17.押されている
とりあえず、ツーシームのジャイロストレートで、力で押し切りましょうか。
喰らうがいい、必殺「鉛球」!
うん、誰も気づいていないねボクちんの必殺技…
海浜ナインが、再びマウンドに集まる。
内外野が全員集まるので、かなりのにぎやかさだ。
全員が円陣を組み、掛け声と共に散らばった。
守備陣形に、特に変更はないようだ。
相変わらずの、超前進守備。
スクイズ対策になっているのは間違いないが、外野に球が飛んだり転がったりすれば、ランニングホームランさえあり得るという陣形である。
初球は、内角高め一杯にきた。
待っていたかのように、東征のバッターがフルスイング。
やや振り遅れ気味にバットの根元に当たった打球は、フラフラと後ろに上がり、あらかじめファールグラウンドで守っていたショートが、がっちりキャッチ。
「2アウト2アウト!」
「おおっ!」
俄然沸き立つ海浜ナイン。
次のバッターにも、内角高めを初球から打たれた。
が、スイングが早過ぎて3塁への緩いファール。
二球目も同じ内角高めを、バットの根元に当てて、一塁へのファール。
ここでバッターの手がしびれたようで、治療の為にタイムが取られた。
「投げないな、あの65キロ」
能口が、残念そうに呟いた。
「必要ない、という場面ではないですよね」
「速球に的を絞ったスイングだからな。三振狙いなら、いつかは使うだろう」
「まあ、今までのピッチングで抑えられるなら、その方がいいんじゃないか」
「まあ、この場面で内角高めというのは、配球としてあってるよな。東征のバッターがことごとく当てにきてるから、力で押し切るならここだろ」
「同じ狙われるなら、打球が飛ばない分、速球の方がましか?」
「ザルの内野陣に打球処理させるよりは、スローボールで三振の方がいいと思うけどな」
「まあ、そうだな」
しかし、結局バッターは交代し、代打が告げられた。
なまじバットを振り切っているので、しびれ方が酷いらしい。
「俺たちも、能口の全力投球を打ちにいって芯を外したら、腕が死んでしまうもんな」
「からかわないでくださいよ、キャプテン」
しゃべっているうちに、代打も初球を打ち上げて、二回の攻撃は三塁に残塁という結果に終わった。
それにしても、東征のバッターはタイミングはともかく、投げるコースは事前に判っているみたいだ。
そうでなければ、あそこまで振り切れない。
バットの芯に当たらないのは、イヌイの投球が速さを増しているからだろう。
ボールを見て振っているわけではないらしい。
まぐれ当たりを期待してのことなのだろうが、どうも不自然だ。
なんだ…?
三回表の海浜の攻撃も、三者三振に終わった。
打撃に関していえば、海浜は素振り以外の練習はしていないようであった。
九番のイヌイは、バットすら振らなかった。
いや、バットを振れる体ではなかった。
片腕しかなく、肘から先が異様に長いその腕では、まともなスイングなど出来るはずもなかった。
その裏の回も、東征は押し気味に試合を進めた。
下位打線である八、九番は凡退に終わった。
が、前の打席で内野エラーで出塁していた一番バッターが、タイミング良くプッシュバンドを成功させ、一塁側に詰めていた内野手の頭上をうまく超えた。
当然の如く二盗、三盗塁を決め、2アウト三塁の場面を作る。
二番バッターが、ここでスリーバントを決行。
内角高めの、バントには難しい球だったが、ピッチャー前に転がすことに成功した。
イヌイがマウンドを必死に駆け降り、素手でキャッチした。
そのままキャッチャーにトスする。
滑り込んでくる三塁ランナーを間一髪アウトに仕留めたが、キャッチミス、トスミス、落球、どれでもアウトというタイミングだった。
あぶねぇあぶねぇ。こんな楽しい試合が、終わってしまう所だったゼ。
もっともっと、みんなと野球したいんだよ。まだこんなところで終わりたくないよ…




