27.尾形 均
フルネームで紹介される、本作品3人目の人物。
他の人物はすべて名前が出ません。
みんな、名前があって、生活しているんです。
それをみんなモブ扱い。
作者はひどい人です。
南東京地区予選決勝の球場は、大満員だった。
両校の応援団や全校生徒もそうだが、一般の観客もぎっしり詰めかけていた。
応援にも熱が入る。
「本当なら、俺たちがここで試合をするはずだったんだけどな…」
「それはもう言わないんだろう?」
部員の言葉を、キャプテンがたしなめる。
能口も同感と思いかけて、止めた。
勝ったチームだけが、この場に出られるのだから。
「よお、みなさんおそろいで」
通路から、昭和高校のユニフォームを来た男が一人、降りてきた。
「…尾形、なんでここにいるんだ?今日投げるんじゃないのか?」
能口は思わず立ち上がって、ライバルと呼ばれた男の顔を見つめる。
いや、今はもうライバル扱いされないだろうが。
一回戦敗退のピッチャーと、決勝まで進んだピッチャーの違いをひしひしと感じるだけだ。
「投げるよ。こっちに寄ったのは、ただのサボリ」
ニカッと笑う顔にはあどけなさが残るが、投げる球は紛れもなく一級品である。
「お前な、そういう油断してると、足元掬われるぞ」
「油断、じゃねえよ」
尾形は、グラウンドの方を見つめた。
海浜の選手が、ベンチの前でキャッチボールの練習をしている。
ひときわ高い、イヌイも脇の方で肩慣らしのピッチングを始めていた。
「お前に、試合前に会っておきたくてな」
尾形は、能口を真っ直ぐに見つめて、そう言った。
「俺に?」
「サンキューな」
南洋第一のナインが、一斉に尾形の方を見た。
「なにが?」
「アイツに、会わせてくれてよ」
言っていてキザだとでも思ったのか、顔を見られないようにソッポを向いた。
「な、なに言ってんだ?」
「…俺、ああいうピッチャー馬鹿と、とことん投げ合うの、夢だったんだ」
「はあ?」
「決勝で、お前とやり合えるのも楽しみにしてたんだが…」
言われるまでもなく、能口もそのつもりではあった。
南東京最強をうたわれた打線を、完全に封じ込めて甲子園への手土産にしてやるつもりだった。
そしてそれは、尾形にとっても同じだろうが。
しかし、もうそれは叶わない。永遠に。
「…お前の分もとことん投げるからな」
捨てぜりふのように言い残すと、階段を駆け上がって行ってしまった。
「なんだ、アイツ」
「失礼な奴ですよね…」
そのまま見送った能口は、名残惜しそうに自分の腕を見つめる。
「アイツも、野球馬鹿なんですよ」
余裕ある強者ぶり、まさにラスボス。
投げ合いは望むところ。絶対に俺が勝つ!




