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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第298話 うたげの終わり


 双子の一人は母親のコラリー妃と共に亡くなったと聞いたが、もう一人の方については何も聞いていない。りのにだって、「もう一人は生きてますか」と聞かない程度の分別はあった。

 ただ、耳をすませてみても、もう一人の王弟に関する話は全く聞こえてこなかったので、少なくともアトラロにはいないだろうと思っていた程度だ。


「ふぇおれにあ」


 カノンが首をかしげているので、りのは、ミルリア大陸っていうお隣の大陸の南をナセリア地方って言うんだけど、そのナセリアの南端にある国よ、と補足する。

 ナセリア地方には三つの小さな半島が突き出ていて、東から順にパッシオ公国、フェオレニア王国、一番西が旧ミルトニア王国だったはずだ。


「へえ、遠い国なんですか?」

「そうね、急いで行っても三か月以上はかかっちゃうわね」

「三か月!」


 頭の中に世界地図を思い浮かべる。

 縮尺はそれほどはっきりしていなかったが、アトラロ内の移動を参考に考えると、とても三か月で行ける距離ではない。ということは、移動陣なりがあるということなのだろう。


(フェオレニアまで三か月、かあ……)


 コーヒーのためなら行ってみようか、と一瞬思ったが、三か月も旅をする億劫さを思うと、その気もしゅるしゅると縮んでいった。

 りのは、基本、家にいるのが好きなのだ。


「三か月も旅をするって大変そうですね」

「短い旅ならともかく、長旅は大変よ。わたくしも、実家のファルマン公爵領に帰るくらいしかしたことはないけれど。ファルマン公爵領は、サーギマ湖っていう風光明媚な湖のある漁で、楽しいダンジョンもあるの。ご興味があれば一緒に行きましょうね」


 アラチェリアが柔らかくカノンの好奇心を国内に引き戻している。


(まあ聖女が国外に出るって、大ごとだもんなあ……派遣であれ逃亡であれ、国内外に与える影響が大きすぎる。今はとても無理よねえ)


 りのとしても、どうしたって海外に行きたいわけじゃないし、何より。


(今の王家は、聖女をアトラロにとどめようとはしてないのか。本拠はアトラロに置いてほしいんだろうけど、国内の旅行は構わないって感じだねえ……)


 ではなぜ、聖女エイコの時の王家は、彼女をアトラロから出さなかったのだろうか。単に面倒だったのか、他に理由があったのか……。


 考えの波に揺られていると、ロゼリアがリン、と話しかけてきた。慌てて思考を現実に引き戻す。


「え、あ、ごめんロゼ、なあに?」

「こおひい、という飲み物が、好きだったのですか?」

「好き、そうね、大好きよ」


 いろいろな豆や煎り方、挽き方に入れ方を試してみたくらいには好きだ。上には上がいっぱいいるので、詳しいとはとても言えないが。


「でも、味がおいしい、好きってだけじゃなくてね、コーヒーって、ものすごく目が覚める飲み物なの。だから、仕事が忙しい時とか徹夜の時とか、とにかく目覚ましになるのよね」


 目覚まし、とユーゴが呟くのが聞こえた。


「朝起きて目を覚ますのに飲んで、お昼に飲んで、仕事しながら飲んで。夜眠れなくなるから夕方以降は飲まないようにしてたけど、徹夜の時は逆にがぶがぶ飲んでたわ……」

「リンさん、それ、体によくないやつです。けっこうしっかりカフェイン中毒じゃないですか」

「他のお茶も飲んでたし、そこまで行ってないとは思う……けど……」


 目線を明後日にとばしてカノンのジト目をガードしていると、ユーゴのなぜか気合が入った声がした。


「チェル、ヘルンへの次の定期書簡で聞いてみてくれる? 僕も興味あるな、すごく」

「わかったわ、私のほうで私的文書として送っておくわね」

「アダン、ラウにも聞いてみて。ラウはたしかあっちのダンジョンに潜ってたことがあるはずだよ」

「承知しました。冒険者ギルドでも聞いてみます。目が覚める飲み物があれば効率もあがるでしょう」


 あっヤバ。

 社畜どもが動き出した……!


 いいぞもっとやれ……!


