牛タンと変わらないサイズのものが三つ。
みっつ。
(ありがたいけど、食べきれるのかなこれ……まあいいか、マジックバッグに入れておけば)
そう思いながら、王宮に戻ったら一度、マジックバッグの整理をしなきゃだなあと心のメモに書きつけた。
今夜のメニューは、エビフライ、エビマヨ、エビ入りラタトゥイユにきゅうりとエビの甘酢和え、そしてエビチャーハン。和洋中入り混じる節操のないメニューだが、普通の晩ごはんだから気にせず、食べたいものを作ることにした。
もう少し時間があればエビ春巻きとかエビグラタンとかもしたかったが、それは後のお楽しみということで。
(んー、そろそろ揚げ始めてもいいかなー。ついでにコカトリスとかオークとかも揚げておこう。チキンカツにとんかつ~)
ふんふんと鼻歌を歌いながら、りのは夕飯作りを再開した。
「わあー、すごいエビ尽くし! 嬉しい! リンさんありがとうございます!」
「こちらこそ、持ってきてくれてありがとうね。さ、食べよう」
「はあい! いただきまーす!」
「いただきます」
さっそくカノンもりのもエビフライに手を伸ばす。さっくりさくさくの衣の下から、ぷりんとエビ、サンダープローンの真っ白な身がこんにちはして、食感の違いが楽しい。たっぷりとタルタルをつけながら、カノンが幸せそうに、んふふと笑う。
「おいしい~。あの空飛ぶエビ、おいしいなんて反則~」
「あー、私も聞いたよ、サンダープローンって空を飛ぶんだってね」
「飛ぶっていうか、トビウオみたいな感じでした。ぴゅーんって水面から飛び出して、バリバリバリーって雷打つんです。でもそれをおじいちゃんとアシルさんがすぱーんって!」
「サンダープローンに襲われたの? っていうか、ファニア大河までおでかけだったんだね」
そういうと、カノンは今日あったことを話しだした。
今日の授業の最後の枠は、本来は自由研究の時間だったそうだ。
普段は、それぞれに図書館に行ったり自習をしたり、クラブ活動に行ったりするそうだが、珍しく集団での予定が入ったのだという。
「それ、もともと決まってたことなの?」
「もぐもぐ……、いいえ、それが、昨日いきなりそういう予定になったって言われて。予定を入れてる子も多かったから、調整が大変そうでした。ローランとか、リシェとかも」
「そうなんだー」
これは学園内にもラギスロードの手先がいるんだろうなあとりのはラタトゥイユをかみしめながら思った。
トマトとエビの甘みが合わさって豊かな滋味になった。たまらないおいしさ。
かみしめつつカノンの話を聞く。
カノンたちは、ファニア大河に新しい船着き場ができたから授業の一環としてそこを視察し、実際にその船着き場から船に乗ってファニア大河を遊覧する予定になっていたらしい。
何台もの馬車に分乗してファニア大河まで行ったという。
「でも、途中でけっこう休憩とかが多くって、着くまですっごく時間かかりました。えー、また休憩!? って感じで」
「体の弱いお嬢様には堪えるんだろうねえ」
「で、ついたらなんかすごいありさまになってて」
「すごいありさま?」
「船着き場のあたりが真っ青だったんです」
「え? ペンキで青く塗ってあったとか?」
カノンはエビマヨを自分の皿にたっぷりとりながら、ふるふると首を振った。
「サンダープローンの血って、青なんです」
「ひょえ」
「何十匹もおっきなサンダープローンが地面に転がってて、頭とかだけがその辺にぽーんってあったりして、まあ血だらけだったんですよね」
そして、そのど真ん中に、長く美しい金髪のエルフが佇んでいたのだという。
彼は、馬車からおりて唖然とする騎士たちに、おや、もう退治してしまいましたよと麗しく微笑んで。
「映画かなって思いました!」
「ああうん……演出したのかもね……」
あの愉快犯エルフさんなら、ラギスロードをビビらすためにそのくらいはしそうだもんなー……。
りのは思わず遠い目になった。
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おかげさまでランキングの方にもお邪魔していたようです(ぶるぶる)
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!




