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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第299話 ダメな大人


 ピザパーティーの帰り道。

 何度通っても不思議な森だなあ、とカノンは歩きながら首をかしげた。

 普通の森のようだけど、どこか作り物のようなにおいがする。


「カノン様、どうかしたかの」

「ううん、なんでもない。ただちょっと、ここは不思議な森だなって」


 カノンの両親はアウトドアやキャンプが大好きで、カノンと弟は両親に連れられて森の中を歩くことも多かった。


「森って、もっと生臭いよね。いい匂いもするけど、なんかもっと生々しいっていうか。でも、この森はすっごくきれいで。鳥はいるのに虫はあんまりいないし、花は咲いてるのに下草はないし、道もきれいだし」


 ひとりごとのようなつぶやきに、隣を歩いていたアドレアンが、鋭いのう、とほめてくれた。


「この森は、精霊の管理下にあると言われておるからなあ、普通の森と違うのは当然じゃろうの」

「精霊かぁ」


 ファンタジーだなあ、とカノンは空を見上げた。

 お腹がいっぱいで、お天気がよくて、それだけで楽しい。


「おじいちゃん、ピザ、どうだった?」

「おお、うまかったぞ! あの釜、ピザ窯だったかの、あれが欲しゅうなったわ!」 


 同じように空を見上げてかかかかっと笑っているアドレアンの向こう側から、ものすごいイケメンがカノン嬢、と口を挟んできた。


「カノン嬢、あのピザ窯、魔術陣が仕込んであったようにみえたのだが、あれはあなたがたの世界のものではないのか?」


 えっと、とカノンはちょっとドキドキしながらきれいな顔を見上げた。

 こっちの人はみんな外国人みたいな顔で、すごくきれいな顔立ちと色をしているので、カノンは毎日ドキドキしている。

 リンさんはなんでこんなカッコいい人たちと平気で話せるのかなあ。


「あの、あの形は、私たちの世界のピザ窯と同じなんです。でも、魔術陣をいれて、もっと便利にしてるんだと思います」

「便利?」


 口を挟んだのは、黄緑色の髪のブルーノ。

 この人もすごくカッコいいけど、まだ親しみやすい。リノアにこき使われているのを見ているからだ。


「あのピザ窯って、温度をたかーくしないと、おいしく焼けないんです。で、温度を高くするのに、向こうでは数時間薪を燃やすんですけど」

「なんと。つまり、焼く数時間前から薪を燃さねばならんとな」

「だが、カノン嬢が火を入れたのは焼き始める少し前だったような……ああ、そこで魔術陣なのか」


 深い緑色の目に見つめられて、カノンは思わずアドレアンを盾にして、その目を避けた。失礼にならないように、自然を装って、言葉だけは続ける。


「みたいです。えっと、火魔術系の魔術陣と、後いくつか組み合わせてあったって、リンさんが言ってました」

「ふうむ。その魔術陣、たしかユーゴが見ておったのう」

「うん、すごいすごいって手を叩いて喜んでたよ」


 ユーゴもとてもきれいな人だけど、あの人は大人なのにちょっとどうかと思うことも多いので、それほど怖くはない。


「王妃殿下も喜んでおられたから、カノン様とリノアの許可がでれば、師団長が作るんじゃないか、ピザ窯」


お腹の下の方に響く低い声がして、ドキンとした。

この人も渋くてかっこいい。映画の俳優さんみたいだ。


「アダン、第三騎士団でもほしい。焼こう。リノア嬢が作り方を教えてくれると言っていた」

「本当か?」

「本当だ。俺の手伝いのお礼だと言っていた。丸い鍋でも焼けるらしい」


 堂々と胸を張っている。団長さん、何かお手伝いしてたっけ? 丸い鍋?


