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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第297話 カフェがわりのよもやま話



「…………にがっ」



 ミルクジェラートにほんの少しかけた赤ワインのソースをすくってなめてみたカノンが、うぇっと舌を出した。

 ぷっとりのは思わず噴き出してしまって、カノンに恨めしそうにジト目される。


「ご、ごめ、かわいくて、つい」

「ふはははは、カノン様、酒は訓練するものですからの、そのうちおいしいと思えるようになるじゃろうて」

「もうおじいちゃんまで笑う!」


 ぷりぷりしているカノンをアドレアンがはははと笑い飛ばした。


「大丈夫よカノン様、わたくしも初めてワインを頂いたときは、どうして大人はこんなまずいものを喜んで飲むのかしらと文句を言ったものだわ」

「あたしはわりと最初から好きだったなー」


 お酒も甘いものも好きな女性陣は、風味豊かな赤ワインソースとミルクジェラートをゆっくりと味わっている。

 そこに、ちらりとマカリアに視線を流したライリーが、


「リアは初めて飲んだ時、まずいと大騒ぎしたと聞いたが」

「ええ? そうだっけ?」


 どうやらマカリアは本当に覚えていないらしい。


「ライ、それはお前たちが十にもならんときのことじゃろう?」

「はい、たしか」

「ああ、その話なら私も聞きました」


 無表情ながら幸せそうにジェラートを口に運んでいたロゼリアが、隣に座った兄たちをちらりと見る。


「カリスト兄様やフィリベル兄様、クララ姉様たちがワインを飲んでいるところにリア姉様がこっそり忍び込んで飲んで大泣きしたと」

「そうだっけ?」


 ロゼリアがマカリア隊長をリア姉様と呼ぶのは初めて聞いたなあ、とりのはベリージェラートを楽しみながら思う。

 それだけリラックスしてくれているなら嬉しい。かわいい。隙あらばかわいい。


「はっはっは、あやつらも十五になるかならんかの年じゃったろうになあ」

「? おじいちゃんはマカリア隊長の親戚?」

「ああ、そういえばカノン様には説明しておらんかったの。儂らティレル家と、マカリアたちのティトルアン家はもともと一つの家で、親戚づきあいをしておってなあ。ティトルアンの先代は儂の兄のようなもんじゃったし、ライリーやロゼリアたち兄弟と、マカリアやフィリベルたちはひとつの兄弟のようにして育ったんじゃよ」

「へえ~~」


 皆は、中庭に面したテラスからコンサバトリーの中に設置したソファの方へ移動していた。

 透明なガラス、ソファに座って上を向けば青空が見える温室に、みんな一様に言葉を失っていたのだが、ドルチェが運ばれてくるとそちらに意識が向いたようだった。


 このソファは、フィンレーからの贈り物である。

 何代か前の聖女がもたらした技術で作られたソファで、座り心地がいいから作らせた、ぜひ使ってくれと言われて、コンサバトリーへ設置した。

 すべすべした茶色の革で張られていて座り心地は良い。

 この座り心地は多分コイルスプリングのソファだろうなあ、と思っている。


(それにしては馬車の乗り心地よくないんだよねえ。サスペンションまで発展してないのなんでだろ、鍛冶の技術はあるのに。そもそもスプリングの技術が流出してなかったりするのかなあ)


 謎だなあと思いつつ、そのうち時間ができたら調べることリストに入れておいた。


「むう、やっぱり赤ワインのソースがないところの方がおいしいと思うんですけど」


 カノンがむくれてはジェラートで笑顔になり、忙しい。


「リンはどうでした? 初めてお酒を飲んだ時」

「私?」


 ロゼリアに話を振られて、どうだったかなあと考えてみる。

 りのの時代は飲酒や煙草にまだ緩さが残っていて、ちょっと詳しいことはカノンの教育上よくない……。


「私、家族や親戚にお酒の強い人が多くて、飲み方を教えてもらったの。初めは甘めのカクテルでお酒に慣れて、次にビール……エールに慣れて、そこからはいろいろ試してって感じで。だからはじめはジュースみたいな感じで飲んでたなあ」


 へえ、とカノンが頷いている。


「うちはお父さんが度数のすごい高いお酒が好きで、高そうな瓶を集めて喜んでました」

「ああ、ウィスキーとかかな。あれはおいしいよねえ……」

「おいしいんですか? 匂いかいだだけでうぇっってなりました」


 あはは、と笑う。りのも始めはそうだった。

 飲み方があって、アディさんが言ったみたいにちょっとずつ訓練することが大事かな、と言っておいた。


「度数が高い酒と言えば、ドワーフたちの作る火酒ですかのう」

「火酒」


 やっぱりドワーフなんだ!