 りのは百パーセント私欲で、心のうちわを振った。







 お茶とお菓子が切れたところで、食事会はお開きになった。

 のんびりと食事をしていたので、ルームツアーをする時間は無くなってしまったが、またの機会にということに。

 これから仕事に戻る人も多いだろうから、お酒を抜きたい方は魔法かけますよ~と言ったのだが、みんな問題ないらしい。


「リノア様、今日は本当にありがとう。とても楽しかったわ。それに、フィンたちだけではなくて、メアリたちにもお土産を頂いてしまって」


 りのの手をぎゅっと握ってアラチェリアが礼を言う。

 りのも穏やかに笑い返した。


「メアリさんとマーガレットさんには、本当にお世話になりましたから。フィンレー陛下とアルフィオ様にも、よろしくお伝えくださいね」


 アンティパストで出した五種と、焼きたてのピザ、それにジェラートと焼き菓子を、ユーゴのマジックバッグで持ち帰ってもらうのだ。


「二人ともとても喜ぶと思うわ。今度は私が食事会をするから、カノン様といっしょにお招きさせてちょうだい。大丈夫、今日みたいなうちうちのお食事会にしますからね!」


 きらきらと笑うアラチェリアの顔からは、疲れや淀みのようなものは感じられない。ストレスも少しは飛んでくれたのだろう。


「楽しみにしています。ユーゴ様、マカリア隊長も、ありがとうございました」

「こちらこそ、とっても楽しかったよ。外出の日程なんかは、ある程度決まったら相談させてね」

「はい、よろしくお願いします」

「リノア様、楽しい快気祝いをありがとう。命を救ってもらっただけでも嬉しいのに、こんな会を開いてもらって、とても嬉しかった」


 まっすぐなマカリアの言葉が気持ちいい。りのも、どういたしましてと素直に返した。



 アラチェリアの後は、第三騎士団の面々と、カノンとアドレアンが辞した。

 アドレアンの感謝の言葉もまっすぐで、マカリアによく似ていた。

 第三騎士団の面々とは気軽に挨拶をかわす。明後日にはハイノの検診もあるし、また街に行く予定もある。何度も共に食事をしているので、日常の延長という感じだ。

 それもまた、馴染んだ感じがした。


「リンさん、後片付け、本当にいいんですか?」

「大丈夫よ、もうメリルたちがほとんど片付けてくれてるし、家具の移動はブルーノ君やアダンさんが手伝ってくれたし、もうすることもほとんどないもの。それにカノンちゃん、明日学園でしょ?」


 そうですけど、ともじもじするカノン。かわいいなあ。

 りのはそれよりも、とカノンの顔を覗き込んだ。


「今日は楽しかった?」

「――はい! とっても!」

「私も楽しかったよ。カノンちゃんのおかげ、ありがとうね」

「こちらこそ、ありがとうございました。またしましょうね!」

「そうね、次のネタを考えないとだね!」


 第三騎士団の面々とアドレアンにがっちりガードされて、カノンは何度も振り返って手を振りつつ、王宮へと帰っていった。



 残ったのは、りのとロゼリア、メリルとイリットとレノア。

 いつものメンバーだ。


「皆お疲れさま! お待たせしちゃったけど、食事にしてね」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

「あの、じゃあ私、先に行って準備してきます!」


 レノアが跳ねるようにキッチンに向かい、りのたちは笑いながら、それをゆったりと追いかけた。






 まだ陽が残っているうちに、食事と後片付けを終えたメリルたちをロゼリアの護衛付きで王宮へと送り出す。

 彼女たちの姿が森の中へ消えてから、門のところで見送っていたりのは、ほうっと深く息をついた。



 途端に静かになった屋敷には、森の中から囀る小鳥たちの声と、風の音だけ。



(さみしい、けど、こういうさみしさは好き)



 開放感がハンパないなあ、とりのは大きく伸びをした。



(片付けもメリルたちが全部やってくれたから、私がすることって残ってないんだよねえ。お風呂に入って、布や絨毯や織物を肴に晩酌しよう)


 その後は、ベッドの中で読みかけの異世界転生小説でも読もうか、それともサブスクで映画を漁ろうか。

 コンサバトリーのソファで星を眺めるのもいいかもしれない。

 星を眺めながら今日楽しかったことをゆっくり思いだすのは、きっととても穏やかでいい感じだろう。


 イベントの後の、一人きりの静かな時間を楽しむのもりのは好きだ。



(あー、面白かった! 楽しかったあ!)



 明日は一日、聖女の屋敷にこもりますと皆には伝えてある。久しぶりの完全なオフ。

 誰にはばかることなくだらだらする予定だ。

 イベントの後の、一日の休養は、いつものルーティンである。



「さあて、まずはお風呂かな」



 静かな屋敷へ、りのは戻っていった。




今日は私事にてお昼のみの更新です、すみません。

仕事が……もうすぐ世の中はGWだというのに……(遠い目)


お読みいただき、また★評価やリアクションもありがとうございました!

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