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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
5回戦

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24/49

24.K.O

 集中力が切れちゃいましたね。こりゃ、ダメだね。

 バッターは手が出ずに三振を取られ、監督に殴られている間、イヌイは自分がそうされているかのように震えていた。

「2アウト2アウト!」

 キャッチャーが声を枯らして叫ぶ。

 次のバッターは、すでに腰が引けていた。

 イヌイの球に、ではない。

 三振を取られたあとの、監督に対してである。

 その様子が、イヌイにも伝わった。

 イヌイは、モーションに入ったまま動かなくなった。

 いや、動けなくなったのだろう。

「…ボーク!ランナー一塁」

 投球動作を途中で止めたと見なされ、審判がボークを宣告する。

「ラッキー!」

「ピッチャーボロボロだぞ!」

 すかさず西智ベンチから野次が飛ぶ。

「よおし、その気迫だ!それでいいんだっ!」

 監督も、オーバーな位の調子で大きく手を叩いた。

 一塁にいった選手も、心底嬉しそうだった。

 これで、殴られなくてすむからだ。

 その様子が、イヌイにも伝わった。

 朗らかな笑顔で、一塁の方を見ていた。

「…タイム」

 キャッチャーがタイムを要求し、マウンドに向かった。

 すかさず西智の監督が抗議に出ようとグラウンドを駆けだす。

 キャッチャーは足を止め、監督を睨んだ。

 監督も、足を止めてキャッチャーを睨む。

 そのまましばらく、睨み合いが続いた。

「君…」

 審判が声をかけた。

「すいません、すぐ済みますから」

 監督を睨んだまま、キャッチャーが応える。

 審判は頷くと、監督の方に歩いて行き、何か話しだした。

 監督も抗議しているようだが、キャッチャーはそれを無視してマウンドに歩きよる。

 仲間のナインも、マウンドに集まってきた。

「…イヌイ」

 キャッチャーは自分のミットを見せる。

 イヌイの目線が、ランナーからミットにむいた。

「このバカヤロがっ!」

 いきなりキャッチャーが、イヌイの頬を殴り飛ばした。

 渾身の一撃だったのだろう。

 イヌイの巨体が吹っ飛び、ナインを何人か巻き込んでマウンドの下の方まで倒れて転がった。

「な、なにやってんだ?!」

 能口も、キャプテンも、他のナインも。

 海浜の応援席や、イヌイを見に来た他の観客席も。

 猛抗議していた監督も、それをなだめていた審判も。

 景気のいい軍歌を演奏していた、西智の応援席でさえも。

 静まり返った。

 グラウンド内で、キャッチャーがピッチャーを殴り飛ばすなど、言語道断の事件である。

 こんな大観衆のなかで…

 ヌッ…

 そんな音がするような勢いで、イヌイが起き上がった。

 その下で、巻き込まれたナインが二、三人、じたばたともがいている。

 イヌイの右頬が、みるみる腫れ上がってきた。

「ウガアアァァ!」

 イヌイが、吠えた。

 静まり返った球場中に、その吠え声が響きわたった。

 まるで大型の獣が吠えているような声である。

 そのまま、キャッチャーに向かってバカ長い左腕を振り回した。

「うわっ、逃げろよ!」

 思わず能口は叫んだ。

 まじかでイヌイの左腕を見ていた能口は、その腕の破壊力をよく判っていた。

 あんなもので殴られたら、マジで死ぬ。

 だが、キャッチャーは逃げなかった。

 ミットで、イヌイの拳をがっちり受け止めたのだ。

 そのままイヌイの腕を引っ張るようにして、懐に入り込む。

 腕を取られ、よろけて屈みこんだイヌイの腹を目掛けて。

 強烈なボディブローが入った。

「グエエェェ!」

 そのまま、イヌイはべったりとマウンドに屈み込む。

 完璧な、K.Oであった。

 抑える事も止めることも出来なかったまま、呆然と突っ立っているナインを残してキャッチャーがすたすたと、審判と西智の監督の所に歩いていく。

「すいません、もう済みましたから」

 審判に頭を下げ、それから西智の監督の肩を叩いて耳元になにか囁いた。


「…自分のとこのピッチャーK.Oして、どうすんだょ」

 ふと我に返った、キャプテンが呟く。

「いや、どうもふっきれたみたいですよ」

 週刊野球人生の愛読者である、おやじ部員が感心したように応えた。

「バ、バカヤロッ!あんなやり方があるかっ!」

 能口が、憤りで声を震わせながら叫ぶ。


「殴り方も知らねぇのかクソじじい。選手を躾けるなら、もっと徹底的にやれよ」


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