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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
4回戦

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16/49

16.初ヒット

 あの練習を思い出せよ。決して打てないヤツじゃない。

 俺は東征の四番。今までの奴とは格が違うぜ!

 2回裏の東征の攻撃、四番バッターの金属バットに鈍い金属音が響いた。

 点々と転がる打球は前進守備のサードをかわすように転がり、イヌイの右脇を転がっていった。

 ドタドタとマウンドから走り降りたイヌイだが、右の腕が最初からない。

 逆シングルの長い左手を目一杯伸ばして素手で掴み、一塁に投げたが、間に合わずにセーフ。

 記録は内野安打、ヒットがついた。

 地方大会とはいえ、イヌイはこの大会通算で初めてヒットを許したのだ。

 四度目の無安打無四球試合の記録も、ここで途切れる。

「…うまいな、あのバッター」

「相変わらず球威に押されたけどな。どこに投げ込まれるか、読みがズバリ当たったな」

「それにしても、内野の守備がザルすぎる」

「あんだけ前進守備してりゃ、バンド以外の打球は正面にこない限り抜けるよな」

「塁間にいる外野を、もっと前に寄せれば?」

「小フライが取れなくなるんじゃないか?」

 南洋第一のナインにしてみれば、守備陣のお粗末さは目を覆うばかりである。

「ランナー、当然、走るよな」

「内野のザルさは、実証ずみだからな。送球がそれたりしたら、外野には誰もいないんだ。ホームまで返ってくるぜ」

「アイツ、あの球を投げるかな」

 期待しつつ、能口はイヌイを見つめる。

「…さっきの、65キロか?」

「読まれてると、まずいけどな」

 しかし、イヌイは次のバッターに65キロは投げなかった。

 外角低め一杯に、絶妙に制球されたストレート。

 しかし、バッターはまるで待っていたのように強振する。

 鈍い金属音と共に、打球が前に転がる。

 詰めていた内野手が、体を投げ出してボールを止めた。

 必死でボールを掴み、体制を立て直して一塁へ送球。

 間一髪、アウト。

 だが、初球エンドランのサインですでに走っていた一塁ランナーは、すでに三塁に達していた。

 本塁すら伺おうと、塁間の半ばまで達している。

「バックホームだ!」

 キャッチャーが叫ぶ。

 ファーストは一瞬戸惑った。今、サードに投げれば、ランナーを挟めるのではないか?

「早く!バックホーム!」

 再度の掛け声に、ファーストはキャッチャーに球を送り返す。

 それを見て、サードランナーは三塁に戻った。

「エンドラン崩れで、ワンアウト三塁か」

「でも、あのイヌイに初球エンドランを仕掛けるなんて、よほどバッティングに自信があるんだな」

「スローボールなら、盗塁は出来るからな」

「それに、3塁ランナーも、クロスプレイ覚悟で突っ込ますかと思ったけど、自重させたしな」

「送球ミスであわよくば一点、ってもくろんだんじゃないの?」

「それもあるけど、海浜のキャッチャーも冷静だったからな」

「東征としては、次にスクイズでも内野安打でも点が取れるから、無理しなかったんだよ」

「俺でも、そうするな」

 キャプテンが言った。

「東征のバッターは、とにかく当てるだけなら出来るらしいしな。相当練習したんだろう」

「…でも、俺たちが全く打てなかったボールですよ。それを、こんな短期間の練習で打てますか?」

「現に、打ってるじゃないか」

「じゃあキャプテンなら、練習次第であの球を打てるんですか?」

「…多分、当てるだけなら何とかなるんじゃ、ないか?現に打ってるわけだし…」

 キャプテンは、歯切れの悪い言い方をした。

 自分の打撃に自信が無いとは言わない。

 だが、こんな短期間であのイヌイの球を当てられる自信は、あまりなかった。

 自分たちと対戦した時は、イヌイは明らかに本気ではなかった。

 ビデオで研究した限り、あの投手はそう簡単に打ち込めるような奴じゃない。

 それを、東征の選手がフルスイングして当てているのは、彼らのセンスが自分たちをはるかに超えていることになる。

 確か、この前の練習試合で対戦した相手は、東征だったはずだ。

 大差で撃ち破ったあの時に比べ、選手が上達したとでもいうのか?

「どっちにしても、次で判りますよ」

 能口が、迷いを打ち消すように言った。

「何が、だ」

「俺たちより、東征の打撃が上なのか、それとも…」

「それとも?」

「イヌイが俺たちより、上なのか」

 能口の最後の言葉は、まるで祈りのようだった。


 自分たちを完璧に負かした奴が、他のチームに負けそうになる。

 もどかしく、悔しく、切なく、応援したくなるんです。

 そういうもんです。

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