第300話 お出かけの打ち合わせ
ピザパーティーの翌日、りのは心ゆくまでインドアを楽しんだ。
休みの日でもタイムスケジュールを崩さないようにしているので、いつもと同じ時間に起きたが、朝食は卵ご飯と緑茶でさっさと済ませる。
それからコンサバトリーのソファで、のんびり向こうの小説サイトのお話を読んだり、動画サイトで昔の漫才やコントを見たり。
お昼ごはんは、久しぶりにインベントリから向こうのお惣菜やパンを取り出してワンプレートに盛り付けた。クロックムッシュ、あんパンにカレーパンとウィンナードッグを半分にカットし、半分はしまう。ポテトサラダも添え、ストックしていたにんじんのマリネサラダを出した。合わせて昨日の宴でも使ったチーズもカットして並べる。昨日のフルーツの残りはガラスボウルへどさっと盛った。
それに、ワインと炭酸水、エルダーフラワーシロップとレモンとライム、それにサングリアの残りをテーブルにセット。
それらをちびちび食べたり飲んだりしながら、夕方までまったり映画を見た。
(んー、映画面白かったなー、またもう一回見ちゃおうかなー。でも夜はあの子たちと過ごす予定なので……ぐふふ……)
二階の大浴場で、夕暮れの街を眼下におさめながら、たっぷりのお湯に身を浸した。
夜は金色の神様のビールを開けた。食事の方は、ストックから出したからあげと白いご飯に卵スープで定食風にして、食後はハーブティーを飲みながら、ララの美しい布や絨毯を心ゆくまで眺めた。
至福をかみしめながらベッドに入って、りののオフは終了した。
「……で、なんで私のオフの過ごし方が見破られてるんでしょうかね……」
すっきりと目覚め、きちんと身支度をして第三騎士団へやってきたりのは、そこでいつも通りのロゼリアと、微妙な顔のライリーと、何かに納得したような顔のアダンに迎えられた。
そしてアダンにさりげなく、昨日も一日酒飲んでたのか? と聞かれたわけだ。
「まあ昼から飲んでたけど……」
「休みってのはそういうもんだよな」
「飲みすぎは良くないと思うが」
「リンは毎日飲んでいるわけではありませんからいいと思います」
「そうよねロゼ、毎日じゃないもの。というか、そういう団長はお休みの日は何をしてるんですか?」
「休みの日は、鍛錬をしている」
それ休みじゃないですよねー。
ジト目でライリーを見るが、ふしぎそうに見返されて、そういえばこの人街に遊びに行くとかもないんだろうなあと思った。
横でロゼリアもジト目だ。
ロゼリアは休みの日は甘いものを食べに行ったり、タウンハウスで姉たちとお茶したりするのが定番だと言っていたから、兄の無趣味さに思うところもあるのだろう。
それにしても、趣味がないのはあんまりよいことではないのでは? 人生もっと豊かにできるだろうに。
「アダンさん、団長に少し遊びの手ほどきをしてあげたら?」
ロゼリアがライリーにもっと他のことにも興味を、と説教している間にこそっと囁くと、ものすごく渋い顔をされた。
「遊び方は大人が教えるもんでしょ?」
「俺が普通に遊び方を知ってると思ってんだなお前さんは」
「四十にもなればそりゃあ……アダンさんだし……」
「お前さんの世界はどうか知らんが、こっちで遊び方っていうと夜の店で女遊び男遊びだぞ」
「あー、そっか、失礼しました……そういう遊びのことじゃなくて、普通の趣味の方です……」
向こうだったらもっと選択の幅があるけど、こっちはそこに集中しちゃうかあ……。
「こう、スポーツ……運動とか、趣味になりそうなものとかないの?」
「運動は団で鍛錬しているから十分じゃねぇか? あとは……煙草くらいか……?」
「あー」
ゴルフとかお酒とか、サイクリングとかキャンプとか。
向こうでは趣味になりそうなものは結構あるのだけれど、こっちでは難しそうだ。
「……今度団長の兄君に囁いておくか……」
「そうだね……」
