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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
4回戦

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19/49

19.敗北に納得がいった

 ネタが割れると、そんなもんです。

 結構、練習頑張ったんだけどなぁ。余計な作戦なんかいらなかったのになぁ。

 完璧を求め過ぎたのかなぁ。


 海浜のベンチに入ろうとして、能口は急に気後れを覚えた。

 考えてみれば、全く関係のない自分が、今戦っている最中のベンチに飛び込むのはどう考えても変だ。

 マウンドでもかいた事のないような冷や汗が、急に背中を伝ったような気がした。

「あれ、能口さん、ですよね?」

 入り口から、ヌッと現れた巨体に、能口は思わず叫び声を上げそうになった。

「…イヌイ、か」

「いやあ、嬉しいなあ、こんな所でお会いできるなんて…」

 森から抜け出てきた物の怪のように、入り口からなめらかに体を乗り出してくる。

 でかい。

 能口は決して背の低い方ではないが、その自分より頭一つ大きい。

 対戦した時は、背をかがめていつも泣いていた印象が強くて、大きい奴という印象を強く受けなかった。

 握手でもするつもりらしい、腕を伸ばしてきた。

 ながい。

 そして、太い。

 1mは有りそうな左腕を、大人の太股のような筋肉が取り巻いていた。

 失った右腕が、そっくりそのまま左腕に吸収されたようだった。

 右腕のジャージは、ブラブラと揺れてそこになにもない事を告げている。

 紛れもない、障害者だ。

 能口は、イヌイの手を握り返した。

 大きくてごつい手。

 豆をいくつも作り、つぶしてはまた作った手のひら。

 投手の、手だった。

 紛れもない、投手だった。

 俺は、こいつに負けたのか…

 能口の中で、ようやく自分の敗北に納得がいった気がした。

 同学年の投手、というよりは、憧れているプロ野球の選手に会ったみたいだ。

 どことなく、人間離れしている、それでいて自分が近づきたいと思っている人物。

 ちょっと、名残惜しそうに手を放す。

「イヌイ、あいつら、お前の投げるコースをスパイしていたぞ」

「えっ?」

 首を傾げるイヌイは、まるで巨人がそうしているような緩慢さだった。

「キャッチャーの構えるミットを見て、打者に知らせているんだよ」

「おい、イヌイ!守備につくぞ!」

 ベンチから声がする。

 海浜のキャッチャーらしい。

 よく掛け声をかけていたから、声を覚えてしまった。

「あ、ハイ!」

 イヌイは能口に頭を下げると、大きな体を持て余すようにベンチに戻る。

「審判に言うんだ!そうすればお前たちの勝ちだろ!」

 能口はイヌイを追ってベンチに入る。

 振り向いたイヌイは、朗らかな笑顔を浮かべて首を振った。

「おい…」

 その笑顔に、なにも言えなくなった。

 聞いていなかったわけでは、ないだろう。

 しかし、イヌイ自身にとっては、あまり関係ないようである。

 あくまでも、自分の野球を貫く。

 他の道など、知らない

 そう、背中が告げていた。

「不器用なヤツ…」

 立ちすくんだ能口に、声がかけられる。

「んにゃ、だれじゃね?ん?」

 海浜の監督らしい老人が、不思議そうに能口を見ていた。


 試合は、その後海浜の攻撃がつながり、着々と得点を重ねていった。

 東征のピッチャーのコントロールがつかなくなり、死球や四球が増えだしたのだ。

 五回には満塁からショートゴロの間に一点を取られた。

 七回は四番の2ランが飛び出して、一気に三点差を付けられた。

 東征のバッターは完全に戦意を失っており、バットすら振れないまま三振を重ねていった。

 海浜は8、9回にも一点を加えて、結局5-0で四回戦突破を果たした。


               ~ ・ ~


「勝っちゃいましたね」

「まあ、当然の結果だな」

 キャプテンが、さも知っていたかのように言う。

「スパイ行為がばれた時点で、東征の勝ちはなかったんだろうよ」

「あれだけピッチャーを揃えていたのに?」

「あれは、ただ頭数を揃えただけだな。いつか点が入る事を前提とした上での話なんだろう?」

「打てないと判った時点であきらめた?」

「それもあるし、俺たちや海浜にスパイ行為の事をばらされたら、学校の看板に傷がつくとでも思ったんじゃないのか」

「それで、わざと負けたと?」

「わざと、じゃないだろうけど、まあやる気はなくなるわな」

「イヌイたちと、大違いですね」

 能口は、考え深そうに言った。

「アイツらは、そういう考え方や発想がないんだろうな。だから、格好にこだわらないんだろう?」

「でも、そろそろジャージは止めて欲しいですね」

「学校側が放っとかないだろうよ。そういうメンツを一番重視するのは、選手じゃないからな」

 海浜のナインが、こっちを見て大きくお辞儀している。

 能口も、手を振りかえした。

「キャプテン、もし、俺たちがあのままスパイ行為を見抜けなかったら、アイツはどうしていたでしょうね」

「さあな。お前の言葉を借りれば、アイツは逃げたり避けたりしないんだろうから、まともに勝負して打たれてたんじゃないかな」

「…でしょうね」

 しかし、そういうことの出来ないイヌイが、これから先も野球を続けて行くことが出来るのだろうか。

 能口は、そうあって欲しいと願っていた。

 いつか、自分と同じ球場に立って、アイツともう一度投げあいたい。

 お互いに最高のチームを得て、チームのエース同士として戦ってみたい。

 あの長くて太い腕に、自分の腕を重ね合わせる能口だった。



                             (続く)


 そうか、なんでこんなに熱心に試合を見に来てるのかって。

 そうか、憧れてたのか、アイツに。


 いやいや、俺はアイツのファンじゃない。ライバルでありたいんだ!

 ライバルを研究するために観に来ているだけなのさ!

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