25.よくもやりやがったな!
てめぇ、よくもやりやがったな!
ボクちんの必殺「鉛球」でお前の手首を、キャッチャーミットごと粉砕してやるからな!
イヌイは、さっきとは全く様子が違っていた。
右頬を腫らしており、腹も痛そうだった。
が、自分のキャッチャーを睨み付けており、その表情は気迫と険しさに満ちていた。
西智のベンチから飛んでくる野次も、監督の怒鳴り声も全く聞こえていない風だった。
大きなモーションから投げこんで行く球は、まるでバッターを殺すかのような気迫に満ちていた。
西智のバッターは、すでに監督が怖いのでは無かった。
イヌイの投げ込んでくる球の方が、ずっと怖かったのだ。
すごすごとベンチに戻る選手を、監督は見せつけるかのように殴り、怒鳴っているが、もうイヌイは見向きもしていない。
ただただ、自分のキャッチャーの方を、怒りで顔を紅潮させながら睨んでいた。
自分の怒りに任せて投げ込む球を、ことごとくキャッチするキャッチャーの方を。
試合は、海浜が追加点を三回と七回に加え、4-0で勝った。
イヌイは九回を投げきり、18奪三振、ボーク1の成績だった。
~ ・ ~
「あのキャッチャー、何者なんでしょうね」
南洋第一のキャッチャーが、帰り道で尋ねてきた。
同じポジションとして、気になるようだ。
「元野球部、というほど名前も知れてないですよね」
「さあな。ただ、イヌイに付き合って野球部を作ったのは間違いないだろうな」
「ええ」
「海浜の連中って…」
「なんだ、能口」
「馬鹿ばっかりですよね」
「…そうだな」
「片腕のピッチャー、試合でいきなり投手を殴るキャッチャー、グラウンドも道具もなくて、野球経験もなくて下手くそばかりなくせに、野球部に入ってしまうナインたち…」
能口は、思いっきりため息をついた。
「ほんと、馬鹿ばっかりですよね」
「俺たちと同じ、高校生だからな。若い時にしか出来ないことも、あるさ」
「キャプテン、なに“おやじ部員”みたいな事言ってるんですか」
「…ほっとけ」
「イヌイの奴、考えてみれば仲間同士で野球するの、今年が初めてなんですよね」
「…ああ、そうだな」
能口は、今日の試合の事をペチャクチャしゃべりながら後に続く仲間のナインを振り返った。
自分は、確かにいいチームに恵まれた。いい仲間に巡り合えた。
アイツは…
イヌイは、ようやく“いい仲間”に巡り会えたのだろう。
本人がどう思っているかは、判らないが。
(続く)
あ~コイツマジでめんどくせぇ…
頼まれでもしねえと、こんなもん付き合ってられねえんだがなぁ…




