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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
翌日継続試合

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40/49

40.本当に、素人の集まりなんだ

 ある意味、本来の野球になりましたね。

 本来の野球なので、実力差はモロに現れますね。

 昭和の九番打者に、代打が告げられた。

 昭和としては、この回で決めてしまうつもりらしい。

「1アウトだ、落ちついていけよっ!」

 キャッチャーが声を枯らして叫ぶ。

「代打なら、さっきまでの投球は関係ないな」

 能口の呟く先に、ベンチから身を乗り出してきた昭和の監督がいた。

 他のレギュラーのバッターは全員が出てきて、素振りを始めている。

 さっきまでのイヌイの投球のイメージを払拭し、自分本来のスイングを取り戻すためだ。

 観客席から見ても判る。

 甲子園常連チームらしい、鋭く豪快なスイングだ。

「こうして見ていても、プレッシャーかかりますね」

「ピッチャーのお前でも、そう思うか」

「ピッチャーだからなおの事です。グラウンドで戦っている連中や、イヌイにとっては厳しい圧力でしょう」

「正当な、野球としての作戦というわけか」

「それも、格上のチームが、格下に実力を出させないための作戦です」

 言い置いて、能口はマウンドのイヌイを見る。

 あのイヌイが、肩で息をしている。

 全く疲れの色など見せなかった、あのイヌイが。


 初球ストライクを見送った代打は、次のより甘い球を充分に引きつけて鋭く打ち込んだ。

 何とか三遊間に打たせて、ショートの守備範囲にしようとしたキャッチャーの配球を読み切って、右方向に決め打ちしたのだ。

 打球はきれいに一、二塁間を破って点々と転がっていく。

 ライトがゴロを捌こうとしたが、そのままトンネルしてしまい、あわてて追いかける。

 それを見て、バッターはすかさず二塁へ。

 やっと追いついたライトが、中継に入ったセンターまでようやく送球。

 セカンドに返ってきた頃には、もうランナーは足の泥を落としていた。

「代走!」

 同点のランナーとなるべく、足の速そうな代走が、二塁ベースに向かう。

 ワンアウト、ランナー二塁、一番から始まる好打順である。


「なんだあの弱肩は!」

「普通ならヒットで済むのに、なんでトンネルなんだ!」

 本当に、素人の集まりなのだ…

 南洋第一ナインは、いまさらながら自分たちを破った相手の本性を見せつけられていた。

 海浜のマウンドに、全員が集まる。

 外野に行っていた選手も含めて。

 今までそうしてきたように。

 ライトが、しきりに頭を下げている。

 しかし、イヌイも、誰もライトを責める様子はない。

 いつも通りに円陣を組み、掛け声をかけて再び散らばっていく。

 野球本来の守備位置に。


 イヌイが苦痛に顔をゆがめながら投げ込んだのは、外角低めのストレートだった。

 球速は、もう見る陰もない。

 いくら高い位置から投げていても、打者にとっては充分ついていける速さだった。

 きた球を、逆らわずに打つ。

 流れに逆らわず、綺麗に一塁線にはじき返す。

 痛烈なライナーが、一塁手を襲った。

 とっさに出したグラブを掠めて、打球が一塁手の顔面に当たって弾けた。

 ふらふらと高く上がる打球を、イヌイが懸命に追いかける。

 倒れた一塁手を飛び越して、そのままダイビングして素手でキャッチした。

 ばったりと倒れこんだが、ボールは放さない。

 飛び出していたセカンドランナーだが、ゆうゆうと帰塁。

 とにかく、2アウト二塁までこぎ着けたのだが…

「大丈夫か?!」

「おい、しっかりしろ!」

 右目を真っ赤に腫らした一塁手を、海浜ナインが取り囲む。

「君、交代しなさい」

 怪我の具合をみて、一塁塁審が、そう告げる。

「だめです。このままやります」

「しかし…」

「あと、アウト一つなんです。やらせて下さい!」

「お願いしますっ!」

「お願いしますっ!」

 一塁手の言葉に、他のナインも頭を下げる。


「海浜のベンチに、交代要員はいない。無理でもなんでもやるしかないだろ」

「よく顔面に当てたよ。下手だけど、あいつ根性あるよ。普通ならよけてる」

「あと一人、だが…」


 海浜の三番バッターがボックスに立つ。

 一塁手はレフトと交代したが、もうこの試合では守備は無理だろう。

 フライが飛んできても、片目では見えない。

 イヌイはじっと、手の中のボールを見つめる。

 そのまま、ずっとそうしていた。

「イヌイ…」

 キャッチャーが立ち上がり、そのまま脇に立つ。


「敬遠…イヌイが??」

 能口は、信じられない思いで見ていた。

 一球、二球と山なりの力ないボールがやりとりされていく。

「野球なら、当然だろう」

 キャプテンが、なにか悔しそうに呟いた。

「満塁にして、一か八かのアウトを狙う」

「だって、一点勝ってるんですよ?!」

「今のイヌイに、そんなもの関係ないだろう」

「でも、アイツ、逃げたりしたことなかったのに…」

 能口の目の前で、三番バッターが塁に歩いていく。

 四番も、同様に敬遠するようだ。

「なに、海浜の四番だってずっと敬遠されてきたんだ。これでおあいこだろう」

「だって…」

「次は尾形の打順か。代打を出すまでもないが、俺が監督なら代えるな」


 ファーストのモブ君、ナイス根性!君、最高だよ! 

 

 で、2アウトまで、なんとかかんとかこぎつけました。

 普通の野球なら、当然敬遠。

 敬遠?イヌイが?あのイヌイが?

 いや、敬遠です。

 だって、因縁の尾形君と2アウト満塁のサヨナラのピンチな場面で当たるじゃないですか…

 あれ、監督、まさか代打なんて出しませんよね?止めてくださいね怒りますよ?

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