第316話 みんなでおでかけ
ミラロード元第一騎士団長は、このエビ退治の後、正式に騎士団長を辞した。
名目は、領地に戻って兄の補佐をするため、となっていたが、それを信じる者は貴族にはいなかったようだ。サンダープローン討伐に失敗してみっともなく引退騎士にすがった話が広がり、身の置き所がなくなっての退職とみなされていた。
第一騎士団は、副団長だったフランク・アギレスが団長に就任した。
実力不足から団長に上がるのは難しいのではと言われていたが、元団長につき合う形で訓練に参加しており、往時の強さが大分戻っていたらしい。フィリベルからの許可も出て、副団長に復帰後、エスカレーター式に昇進した。
副団長の方は、近衛に復帰していたアシル・ラヴァリエが、臨時という形でその地位につき、団員たちをビシバシ鍛え上げているという。
一方、ラギスロード元近衛騎士団長は、そのすべての悪評と責任をミラロード元第一騎士団長に押し付けたが、噂からは逃れられなかった。
なんといっても、あの場には多くの貴族家の子どもたちが揃っていて、彼らがその姿をはっきり見ていたのである。
ローラン第一王子にいたっては、アーヴィン・ラギスロードのあまりの弱さに、「もっと精進せよ」と声をかけたそうで、それもまたアーヴィンのプライドを削ったようだった。
団長の地位にしがみつく形だが、今まで子飼いとしていた騎士たちからも、サンダープローンとさえ戦えない団長、と後ろ指をさされているらしい。
そんな屈辱的な状況で、いつまでその虚勢が続くか見ものだと、第三騎士団員には思われているそうだ。
「というか、アダンさんてばそこまで狙ってたわけ?」
冒険者ギルドまでの道を歩きながら、りのがじっとりと隣を歩く男を見ると、ちらりとこちらに視線をやったアダンがにやりと笑った。
もちろん「防音」はデフォルトでかけているので安心だ。
「さあな。どこまでうまくいくかは掴めなかったが、いい感じにおさまったんだ、別にいいじゃねえか」
「そりゃかまわないけど、怖いわあ」
「お前にだけは言われたくないな」
なんですと、と眉を逆立てる。
「まあまあ、二人とも、うまくいったんだからいいじゃないか♪」
「――ごきげんですね、ユーゴ様」
「んふふ~、だっていいことばっかりだもの!」
フロラン・ミラロードが引退し、第一騎士団が王家の手に戻った。
アーヴィン・ラギスロードが大きく勢力を弱め、ラギスロード家自体が王家からはじき出されかけている。
ユーゴだけでなく、アルフィオやもちろんフィンレーも、大分と仕事がしやすくなっているそうだ。
だからこそ、こんなに早くアトラロへ出かけることができるようになったのである。
本日は、いつもの三人にユーゴと、冒険者ギルドでゼノンと合流して、まずダンジョン訪問についての打ち合わせを行う。
その後、アドレアンとカノンがお忍びで冒険者ギルドへやってきて見学をした後、街歩きをしながら食事をし、バロチ工房へ行く予定だ。
最後に本屋へ寄って、城へ帰るというスケジュールである。
その行く途中で、先日の船着き場でのサンダープローン虐殺事件後の話を聞いていたというわけだ。
政治に関しては首を突っ込まないようにしてはいるりのだが、アダンはその辺りの情報を積極的に落としてくれるのでありがたい。
「それにしても、ゼノン君、本当に街中に出て大丈夫なんですか? 冒険者ギルドとかガンガン来る人が多そうだけど危なくないですか?」
あの美貌で、荒っぽい人間が多い冒険者ギルドに行ったら、誰かに目をつけられたり襲われたりするんじゃないだろうか。
りのが心配していると、ユーゴがけらけらと笑った。
「まあ基本、自分で『隠ぺい』かけてごまかすし、見破られて迫られても返り討ちにしてるから大丈夫だよ」
「返り討ち、ですか……」
