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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
4回戦

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15/49

15.65キロ

 勝負所。一点取れば勝ち。

 気合入ります。俺が、決める!

 東征の三番打者は、自分の右手に出来た血豆をぎゅっと握ると、バッターボックスに立った。

 こいつを打ち込むために、どれだけの練習をしてきたのか、その手が良く知っているはずだ。

「さあ来い!」

 掛け声を挙げて、バットを構える。

「リー、リー、リー、リー!」

 サードのランナーも、プレッシャーをかけようと、盛んに声を上げる。

 ピッチャーの挙動をじっと観察しつつ、リードを大きく取った。

 隙あらばホームを陥れようという、気迫に満ちていた。

 イヌイは、バッターをじっと睨みつけた。

 ランナーの方は、見向きもしなかった。

 ゆったりとしたモーションから、一気に投げ降ろす。

 バッターは、練習してきた通り、投げるタイミングに合わせて前足を踏みならす。

 そうすることで、投げる瞬間を目ではなくリズムで取ろうという作戦だった。

 よし、ドンピシャ!

 スイングに入ったが、ボールが今までと違ってはっきりと見えた。

「スローボール!」

 目で追えない速球に合わせてバットを振っていたので、とても止められない…

 完全にバットを振り切り、一回転してしりもちをついた。

 パァァァン…

 今までとは明らかに違う、軽快な音を立ててキャッチャーミットにボールが納まった。

 今までの練習で、上から投げ降ろされる球を打つ練習はしてきた。

 最後まで目で追って打つ事は、確かに難しい。

 が、縦に大きく割れるカーブや、真っ直ぐな軌道から一気に減速して消えるように落ちるフォークとは違う。

 一直線の軌道しか持たないストレートである故に、どのコースに来るのかさえ判れば、予測してバットを振ることは可能である。

 あとは、リズムを合わせて、球威に負けないようにフルスイングすること…

 だが、それはあくまで「機械の投げる」速さを想定した練習だった。

 キャッチャーが、サードに向かって走り出した。

 スイングと同時にランナーが走り出していたが、球があまりにも遅いためにベース付近まで来ていたのだ。

 気づいた時には、すでに全速力で走ってきたキャッチャーが目の前に迫っている。

 塁に戻るまもなく、タッチアウト。

「よっしゃあ!2アウト2アウト!」

 キャッチャーの掛け声で、ようやく球場全体に意識と時間が戻ってきた。

 その球が投げ込まれた瞬間から、誰もが呆然としていたのである。


 三番バッターは次のボールを振ることなく三振で終わった。

 完全に飲まれている、といったようだった。

「…なんだ、今のは」

 ようやく、意識が戻ったように、キャプテンが呟く。

 能口は、バックネットに陣取っているスカウトの人たちをみた。

 以前に声をかけて貰った顔見知りを探す。

 いた。

「ちょっとバックネット裏に行ってくる」

 そう言い残し、狭い通路をできる限り急いで歩いた。


 2回の海浜の攻撃が終わった頃、スカウトに話をしにいった能口が戻ってきた。

「どうだった?」

「65キロ」

「はぁ?!」

「計り間違いかも知れないとは言っていたけど…」

 南洋第一のナインは、互いに顔を見合わせた。

 実際、能口自身、最初聞いた時には信じられなかった。

 イヌイの、普段投げてる球の速さは、150~155キロ位だ。

 試合後半だと、160キロ台も投げてくるらしいが。

「とんでもない高さから投げ降ろす上に、これだけ緩急を付けられたら、とてもタイミングだけじゃ打てねえな」

「機械相手の練習じゃ、限界があるってことか」

 改めて、自分たちが対戦した時は、イヌイはまだ本気で投げていなかった事を痛感させられていた。

「なあ、ピッチャーって、そんな球本当に投げられるものなのか?」

 キャッチャーが、自分の腕と能口の腕を見比べながら尋ねた。

 遅い球を投げると言うだけなら、小学生でもできる。

 だが、全く同じフォームで投げない限り、それは意味をなさない。

 当然、読まれたら狙い撃ちされるからだ。

 腕が長ければ、投げられるのだろうか、と言いたいらしい。

「…もしかしたら、な」

「なんだよ、一人で納得して。やっぱりあの腕の長さなら、出来るのか?」

「いや、腕の長さは関係ないよ。…やっぱり、練習の成果だろうな」

 能口は、自分に言い聞かせるようにして、球場を見つめる。

「もう一度、投げあいたいな、アイツと。今度は、お互い本気で…」


 ここでスローボールかよ…読まれてたらどうするんだよ。

 読めなかったよ、見たことない球だったよ。

 ランナー走っちゃって、刺されちゃったよ。

 勝てねぇ、桁違いの化け物だコイツ…

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― 新着の感想 ―
超スローボール、基本的に意表を突くだけのネタ球なことが多かったですが、近年打低環境に併せて流行りだしましたね。 よほど真芯を食わないと飛ばない分、外野フライを量産してます。
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