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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
6回戦

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30/49

30.手玉に取る

 好投手同士の投げ合い。

 違うのは、尾形が好打者でもある、という所。

 次の打者にも、イヌイは変化球を織りまぜていった。

 昭和の三番バッターはかなりの強打者であったが、相手にもならなかった。

 外から入るカーブの切れは凄まじく、外への暴投だと完全に見逃した所に、アウトコース一杯に決まった。

 外角低め一杯のストレートは、スピードの落差について行けずに空振り。

 打者がスリーバントの構えを見せた所を、内角ギリギリに投げこんだ。

 打ち上げさせて、サード小フライ。

 四番打者に対しても、外、内とストレートを決めたあと、同じ軌道から外角に変化して落ちるスクリューボールで見逃しの三振に切って取った。

「完全に、怒らせましたね」

「そんな変化球持ってるなら、さっさと使えよな」

 投げ終わってベンチに帰る前に、イヌイは昭和のベンチの方を向いた。

 大きな片腕を伸ばし、指差した。

 その先には、グローブを嵌めてマウンドに向かおうとする尾形の姿があった。

「なにやってるんだ、アイツ」

「…挑戦を、受けて立つって感じ、ですかね」

「俺には、ただムキになってるようにしか思えないですけど」

 能口が呟いた先で、尾形は、イヌイに向かって指を立てて返してみせた。


 二回表の尾形の投球も、イヌイに負けず劣らずの好投球だった。

 海浜の四番に外角一杯のストレートを二球続けたあと、三球目に切れ味鋭いシュートを投げ込み、体をのけ反らせて三振を奪った。

「うわあ、去年よりまた切れがよくなってやんの」

 右横手投げの投手が、右打者に対して投げる外角の球は、見極めが難しい上に体から自然に逃げていくため、バットの先に当たってしまい、クリーンヒットが困難である。

 バッターボックス一杯に踏み込んで打たなければならないが、そこに内角をえぐるような鋭いシュートが投げこまれるとなれば、ボールへの恐怖感も手伝い、腰が引けてしまう。

 それでなくとも、同じ軌道からコーナー一杯に投げられる球種は、ヤマでも張らないとバットを振り切れない。

 バットだけはよく振れていた海浜打線であったが、中途半端なスイングになってしまい、三者三振に終わった。


「こりゃ、右打者しかいない海浜打線じゃ、手も足もでないな」

「一人、左打者がいるじゃない」

「どこに」

「イヌイ、左投げだろう」

「ありゃ、打者じゃない」


 五番を打つ尾形は、そのままバッターボックスについた。

 お返し、とばかりにバットを向ける。

 マウンドに上がる途中だったイヌイは、ムッとした顔で睨み返した。

「君、高校球児らしく、清々しいプレイをしないと…」

 見かねて審判が注意を促している。

「なんだ、あいつ」

 能口が、ため息をついて応える。

「だから、野球馬鹿なんですよ。それも、熱血野球馬鹿」

「…なんだそれ」

「俺、あいつとは少年野球の時、同じチームメイトだったんです。その頃から、あんな感じでしたよ」

「あんなって?」

「だから、終生のライバルとか、青春の血がたぎるとか、消える魔球とか…」

「ああ、なるほど」

 確かに、イヌイとはいい勝負になるかも知れないな。

 関係ない所で感心したキャプテンだった。


 高めの直球に大ヤマを張って、尾形はバットを振り回した。

 しかし、かすりもしない。

 完全に振り切ったあとに、目の前をスーっと通り過ぎていくボールが、コマのように回っている様子がはっきりと判った。

「投げやがった65キロ!」

「こ、こんな所で…」

 狙われたら、もうどうしようもない球である。

 だから、絶対に打てないと確信した投球だろう。

 これだけ遅い球が、落ちもせずにストレートの軌道を保つことなどあり得ない。

 普通の投手ならば、である。

 イヌイのようにはるかに高い所から投げ込むからこそ、できる芸当である。

 返されたボールを掴み、ニヤニヤと笑みを浮かべるイヌイ。

 顔に、打てるものなら打ってみろと書いてあるのが、能口の席からでもはっきり判った。

 今度は、尾形が悔しがる番である。

 判ってさえいれば、リトルリーグでも投げられないような絶好球だ。

 完全に、ふざけているとしか思えない。

 カッカと来ている所に、全く同じ軌道で150キロが飛んできた。

 今度は、ボールがミットに納まった後にスイングを始めてしまう。

 再びニヤニヤと笑いながら、イヌイが尾形の様子を見つめる。

「あいつ、完全に手玉に取ってるな」

「尾形、完全に頭にきてるよな」

「いや、あれは演技だ」

「なんで判る?能口」

「ああしておけば、又同じ所に投げこんで来るって読みさ」

「ちきしょう」

 能口の読みを肯定するかのように、尾形が叫んだ。

 イヌイが、三球目を投じる。

 それは、65キロの超スローボールだった。

 しかし、尾形は完全にそのボールを待ち構えていた。

「やられたっ、尾形の勝ちだ!」

 能口は思わず叫んだ。

 尾形は、充分に引きつけて、バットを振る。

 しかし、突然ボールが目の前から消えた。

「なにっ!」

 思いっきり振り回したバットに引きずられ、派手な尻餅をつく。

 あわててボールを確認しようとしたその目の前に、ミットに納まったボールがあった。

 振り逃げすらできない、完全な三振だった。

「オッケー!いいぞイヌイ」

 掛け声をかけるキャッチャーに、思わず尾形は尋ねた。

「な、なに投げたんだ今の」

「そりゃ、消える魔球さ」

 ただの山なりの棒球を、海浜のキャッチャーはそう呼んだ。


 スローボール、ですらない棒球を、そら来たっ!と認識させられる。

 冷静さが足りませんねぇ。

 65キロのスローボールは、実はチェンジアップです。

 同じフォームから150キロ超と、65キロが投げ分けられたら、そりゃタイミングが取れない。

 で、同じフォームから、ただの手投げ、棒球が投げられたので、手元でお辞儀します。

 チェンジアップは、それなりの上向きの回転数が掛けられているストレートなので、あまり落ちないんです。

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