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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第313話 いろいろな思惑





「だから、チェル様はテオ君も実子と変わらない扱いをされていたんですね」

「そうね。かわいかったし。あの子、小さい時は本当に甘えん坊で、ロロに抱っこされるのが大好きだったの。ロロの手の中からフィンが抱き上げようとしたら暴れて、フィンの顎を小さな足で蹴り飛ばしたこともあるのよ」

「えっなにそれかわいい」

「ロロも、笑っていいのか喜んでいいのかよくわからない顔をしていて、それがまたかわいくてね」

「かわいい!」


 話をしながら、この人は本当にまっとうな家族の中でまっとうに育ってきたんだなあとりのは思った。

 体調が薬草茶で回復してきたと知らせたら、即座に同じような効能の薬草の束を送ってくる母親のいる家族だ。

 そういう家族のありかたをアラチェリアはきちんと知っている。だから、そんな自分の家族がしてくれたのと同じように、子どもたちを平等に愛し、手をかけてきたのだろう。

 家族を知らないフィンレーには、きっと大きすぎるほどの支えだ。


(だからこそ、チェル様が体調を崩したことで家族の形も崩れたんだろうなあ)


 そこにつけこんだダルクス一味のブレーンに、ますます不快感が募る。



「やり方が足りなかった、不足していたというよりは、量が足りてない感じはします。量というか時間というか」

「そうね……」

「話を聞く限りですが、テオ君自身が判断して、あえて周囲から大人を遠ざけていたこともあると思います」

「ガズメンディの糸を切りたかったのね」

「そう聞いています。自分は王になりたいと思ったことは一度もないのに、生母の実家はそれを押し付けてくる、と」


 ぎゅっとアラチェリアの拳が握りしめられたのが見えた。


「ダルクス一派が、王族の周囲に自派の者を入れていましたよね。まあダルクスだけではなく、貴族派の家の者達を」

「ええ。大分排除は進んでいるけれど、ロロの周囲にもティアの周囲にもいたわ」

「私、たぶんテオ君のところにもいたと思うんですよ」


 えっ、とアラチェリアが目を鋭くする。


「――今のあの子の周りには人自体が少ない。つまり、今ではなく、以前にいたと?」

「ええ。その者に、よからぬことを吹き込まれたんじゃないかって気がします」


 あなたはスペアだ。

 第一王子が生きていればいい。

 あなたは第一王子に仕える立場。

 第二王子なんだからこの程度の扱いは当然。


「それは」

「テオ君自身の望みと一致したところもあると思うんです。テオ君、お兄ちゃんのこと大好きだから。でも、その根っこにある『第二王子は軽視されて当然』っていう考えは、テオ君自身の考えとしては少し不自然かと」

「…………。」


 アラチェリアが考え込み始めた。


「どうして、そんなことをしたのかしら」

「ああ、それは……言葉は悪いですけど、テオ君って、ガズメンディ派以外から見るとけっこう邪魔なんですよね」


 ひゅっとアラチェリアの侍女たちが息を飲んだ。


「ダルクス派は第一王子に縁付きたいわけだから、王位継承権を持っている直系のテオ君は邪魔でしょう。ラギスロードは、同じ王の血はひいてますけど、正妃と側妃なら正妃の方が主流だと考えるんじゃないかと。それに、テオ君の賢さはちょっと異次元です」


 大人と同程度のレベルで政治の話ができる子ども。


「人間は、自分が理解できないものを恐れるといいます。その点、御しやすそうな第一王子殿下、王女殿下に比べて、テオ君は怖いでしょう。かといって排除するにはやっかいなことが多すぎる。ならば、」

「自分を軽視させて、操りやすくしようとしたのね……」

「テオ君、自分に害をもたらす人間をはじくことはできたんでしょう。でも、人材の補充はできなかった」


 結果、テオドールの周りは手薄になった。

 第二王子の価値は薄いと刷り込まれているから、それが当然だと思った。

 でも、


「賢くてもやっぱり子どもです。さみしかったんじゃないですか? お父さんお母さんとは会えない、お兄ちゃんには嫌われたかもしれない。そんな状況で、外に人を求める気持ちはわからないでもないです。だから王城の外へも出かけて行った」


 そうね、とアラチェリアはかすかなため息をついた。


「あの子が、王宮内のいろいろなところに顔を出していたのは聞いたの。わたくしの専属料理人の所にも行っていたし、屋内庭園の庭師たちの所にも行っていたみたい。あの子、ちょっと話をして、後はじっと彼らの仕事ぶりを眺めていたのですって」


