20.週刊野球人生
五回戦開幕。
週刊野球人生…も少し、タイトル何とかなりませんでしたか?
いいんですよ、“いかにも”感さえ伝われば。
能口たち三年生は、本来なら夏の甲子園が終わった段階で、部活としては引退するのだが、就職や進学を目指す部員以外は、一、二年生の指導をかねながら部に残っている。
プロからのスカウトを待ったり、逆に自分から売り込みにいったり、入団テストを受けたりなど、学校が夏休みの間も部活は続けている。
とはいえ、甲子園へのキップを絶たれた今となっては、どうもやる気がでないのもまた事実ではある。
「おい、アイツら雑誌にのってるぞ」
「“週刊野球人生”にか?」
南洋第一のナインは、得意気に週刊誌を振り回す部員の周りにわらわらと集まってきた。
プロ野球の情報を主に扱う週刊誌ではあるが、人気リーグのチームがこの時期に独走態勢に入った事もあり、甲子園情報も連載特集として組んでいる。
部員たちは、普段はもっと若者向きでメジャーな「週刊ベースボール」や、ちょっとマイナーで専門技術も扱う「“野球やろうぜ”」を購入している。
が、その部員だけは「“週刊野球人生”」を愛読しており、他の部員からは冷たい目で見られていたのだ。
“おやじくさい”と言われ続けてきたのだが、ようやく報われた思いだった。
「どんな風に書いてあるんだ?」
キャプテンが、先を促す。
「“涙の力投!海浜のエースイヌイ”って感じです」
「いかにも、“おやじくさそうな”見出しだな」
「しょせん“週刊野球人生”だからな」
「そ、そんなことないって!ちゃんとインタビュー取ってるし、イヌイの経歴も乗っけてるし」
せっかくこの雑誌のよさを判って貰えると思ったのが、旗色が悪くなりそうで、部員は必死に抗議する。
「ちょっと、見せてくれ」
そのスキに、という訳でもないが、能口は部員から雑誌をかすめ取ると、ベンチに広げた。
すぐに周りの部員が取り囲んでしまう。
この辺りは、さすがに名門校だけあってチームワークがよく取れている。
「だぁぁ!俺が読んでやろうと思ってたのに!」
「お前が読むと、回りくどいんだよ」
雑誌を買ってきた部員の抗議を完全に無視して、能口たちは雑誌に目を通し始めた。
「奇形児として生まれて…小さい頃は、ずっと病院暮らしか」
「小学校には通ったけれど、よく苛められたのは、まあしかたないか」
「ガキどもって、無邪気だからな」
「おれらも、そうだけどな」
最初にイヌイを見た時、部員たちは誰もがものすごい違和感を思えた。
明らかに高校野球とは違う存在に対して、猛烈に抗議したことを覚えている。
それは、つまり自分たちも精神レベルの上ではイヌイを苛めた小学生達と変わらない事を意味しているだろう。
「よく泣くのは、その名残か?」
「苛められてたトラウマ?」
「そんなだから、当然リトルリーグにも、中学の野球部にも入れて貰えなかったようだ」
「じゃあ、どこであんなピッチング覚えたんだ?」
「一人で、壁に向かって投げ込みしていたらしい」
能口は、いつもイヌイがストライクゾーンにしか投げないことに気づいた。
壁に枠を書いて、そこに投げる練習しかしていないのだろう。
だから、ボール球を使うとか、打者との駆け引きとか、そういう発想がないのだ。
「高校でも、部活には入れて貰えずに二年間過ごした所を、新設校の海浜ができたので転入試験を受けて入ったらしい」
「なんで?」
「新しく野球部を作るためだって」
「…そこまでして、野球をやりたいか?」
「…いや、やりたいよな」
能口も、他のナインも、野球が好きだからこうしてグラウンドできつい練習に耐えているのだ。
野球が好きだから、一回戦でいきなり負けたショックをずっと引きずっているのだ。
「でも、野球部をつくるっていっても…」
「まあ、新設校だから、最初はなんでも手さぐり状態だろう?そのどさくさに紛れればできると思ったんだとよ。
クラスのみんなが賛成し、同情してくれて、頭数を揃えたようだ」
「じゃあ、前に偵察部員が言っていた“クラスの親睦を深めるため”とか言うのは…」
「全部、本当の事らしい。だから、アイツらがユニフォームもスパイクも持ってなかったのは、仕方がないんだ。寄せ集めの部活に、学校側も予算は組めない。
でも、こうやって勝ち進んでいれば、来年は正式な部として認められるし、人も集まるだろうな」
「じゃあ、あの下手くそな守備ぶりは…」
「まあ、部員のほとんどは未経験者だということだな。しかも、普段はグラウンドを使わせて貰えないので、近所の広場でできる練習しかしていないんだと」
「練習って…」
「キャッチボールと、手で投げた小フライとゴロを捌く練習と、あとは素振りだって。とにかく、ボールが遠くに飛んでいったり飛ばしたりする練習が出来ないんだ」
「俺たちは、そんな素人の集まりに…」
「…負けた、んだよな」
「それどころか、アイツらこのままだと甲子園行っちまうかもな」
「少なくとも、決勝まではいくだろ。準決勝の相手は、くじ運に恵まれて勝ち上がってきたような、あの西智高校だからな」
海浜高校の背景。どこかで説明…週刊誌で記事にしてもらうのが良いのでは?
実際にこういう専門週刊誌、ありますよ。
…さがせば。




