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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
翌日継続試合

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35/49

35.やっぱり、ヤラカシやがった!

 南洋第一の選手たちも暇だけど、一般観客も暇な人が多いんですね。

 まあ、確かに、ここまで応援してきたら、ねえ。

 最後まで観たいですよね。

 海浜のマウンドに、イヌイが登る。

 応援席から歓声が沸き起こった。

 昨日のあまりにも長い試合で、疲れ切って帰った観客たちである。

 しかし、今日の試合を再び見にきたのは、野球が本当に好きだからだ。

 歴史的な瞬間に立ち会えるかも知れないという期待感から、足を運んだのだ。

 席は半分ほどしか埋まっていなかったが、応援は昨日と変わらない勢いだった。

 そんな観客に、イヌイは大きく手を振って応える。

 他のナインも、律儀に帽子を取って、深々と頭を下げていた。

「…まったく、まじめな奴らだよな」

「あいつらは、最初からあんな風だったよ」

 イヌイが大きなモーションから投げ込んだ球は、外角低め一杯のストレート。

 ストライクのコールに、歓声と拍手が起こる。

 昨日と、球威が変わらなかった。

 あっと言う間に、二番、三番と討ち取られていく。

 だが、さすがに四番打者は必死で食らいついてくる。

 二球目の大きなカーブに、タイミングを合わせきれず、ファールチップ。

 キャッチャーの後ろを守っていたショートが勢いよく走ったが、とても追いつける軌道ではない。

「あせんなくていいぞ。球は充分走ってる」

 キャッチャーが声をかける。

 昨日、イヌイの調子が良過ぎて、ほとんど守備機会がない守備陣である。

 キャッチャーは肩をゆさゆさと揺らして、ナインにリラックスするよう指示する。

 一方のイヌイは、ムカッとした顔をしていた。

 バットに掠めさせたのが、面白くないらしい。

 キャッチャーは、そんなイヌイには何の指示も出さなかった。

 黙って内角高め一杯に構える。

 イヌイは、バッターにボールを見せると、手を回して握りを見せた。

 指を二本かけた、ストレートの握りだ。

 そして、腕を曲げて自分の右肩を示し、ボールを通して見せる。

「あれって。次はストレートを内角高めに投げるっていう意味か?」

「…挑発のつもりか、天狗になってんのか」

 さすがにキャプテンはむかついたらしい。

 声に刺がある。

「い、いくらなんでもそこまで…」

「いや、ああいってピシャリと抑えこんだら、昭和のバッターは今日も打てなくなる」

「能口、そりゃいくら何でもヒイキしすぎだろ」

「連続三振の記録もあるし?自分からそんな不利になることしなくても」

 能口は、首を振って応えた。

「アイツは、そういう記録とかにこだわらないんじゃないかな」

「じゃあ、何にこだわってるんだよ」

「やっと手に入れたものにだよ」

「やっと、って?」

「本当の意味で、野球ができることさ」


 イヌイの三球目は、本当に内角高め一杯に来た。

 正真正銘のストレートだった。

「な、なめるな!」

 打席のバッターは、昭和の四番である。

 甲子園チームの四番である。

 それが、コースと球種まで示されて、打たないわけには行かない。

 だが、力一杯振ったバットが空を切った。

 ボールが急に、白い筋と化して見えなくなったのだ。

 同時に、乾いた音を立ててミットに納まる音が聞こえた。

「…て、手元で伸びるのか…」

 どんな速い球を投げるピッチャーでも、投げた瞬間の初速とミットに届くまでの終速には違いがある。

 この減速の差が少ないほど、打者の目には手元で伸びてくるように感じる。

 その落差が、全くないように投げ込まれたのだ。

「は、はえぇ…」

「…今の球、160キロ超えてんじゃねえか?」

「いや、まだ出てると思うぞ。ちょっとスカウトの人に聞いてくる」

 能口は、バックネット裏に向かう。


「165キロだって

「せ、世界記録で164キロだったよな」

「イヌイ…」

 確か、昨日400球以上投げたはずである。

 そもそも、人間の投げる速さの限界すら超え始めている。

 どこまでいくのか、恐ろしさすら感じる能口だった。


 延長52回の表、海浜の四番は敬遠された。

 昨日と合わせて、三打席連続の敬遠である。

 次の打者の時、思い切って盗塁を試みたが、ピッチャーは判っているかのようにウエストし、矢のような牽制球に刺されてあえなくアウト。

 昭和の監督が、珍しくベンチから出てきて、手を叩いて褒めている。

 悔しそうな四番バッターを尻目に、後続打者はきっちりと抑えられた。


 延長52回裏、イヌイの前に、5番の尾形が打席に立った。

 昨日の過酷な投球が響いているのか、肩を上げるのも辛そうで、バットを構えていない。

「やっぱり、無理だよ」

「なんで代わらないんだ、尾形の奴」

「また、演技か?」

「元気ならな。昨日の今日だ、バット振れないのに演技に意味あるのか?」

 海浜ナインの心配をよそに、尾形は構えこそしないものの、じっとイヌイを見据えている。

「何のつもりだよ、尾形」

 かっこよくないかも知れないと言っていたのは、このことか?

 だったら、いったいなんの意味があって打席に立ってるんだ?

 能口の、そしてイヌイの前で尾形は叫んだ。

「さあ、来いっ!手ぇ抜いたら承知しないぞ!」

 ボールを手で弄んでいたイヌイは、その言葉にキッと顔を上げる。

「判ってんだろうな、イヌイ!ここだぞ、ここ!」

 キャッチャーも、ミットをバシバシ叩いて構えて見せる。

 前の試合でキャッチャーに衆人の中でK.Oされたのを思い出したらしい。

「おうっ!」

 イヌイが、マウンドで吠えた。

「あぁあ、これで尾形の出てきた意味は完全に無くなったな」

「イヌイが手抜きか、手加減して緩い球を投げるかもしれない可能性がな」

 実際、イヌイは普段と代わらない、いや、普段以上に大きなモーションから思いっきり投げ込んだ。

 キャッチャーも、単純など真ん中ではなく、内角高め一杯を指示している。

 投げ降ろした剛速球が、糸を引くようにミット目掛け飛んでいく。

 その時。

 尾形がフラッとしたように、ホームベースに倒れてきたのだ。

 ガキッ…

 硬い物が破砕する、鈍い音を立てて、イヌイのボールが尾形のヘルメットを直撃した。

 そのまま、ばったりと倒れる尾形。

 ピクリとも身動きしない。

「タ、タイムっ!!」

 審判があわててタイムを宣告し、駆け寄る。

 昭和のナインも、海浜のナインも、あたふたと駆け寄せた。

 その中で、イヌイだけは、マウンドに立っていた。

 呆然と、立ちすくんでいた。

「お、俺、見てきますっ!」

「お、おいっ!」

 止める声など聞こえるはずもなく、能口はグラウンドに走り出していた。


 いや、ヘルメット被ってるからといったって、アレはマジで死ぬぞ?

 しかも、ストライクゾーンに自分で当たりに行ってるんだから、最悪退場まであるぞ?

 野球、をつけないで、普通にバカだろ?

 もしかして、連続三振記録の阻止かぁ??

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