47.お見舞い
マスコミに騒がれても困るしなぁ。こっちにも落ち度はないとは言い切れないし。
そうだ、無かったことに、しよう!
その日の夕方まで、能口達は一、二年生達と練習の汗にまみれた。
夕方、監督は少し意外そうな顔で能口たちを見ていたが、教育委員会に直接抗議に行った事については何も触れなかった。
監督の説明や報告は、キャプテンの予想とほぼ同じだった。
マスコミには報道管制が引かれて、これ以上は記事やニュースとして扱わない事が決められた。暗に、南洋第一の野球部員が大挙して押しかけた事も、うやむやに処理されるらしい。
イヌイの処遇について能口は尋ねたが、海浜との試合における記録は、すべて未公認扱いとされるそうで、試合結果だけはそのまま残されるということだ。
能口自身、18奪三振の記録が消されるし、海浜と当たった他の高校のピッチャーの記録の方がずっと凄いのに、未公認とは情けない限りである。
結局、イヌイと対戦した野球部は、みんなキツネに化かされたようなものであり、唯一正式に抗議した昭和の監督だけが、一人勝ちということになるらしい。
~ ・ ~
報道の騒ぎが静まり、能口はようやく尾形の連絡先を教えてもらった。
自宅の連絡先は変わっておらず、単に報道や抗議の電話を避けていただけらしい。
尾形は、外科の病院に入院していた。
病室で、暇を持て余している風だったが、能口の顔を見ると、パッと顔が輝いて見えた。
「よお、来てくれたのか」
「そりゃあ、まあな」
意外に元気そうで、能口も一安心である。
「甲子園には間に合うのか」
「俺が投げないと、昭和野球部はただ出場しただけ、になるからな。お前と似たようなものだ」
「はははっ」
愛想でも、そう言ってくれるのは能口にとってありがたかった。
南洋第一でも、2、3イニングなら甲子園クラスでも通用するピッチャーは二人ほどいる。
二人もいる、という言い方も出来るし、二人しかいないとも言える。
能口のように、地区大会を勝ち抜いて来た強豪相手に完投ペースで試合を造れて、しかも連投も可能というピッチャーはそう沢山はいない。
普通の、仮にも甲子園を狙おうという野球部なら、二人か三人のピッチャーを継投させて凌ぐ事を考えるだろう。
イヌイが登場するまでは、能口としては自分と同じレベルのピッチャーはこの尾形しかいないと思っていた。
他の奴に投げ負けるなどと考えたことすら無かったし、今の南洋第一の打線なら、九回までに一点くらいは取れるかも知れないとすら考えてもいたのだ。
その辺は、尾形も昭和野球部も同じだろうが。
「医者はいい顔をしないが、一回戦でリリーフ位は出来ると思うぞ。一度投げればすぐ感覚も掴めるしな」
「じゃあ、肩の具合は酷くないんだな?」
「ああ、ちょっと靱帯を伸ばしただけだ。大事を取って入院してるだけさ」
「そうか。安心したよ」
能口の笑顔に、釣られるように尾形も笑った。
「で、そんなこと言いにきたんじゃないんだろ」
「…」
能口の笑顔が、そのまま凍った。
「事情は?」
「大体、聞いた」
「それで、お前としてはどう思うんだ?俺の事、軽蔑するか?」
にこやかに笑ってはいるが、その目だけは鋭く光っていた。
「『強い奴が勝つんじゃない。勝った奴が強いんだ』俺は、そう教わってきた」
思い出すように、能口は呟いた。
「なんだ、覚えてたのか」
自分の顔に凍りついていた笑顔を溶かすように、強い口調で能口は言った。
「行けよ、甲子園。胸はって」
「ああ」
全て承知している顔で、尾形は頷いた。
勝ったやつが強いんだよ。
まあ、そういうことだ。胸張って行きなよ。
チーム全体のダメージが大きすぎるので、多分一回戦負けだろうけど。