「冒険者なんざなめられたら負けだからな」
「えー、修羅の世界……というか、ゼノン君、冒険者登録してるの?」
りのが知るゼノンは、研究に暴走しているか、その美貌で周囲をうっとりさせているかしかない。
そんなゼノン君が冒険者? と懐疑的なまなざしで見てしまう。ロゼリアが後ろからそっと、
「ゼノン殿は魔術師団に入る前に冒険者をしていた時期があるんです」
と衝撃的なことを教えてくれた。うぇ!? と思わず声を出すと、三人がおかしそうに笑う。
「ああ、リノアちゃんにはその辺を教えたことはなかったかな。ゼノンはアダン卿と同じで、先に冒険者として魔術師をやってたんだよ。あの子は子爵家の三男で、家を継げないんだよね。でもあの子にはそんなこと関係なくて、とにかく魔術を使いたい、追求したいってことで、冒険者としてダンジョンにこもりっきりだったんだ」
「ゼノンはファルマン公爵領の方の冒険者ギルドにいてな。俺はラハラン支部にいたが、美貌の狂った魔術師がいるって噂が聞こえてくるくらい有名だった」
ああ、あの美貌で、魔術も上手かったらそうなるのかぁ。
「僕はちょうどその時、魔術師団の立て直しに奔走してて、噂を聞いてサーギマダンジョンまで会いに行ったんだよね。そしたらああいう子で、これはいろんな意味で魔術師団向きだなってさ」
「ああ……いろんな意味で……」
くふくふ笑うユーゴに、りのは引きつった笑みを返した。
そうやって話しながら歩いているうちに、冒険者ギルドへたどり着いた。
朝一の依頼をとった冒険者たちはもう出かけているので、外も中も落ち着いている。
(あれ? なんか静かすぎない?)
いくら落ち着いた時間帯といっても何かおかしな雰囲気だ。
くるくる見回していると、酒場のスペースから、あーこっちですよーとご機嫌な声がした。
「うわぁ……」
「ええ……ユーゴ様、『隠ぺい』どこ行きました……?」
「はぁ……」
ユーゴが引きつり、アダンが深いため息をつく。
全員の視線の先には、ジョッキ片手にレバーペーストを楽しそうに食べている、ものすごい美貌の青年がひとり。
その周りの少し離れたところで、たくさんの人間が鈴なりになってうっとりとゼノンを眺めていた。
「ゼノン、『隠ぺい』は!?」
「えー、無駄ですよー、おれいつもこんな感じですもん、ここでは」
「ゼノンさんこんにちは」
「ああノアちゃん、こんにちはー。元気~?」
ゆったりと手を振って、笑顔を見せるゼノン。後ろでばたりと何かが倒れる気配がしたが、そんなんに構っている場合でもない。
ゼノンはほろ酔いという感じでうっすらと頬を染めて、美貌に色気が何割か増しで加算されている。
(うん、これはヤバいヤツ……)
りのはそっと、ゼノンに「ハイド」をかけた。姿をうっすらと隠し、存在感を薄くする方向で。
しばらくすると、鈴なりの観客からちらほらと離脱する冒険者が出て、少しばかり行動しやすくなった。
「ゼノン君、いっつもギルドの酒場で飲んでたの? お昼から?」
まあ気持ちはわかるけど、と思いながら聞くと、ゼノンは麗しい微笑みを浮かべて。
「だって、ダンジョンに潜ったらお酒は飲めないからさあ、潜る前に飲みためとくんだよね」
「えー……危なくないの?」
「酒を抜く魔術があるんだよ~」
「すっごく難易度高いけどね! はいゼノン、『状態回復』」
「ああー! もう少しふわふわしてたかったのにー!」
囁くようなユーゴの魔術で、とたんにしゃっきりしたゼノンががっくり項垂れる。
「さあさあ皆さん、落ち着きましたか?」
そこに現れたのは、やはりのエルフさん。
この状況を面白く見守っていたらしい。
相変わらずだなあラウさん、とりのは楽しそうなエルフにぺこりと頭を下げた。
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