 蒸留の技術はあるんだ!


「瓶に火を近づけると燃える酒と言われておりますな」

「あれはなかなかきついからなぁ……」


 アドレアンに続き、アダンも遠い目をする。ひどい目にあったことがあるのだろうか。


「ドワーフさん、いるんですか!?」

「いるよー、ネクス連邦はドワーフの国だしね」

「わたくしはお会いしたことはないのよねえ。でも手先が器用で、素晴らしい技術を持っている人々よ」


 マカリアとアラチェリアが言葉を繋げた。カノンの目がきらきらしている。


(わかるー、ドワーフとかエルフとか、ファンタジーの極みだもんねえ、わくわくするよねえ)


「いいなあ、いつか行ってみたいな、ドワーフの国!」

「――そうね、わたくしも行ってみたいわ。あら、お酒で思いだしたけれど、リノア様、ティトルアンのワインはどうだったかしら」


 さらりと会話が転換されて、まだ外国を訪問する話は早いのか、それともこれからもずっと無理なのかどっちだろうなあと思いつつ、りのはアラチェリアの話に乘った。

 アラチェリアだけではなく、ユーゴやアドレアンも加わって、会話はあっという間に外国の話から遠ざかった。


 まあ、今はいい。

 せっかくカノンの不信感がとれたところだ。

 これからどう言う関係になっていくかはわからないが、スタート地点で潰すのは両方にとってよくないだろう。


 ちょっと、不満なだけで。



 そこに、メアリたちが紅茶と焼き菓子類を持ってきてくれた。

 ジェラートとフルールの皿が下げられ、大皿に盛られた焼き菓子とラウル―ヘンの紅茶が並べられる。


「すごいわ、お菓子がいっぱい……!」


 アラチェリアの目がきらきらして、りのは一つ一つどんなお菓子か説明した。

 今日はフィナンシェとレモンサブレにシガレ。ちょっとイタリアンから離れたラインナップだ。


「リンさん、この紅茶、ラウル―ヘンですよね」

「そうよー。イタリアンだからコーヒーを出したかったけど、見つからなかったから」

「――そういえば、こっちでコーヒーって出てきませんね」

「探してるんだけどないんだよね……」


 思いだせば飲みたい。

 紅茶も大好きだし、緑茶も茶葉を向こうから持ち込めているから飲めるけど、コーヒーはないのだ。


「リンさん、もしかしてカフェイン中毒だったり?」

「う……言わないでぇ……カフェインというか、コーヒーが好きなの……」

「あー、カフェインとりたいだけなら紅茶でもいいんですもんね」

「こーひー? ってなんだ?」


 アダンが薄青の目をこちらに向けている。

 りのはコーヒーについて説明した。黒くて苦くて、でもとても香りのよい飲み物。


「黒くて苦いのにおいしいんだ?」

「リノア様は苦いのがお好きなのかの?」

「黒くて苦い……」


 頭をひねっていたアダンが、そういえば、フェオレニアだったかパッシオだったか、あっちから来た冒険者が、そんなことを言っていたような……と顎を触りながら記憶を探っている。

 なんですと……!?


「アダンさん! それほんと!? フェオレニアとパッシオって、ナセリアの南の端の国よね!?」

「あ、ああ、そうだが、ちょ、お前、」

「ねえどんなのって聞いた!? 黒くて苦くて、香りは!? 香ばしい感じ!? どんな飲み方するって!? どんな材料で作るの!?」

「わかった、分かったから待て!」

「わあー、リンさんがアダンさんを押し倒そうとしてるー」

「コーヒーの方が大事なので! さあアダンさん思いだして!」


 のしかかりながら催促する。

 コーヒー……!


「おやおやリノアちゃん、情熱的だねえ」

「あら、リノア様、フェオレニアに問い合わせてみましょうか?」

「ホントですかチェル様!」


 あっさりアダンの上からどいて、りのは今度はアラチェリアの方に身を乗り出した。


「ええホントよ。フェオレニアには、フィンレー陛下の弟殿下が次期王配として嫁いでおられるから、問い合わせできるわよ」




 なんですと!?




今日はここまで。読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク、リアクションもありがとうございました。どうかお楽しみいただけますように!

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