手のかかる息子を眺めるような目で自分の副官と治癒魔術師に見られたライリーは、居心地悪そうに眉をひそめて本題に入った。
「カノン嬢から、お忍びの時に行きたいところが上がってきた」
「ああ、カノンちゃん。ええと、参加者はカノンちゃんとアディさん、私とロゼと、アダンさん?」
「ああ。団長でもよかったんだが、街に詳しい人間が一人いたほうがいいだろう。それにユーゴ師団長もだな」
「ユーゴ様? なんで?」
「護衛兼、その染め師の身元調査だ」
「ずるい。俺は行けないのに」
「ライ兄様、お静かに」
拗ねている団長は三人そろってスルーする。
ぴらりとアダンから書類を渡されて、りのはさっと目を通した。
「なるほど、カノンちゃんの希望は冒険者ギルドと市の坂、それに本屋さんね。じゃあお昼はこの間と同じように市場で食べようか」
「そうだな。あそこは休みってのはないから大丈夫だろう」
「じゃあそれで。それにしても、本屋さんかあ。私も用事あるから、カノンちゃんと行く前に下見ついでに行きたいなあ」
「本屋に?」
意外そうに聞いてくるライリーに、本屋というよりは写本師さんにお仕事を頼みたくて、と告げた。
「王城の写本師に頼めばいいんじゃねぇか?」
「私もそう思ってたんだけど、聖女関連の書籍扱いになっちゃうんだって。聖女関連の書籍の写本師さんは今、別の仕事でいっぱいいっぱいらしくって」
正確に言えば、ゼノン監修の更生プログラムに叩き込まれているので。
「ガディア商会の近くに、確か本屋があったな」
「そういえば、ウェスさんが言ってたね。あの時、コネ入社君に追い返された人たちが大きな本屋さんの人たちだったっけ」
「ディリエ書店だったか」
「ディリエ?」
拗ねていたライリーが口を挟んだ。
「ディリエ書店は大店だ。先代が凄腕の写本師だし、腕のいい写本師をたくさん抱えていたはずだ」
「詳しいんですね」
「兄と姉が本好きで、よく頼んでいたから知っている。我が家から話を通すか?」
「いえ、聖女とバレたくないので、普通にお店に行きます。お気遣いありがとうございます、ライリー団長」
わかった、とライリーはあっさり引いた。
アダンが宙を睨みながらスケジュールを組み立てている。
「下見に行くなら三日か四日後だな。書店以外に行く所はあるか?」
「ええと、ラウさんから来てねって手紙が届いてるから、冒険者ギルド。それからララさんのところと、本屋さん。――ああそうか、それならガディア商会も巻き込んだ方が早いかな?」
ガディア商会をバロチ工房に紹介するという話はアダンたちにもしていたので、三人も軽く頷く。
「もっと頻繁についていければいいのだが、サンドトロールの件でうちも少しつまっているから、一度で済めばそちらの方がありがたい。すまない」
「いえいえ、私も一度で済めばありがたいですから」
「じゃあガディア商会に問い合わせを出しておきますね。日程が決まったら工房の方にも連絡しておきます」
「ありがとロゼ、よろしくね」
淡々とスケジュールが決まっていく。
下見は、ディリエ書店に行ってからガディア商会とララのところへ。その後ウェスたちと別れて冒険者ギルドへという流れになりそうだ。
「リン、姉に、リスラン街においしいお菓子を出す喫茶店があると聞きました。行ってみませんか?」
「あ、行きたーい! リスラン街なら、冒険者ギルドからの帰りに通るよね? アダンさんいい?」
「はいはい」
「やったー!」
甘いものが似合わないという認識はあるだろうに、嫌な顔一つせず頷いてくれるアダンは本当にいい人だ。
「では下見はそんな感じでよろしくお願いします。じゃあ私、今からハイノ君の診察行ってきますねー」
ひらりと手を振ってロゼリアと部屋を出ながら、りのはその喫茶店の話を聞き始めた。
今日はここまで。お読みいただきありがとうございます。
ブクマ、リアクションもありがとうございました。
300話まで来てもなかなか進まないまったり進行ですが、楽しんでもらえたら嬉しいです!