 何とも切ない話だ。

 第二王子という地位にありながら、コックや庭師の仕事ぶりを見て寂しさや退屈を紛らわせていたなんて。


「これからは家族の時間をもっととるわ。顔を合わせていれば、ロロとテオも話をするきっかけになるでしょうし」

「それはテオ君喜びそうです」

「それに、教師も護衛騎士も真っ当なのを選ぶわ」

「特に魔術ですかねえ……さすがに自力で、見よう見まねで偽装の魔道具を作る子を野放しにするのは……」

「この辺りはユーゴ行きかしらね……」


 ユーゴ様の所、くせつよばっかりだけど、大丈夫かなあ。


「それ以外の歴史や政治などに関しては、私がヤン翁に習っているのを羨ましいと言ってたんですよね」

「まぁ、そうなの?」

「ええ、以前にそんな話をしたことがあって。一緒に習ってもいいんですけど、今はまずいでしょう?」


 すっとアラチェリアの表情が固まった。


「私とテオ君が、仲良く同じ授業を受けて、聖女が第二王子についたと思われれば、政治に影響が出ますよね」

「――かなり大きな影響が出るでしょうね……」

「ですので、一緒に習うとしても、第一王子殿下の立太子後、もしくは私やカノンちゃんと第一王子殿下の仲が修復されてからがよいかと。――いつになるかは知りませんが」


 しれっと釘をさして、ああそういえば、とりのは思いだした。


「そういえばチェル様、今日、ラヴァリエ卿がテオ君の護衛から外れた件なんですけど、第一王子殿下の視察のために護衛が必要だったかららしいですよ」

「――なんですって?」


 空気が一気に冷えた。りのは必死で薄い笑みを保つ。

 王妃ってすごいな、無意識でも圧が強い……!


「テオ君がそう言ってました。学園の行事の一環として、ファニア大河に新しくできた船着き場の視察に行っているとか」


 アラチェリアの目がすうっと細まった。


「メアリ、すぐに確認を」

「かしこまりました」

「レーヌ、すぐに背後を調べて」

「承知いたしました」

「あ、追加情報ですけど、ラギスロードが整備したほぼ自家用の船着き場だと聞いています」

「直言お許しくださいませ」


 レーヌと呼ばれた侍女がりのにきれいな礼を執る。

 彼女は、侍女というよりはアラチェリアの秘書に近く、公務や王宮に関するさまざまな仕事の調整を主に請け負っているらしい。


「かまいません。どうぞ」

「ありがとう存じます。そのお話は、どなたからお聞きになったものでしょうか」

「第三騎士団のヴァロ副団長からです。ちなみに、」


 りのは、にんまりと笑った。


「ヴァロ副団長より、ラハラン支部の副部長様へこの話がいっていると思います。第三騎士団より周囲の警戒という名目で急ぎの依頼を出すと言ってましたから」

「ラハラン支部の副部長様といいますと、ルフティアスライネン様でいらっしゃいますね」

「――えっと、たぶん?」


 ラウのことよね、とアラチェリアが補足してくれて、りのは頷いた。


「学園の行事であればアドレアン卿もいらっしゃいますし、護衛はラヴァリエ卿とお二人で十分だとは思うのですが、今、あそこはサンダープローンの群が押し寄せているそうなんです」

「サンダープローン……この間のピザパーティーの時に出た、あのおいしい海鮮!?」

「チェル様、食材ではなく魔獣でございます」


 レーヌが冷静に指摘して、アラチェリアはそう言えばそうね、コホンコホンと咳をした。

 りのは笑いをこらえる。気持ちはよくわかる。


「冒険者ギルドにもサンダープローンの討伐依頼が出ていましたから、討伐しつつ護衛もしてくださるのではないかと言っておられましたよ」

「ありがとうございます。大変調べやすくなりました」


 レーヌはにんまりと笑って辞した。

 その背を見送りながら、りのはアラチェリアに話を続ける。


「アダンさん、自家の船着き場ってことで、ラギスロード団長も、下手したらミラロード団長も同行しているだろうって。で、殿下の前でサンダープローンを退治して、団長に戻してもらおうとしたんじゃないかって言ってました。だからラウに先をとってもらおう、こんな面白い見世物ラウが逃すわけないって」


 アラチェリアは軽快に笑いだした。


「うふふ、おほほほほ、わたくしの方と合わせて、ラギスロードも削れそうで嬉しいわ! ローランの周囲も少しは静かになるでしょう! ヴァロ副団長には何か良いお酒を差し上げたいところね。マーガレット、用意しておいて」

「かしこまりました」


 やっぱり何か仕込んでたんだな、この人。

 まあこちらからつつくのは藪蛇になりそうだからいいや。



 それよりも、ラウさんがエビを倒したら、少し買わせてもらいたいなあ、とりのは内心でうきうきしていた。

 次はエビフライとエビ天の予定だ。




本日はここまで。お読みいただきありがとうございました。

ブクマ、★評価、リアクションありがとうございます。

少しでもお楽しみいただけますように!

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