39.変調
昭和の、文字通りに体を張った作戦が、一応成功。
さて、ここからですよここから!
…こういう展開が大好きです。こういうのを書くために物書きやってるようなもんです。
誰も書いてくれないので、自分で書いています。(オイ)
延長53回の裏。
イヌイのフォームが、明らかな変調をきたしていた。
いつもは大きく振り上げていた足が、上がらないのだ。
マウンドをなめるように滑らせて、足場を踏みしめる。
普段なら大きく回る腰も、そのままだ。
腕の力だけで、完全な手投げである。
ボールはすっぽ抜けたかに見えたが、打者の手元まできてフラフラと落ちてきた。
打順が、下位の八番からだった事もあり、打者はその絶好球を見逃してしまう。
「ストライク!」
思わず声を上げ、バッターが悔しがる。
急にモーションが替わったので、そっちに気を取られていたのだ。
タイムを取って、キャッチャーが駆け寄る。
他のナインも同様だった。
だが、そんなナインを大きな片手で追い払うような仕草をみせ、イヌイはニヤリと笑ってみせた。
みんなで円陣を組み、掛け声をかける。
「ガッチリな!」
「おう!」
ナインが散らばった。
いつもの前進守備ではなく、野球本来のポジションに。
キャッチャーの後ろにいたショートも、打者の前にいたファーストやサードも内野のポジションに戻る。
外野もずっと下がっていった。
「球が飛ぶぞぉ!」
「おう!」
「任せろ!」
グラウンド中に声が響く。
「イヌイ、どうしたんだ?!」
「さっきのプレイで、かなり怪我してたよな」
「まさか、それが響いて…」
「おいおい、それじゃシャレにもならんぞ」
「昭和の作戦が、それなりに功を奏したということだな。代償はあまりにも大きかったが、こりゃ判らなくなったぞ」
「棒球ピッチャーと、ザル守備の素人野球部…」
「イヌイっ!!」
能口の大きな声が聞こえたのかどうか。
イヌイは、観客席を振り返り、そして空を見上げた。
なにかを堪えるように。
二球目は、力の無い棒球だった。
狙い違わず八番打者はバットを振り切る。
久しぶりの金属バットの快音が響いた。
基本通りのピッチャー返し。
イヌイの脇を鋭く抜けていった打球は、必死に走ったショートのグラブを弾いた。
転がったボールをセカンドが掴み、一塁へ送球。
届かないままバウンドしたボールはそれて、ファールグラウンドへ転がった。
それをみて、打者は大きく一塁ベースを回り込み、二塁へ走る。
バックアップに走っていたキャッチャーが追いつき、二塁にカバーに入ったショートにダイレクトに送球。
タッチプレイになり、アウトを取った。
「よ、よくアウトに出来たな」
「打者の走塁ミスだ。最初から一塁止まりと思って走っていたのに、ベースをオーバーランして、さらに二塁にいくのは無理だ」
「キャッチャーのバックアップも速かったですね」
「ショートの守備もな」
「セカンドのあの肩はなんだ?」
「ファーストも、無理にでも取らなきゃ」
「やっぱりザル守備だな」
「まともなのは、四番キャッチャーと一番のショート位なのか?」
「だいたい、イヌイのあの投球は…」
「連続三振記録も途切れちまった」
「バカ、それどころじゃないだろ」
「あいつ、球を握れないんですよ」
「どういうことだ、能口」
「さっき踏まれたのが、腫れてきてますね。いくら肩や腕の力があっても、握力がないと力が伝わらないですから」
「そっか…もう時間の問題ってわけだな」
「まださっきまでの投球のイメージが残ってますから、すぐには打てないでしょうけど」
能口は、キャプテンにそう言うと、むしろさっぱりとした顔でイヌイを見つめる。
その最後を、目に焼き付けるように。
地味に、1番ショートと4番キャッターは上手いのです。
海浜の得点は、ほとんど4番が打っています。
普段はキャッチャーのカバーに入っているショートは(それも変な話なのですが)地味に上手い選手です。
あとは、数集め、寄せ集めですね。
でもね、こういう一般人が、意外に活躍するっていうのが、ちょっとした醍醐味だったりするんですよねぇ?




