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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
翌日継続試合

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41/49

41.決着

 ナイス監督。選手たちの気持ちに寄り添って、勝つ事よりも大切なことを教えたかったんですね?

 …いや、暴力で相手選手を傷つけてまで勝とうとするのは、教育的にどうなんでしょうね?

 まあ、あれは化け物だから、人間の感覚で闘っちゃダメだというのも分かるんですが。

 四番も敬遠し、2アウト満塁の局面を迎えた。

 五番バッターは、そのまま尾形が立った。

「結局、アイツに任せたのか。最後まで」

 フン、と鼻を鳴らしながら、キャプテンはうそぶくように言った。

 海浜のナインが集まってくる。

 円陣を組み、掛け声をかけ、散らばる。

 海浜、本来の守備位置に。

 ショートがキャッチャーの後ろにまわり、外野も内野も前進守備である。

 顔面にボールを当てた一塁手が、一塁のバックアップに回った。

「てめえを打たないと、甲子園行っても意味ねえからな」

 尾形は、辛そうな肩で、それでもバットを振り上げて叫んだ。

「…勝手にしろっ!」

 憎々しげに言葉を返すと、イヌイは本来の大きなモーションを起こした。

 苦痛にゆがんだ顔のまま、それでも思いっきり投げこんだ。

「きやがれ化け物っ…?!」

 待っていたとばかりにバットを構える尾形。

 しかし、ボールはストライクゾーンをはるかに超え、後ろのボードに当たって跳ね返る。

 走りだす三塁ランナー。

 だが、事前に構えていたショートがダイレクトにキャッチに、キャッチャーに投げ返す。

「来るなっ!」

 しかし、尾形がすでに叫んでおり、三塁ランナーは塁の途中ですぐに引き返していた。


「…考えたな。暴投を装ってショートのバックアップにかけたのか」

「しかし、もうこの手は使えませんね」


 ノーステップ、完全な手投げでイヌイが第二球目を投じた。

 キャッチボールの感覚であり、いかに腕が長かろうと関係のない棒球だった。

「あきらめたのかっ?」

 充分引きつけた尾形だが、黙って見送った。

 無理に打つ必要のない、完全なボール球と見切った。


「なんとか引っかけてくれれば、という所か」

「バッテリー、苦しいな」


 三球目、腕の出所を代えて、スリークォーターのように手投げを試みるイヌイ。

 右打者の尾形に向かってくるような球筋が、内角に入ってくる。

「俺のまねでもしてるつもりか?」

 だが、左で横手投げをしても、右打者にとっては自分の懐に入ってくるようなもので、別段打ちにくい訳ではない。

 足をオープンに開いて、尾形は思いっきり引っ張った。

 芯を食ったような快音を響かせて、ボールは高々と三塁の頭上に飛んでいく。

 飛距離は充分。

 だが、スライス回転がかかり、僅かにポールを巻いていった。

 球場中からため息が漏れ出た。


「僅かに内角に外してたな」

「あれだけ遅ければ、関係ないでしょう」

「まだ速球のイメージが尾形に残っていた所か」

「次は打ちますね」


 イヌイは、マウンドに座り込んで、左足首を揉みほぐし始めた。

 手の平がどんどん腫れてくる。まるで、グローブでも嵌めているみたいだ。

 不思議と、手に痛みは無かった。

 むしろ、投げ込む時の体重を乗せられない左足首の具合が気になった。

 うかつに投げれば、間違いなく暴投し、球はどこに投げられるか判らない。

 コントロールをつけた初球の暴投と違う。

 全力投球は、絶対に無理だ。

 それでも、一縷の望みを掛けて、足首を揉みほぐす。

 腕の長さが、この時だけは役に立った。

 動かしてみるが、ますます痛くなっているようである。

 沸きだしてくる汗を、なんとか腕で拭い、再びマウンドで構えた。

「頼む…」

 自分の体に言い聞かせると。

 ノーステップから、今度は下手投げで投げ込んでいく。

 しょせん手投げなので、球威は全くない。

 が、その長い腕から地面を這うようにして繰り出される球は、尾形の前で浮き上がってくるように見えた。

 だが、下手投げピッチャーの対策も充分に積んでいる昭和打線である。

 浮き上がった頂点を見極め、シャープにバットを振りきった。

 快音と共に、ボールは打者の真下に落ちて、スピンしながらキャッチャーの股の下を転がっていった。

「シ、シンカーか…」

 打つ瞬間、僅かに沈んだらしい。

 上手で投げていたイヌイが、下手投げの投手の用いる変化球のシンカーを投げられるとは思っていなかった分、対応が遅れたのだろう。

 もちろん、前の回までの変化球の切れ味とは比べ物にならないが。


「イヌイ、あと、一球だっ!」

 キャッチャーの声に、イヌイは頷く。

 再び、左足首を揉みほぐした。

 軽く振ってみて、調子を確かめる。

 一回だけなら、全力投球を支えてくれる。

 外れたら、もう投げられる球は持っていない。

 暴投まがいも、横手投げも、下手投げも、全部試した。

 もう、他に投げる球は一切ない。

 大きく足を上げて、思いっきり踏み込んだ。

 足に走る激痛を堪え、大声で吠えながら渾身の力を込めて投げ込んだ球は、ど真ん中の直球だった。

「それを待ってたんだよっ!」

 尾形も、待っていたかのようにフルスイングする。

 芯を食った、美しい快音を響かせて打球は一直線にイヌイの頭上に向かった。

 とっさに、反射的に上げた大きな手の中に、ボールが飛び込む。

 指が千切れそうになったが、イヌイは手放さなかった。

 手放したくないと願っていた。

 そして、願いはかなった。

 持てる球種も手段も、全て出し尽くして。

 最後の最後、渾身の一球。

 願いは、かないました。


 自分で書いていて、しびれますネ。

 いやぁ、こういうの読みたいんですよこういうのを。

 誰も書いてくれないので…(略)

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