「丸い鍋って、フライパンだろ。は? フライパンで焼けるのか?」

「焼ける。リノア嬢が言っていた」


 団長さん、リンさんに対する信頼がすごいなあ。


「…………本当か?」


 でも、アダンさん、には信用されてないみたい。


「……まあいい、後でリノアに確認しておく」


 信じてもらえなくて、団長さんがすねている? ように見えて、アドレアンをちらりと見上げると、目が合った。

 軽く肩を竦められたので、やっぱりすねているらしい。

 その仕草も、日本人のカノンにはあまりなじみのないものだ。

 アドレアン自身も、カノンにしてみれば外国の人である。目の色とかきれいな緑だし。目の色は少し違うけれど、、顔立ちは確かに団長さんに似ているなと思った。

 その団長が、ちらりと後ろを振り返った。その目線の先にあるのは、聖女の屋敷、と呼ばれるようになった屋敷だ。


(名づけとしてはおかしくないけど、なんかヤなのよねー)


 とぼやいていたリノアをちらりと思いだす。


「リノア嬢は、あの屋敷にひとりで、寂しくないだろうか」


 その言葉を聞いて、カノンはちょっと笑ってしまった。リノアに限ってそれはないと知っていたからだ。


「侍女もメイドも護衛騎士も、側にいたほうがいいのではないだろうか」

「もう少ししたら王宮に戻るんだろう?」

「そう聞いてはいるが、今は不便ではないのだろうか」

「ぜんぜん大丈夫だと思いますよ」


 心配そうな団長に、カノンは軽く返した。


「そうだろうか」

「えっと、リンさん、お料理自分でできるし、掃除とかも魔法で一瞬だし」


 カノンも実感があるが、掃除が一瞬で終わるのは本当に楽だ。この魔法だけでも向こうに持って帰りたいと、リノアと二人でしみじみ語り合った。


「二人で住んどったときにも問題はなかったのか? 寂しゅうはなかったのかの?」

「別に気にならなかったよ」

「あんな広くて立派なお屋敷に二人だと、さみしくないですか?」


 ブルーノが心から心配してくれているのがわかる。カノンはそっちを見てにっこり笑った。


「二人の時は、一階と二階はほとんど使ってなかったから。三階にばっかりいて、そっちは自分ちと同じ感じだから、特にさみしくはなかったです」


 三階は、リノアとカノンの私室、それに二人が共通で使っていたリビングルームみたいな部屋と、ティールームとキッチンのみだ。

 私室にはお風呂とトイレもついていたので、のびのびできた。


「あ、お風呂だけは二階の大浴場使ってたな。外が見えて気持ちいいの」


 外が見えて、と団長さんが呟いている。あ、えっちなこと考えてる!

 ぎろりと見ると、慌てて目をそらされた。ギルティです! リンさんに言いつけます!


「それにリンさん、お部屋でだらだらするのすっごく好きだから、寂しいってちょっと思っても、すぐにだらだらして楽しんでると思う」

「それなんじゃがなカノン様、儂にはどうもリノア様とだらだらというのが繋がらんでなあ。あんなに行動的で、てきぱき仕事を片付けておるから、想像が難しい」

「そうだなあ、いっつもちょこまか動いている印象だ」


 アドレアンとアダンの言葉に、そんなことないよ、と返す。


「リンさん、オンオフの切り替えがすごいんだよ。仕事の時はバリバリするけど、お休みの時はすごいのんびりでだらだらしてるの」


 リンがオフで、カノンが学園に行っていた日があったのだが、帰ってきたら、リビングルームのソファに寝っ転がって、朝と同じ態勢で本を読んでいた。


「リンさんお昼ご飯は? って聞いたら、お酒とおつまみ食べたーって。それご飯じゃないですよね?」

「昼酒とは趣味がいいな」

「ほんにな」

「副団長もアドレアン卿も、ダメな大人じゃないですか……」

「何を言うブルーノ、昼酒はいいもんじゃぞ」


 その後は、本のかわりに布を出してきて、それを触りながらお酒飲んでました。

 晩ご飯は二人で作ってちゃんと食べたけど、その時もお酒飲んでて、幸せそうでしたよ。


 そう言うと、全員があきれたような顔をした。


「一日中飲んでたんですか、リノア様……」

「寂しくはなさそうだが、ダメな大人じゃねえか……」

「何言ってるんだ、アダンの休日とそう変わらないぞ」

「うるせぇ」


 わっはっは、とアドレアンが笑った。


「心配はいらんようじゃの。楽しんでおられるなら問題はなかろうて」




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