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ロンギヌス  作者: 白河・DG・夜舟
4回戦

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14/49

14.初めてのランナーを出しちまったわけだな

 もうチョイ短くカットしたいのですが、だんだん強敵になってきますので、上手い所で切れないのです。

 地方大会とはいえ、四回戦である。

 南東京の六十三校の中から、甲子園に行けるチャンスを残しているのは、僅か八校である。

 そして、この試合を勝てば準々決勝に名を連ねることになる。

 球場は両校の応援団や、一般生徒、父兄や高校野球ファンでほぼ満員の状態であった。

 海浜高校のナインは、今だユニフォームを着ていなかった。

 ただ、今までと違い、本当にユニフォームを造るのが間に合わなかったようだ。

 その証拠に、全員スパイクシューズを履いており、金属バットも人数分が用意されていた。

 新品のシューズを少しでも慣らしておこうと、海浜ナインは試合前にも係わらず球場をランニングで回っている。

「あいつららしいぜ」

「学校側も、さすがにここまでくると恥ずかしい格好させられないんだろうな」

 自分たちを負かした他所のチームながら、どうも他人のような気がしない。

 それでも、そのことをまともに認めるのも照れくさいのか、南洋第一ナインは互いに苦笑を浮かべていた。

 そんな彼らを目ざとく見つけ、足踏みをしながら海浜ナインが一斉に帽子をとって頭を下げる。

「バカッ、ヤメロよこっぱずかしい…」

「こうなったら、絶対勝てよ!」

「新品のスパイクで張り切って転ぶなよ!」

 照れ隠しと期待を半分半分にしながら、口々に声援を送った。


 海浜高校の先攻で始まったが、あっという間に三者三振に終わった。

「予定通りというか、なんというか…」

「相手校が真剣に取り組んでるっていうのに、相変わらず進歩のない打撃陣だな」

 そして、1回裏の東征高校の攻撃である。

 トップバッターは、前に出した足をしきりに踏みならして、リズムをとっていた。

 イヌイが振りかぶったと同時に、リズムが速くなる。

 投げると同時に、バットを振り始めた。

 チイィィン…

 バットを僅かに掠めて弾けたボールが、真後ろのバックネットに勢い良く突き刺さった。

「ファールボールにご注意ください」

 そんなアナウンスの声にかぶさるように、東征高校の応援団から拍手が沸き起こる。

「おい、当てたよ」

「ああ、まともにバットを振って当てたのは、あいつが初めてじゃないのか?」

 バントやカットで当てたことはあるが、きちんとフルスイングして当たったのだ。

 東征のベンチからも、歓声が沸き起こる。

 キャッチャーが、審判からボールを受け取ると、そのままマウンドに向かう。

 なにか話しかけ、肩を叩いてポジションに戻ってきた。

「なかなか巧い間の取り方だな」

 能口とバッテリーを組むキャッチャーが、感心している。

「なにいってんだ。たかが一球、ファールされただけじゃねえか」

「ピッチャー同士だもんな。やっぱりイヌイの方を持つか」

「そんなんじゃねえよ。俺はただ常識的に…」

 金属バットの快音が響いた。

 打球が一、二塁間に転がって行く。

 極端な前進守備を引いていた内野手は、反応できなかった。

 塁間を守っていた外野手が追いつき、打球を体で止めたが、手に取ろうともたついている間にバッターは一塁を駆け抜けていた。

「さすが東征のトップバッターだな。足が速いぜ」

「記録は…エラーか。普通ならボテボテのセカンドゴロだからな」

「まあな。でも、今のは良く当てたよ。球威に押されて長打にはならなかったけどな」

「とにかく、初めてのランナーを出しちまったわけだな」

「それと、今の打球をアウトにできない、内野を守っている外野陣の守備の下手さもな」

 海浜のナインが、全員マウンドに集まってきた。

 打球をうまく処理できなかった選手が、何度も頭を下げている。

 しかし、他のナインはそんな仲間を励まし、慰めている。

「随分甘やかしてるよな」

「そうそう。うちのチームならあんなイージーミスでもやらかしたら、即交代だもんな」

「いや、まずレギュラーで出てこないって」

「あんな奴が守ってたら、ピッチャーはたまらないぜ」

「いや…」

 能口は、それを否定した。

「あいつ自身、投げる事以外は全く野球になってないだろう?他の仲間を責める事は出来ないし、しないはずだ」

「…そうだな」

 だが、そんな仲間うちの結束と、試合の優劣は別の問題である。

「海浜の打線じゃ、一点取れるかどうかだろう。初回からピンチを迎えたな」

「どうするつもりだ?」

 海浜のナインが、マウンドを囲んで円陣を組む。

「がっちりな!」

「おお!」

 気合を入れて、各ポジションに散った。

 守備陣形は、全く変えてこなかった。

 誰も、ファーストも、ベースカバーにすらついていない。

「どうぞ走って下さい、ということか?」

 不思議そうに、キャッチャーが首を傾げた。

 自分なら、こんな無策な指示は出さないということのようだ。

「イヌイのモーションは、窮屈な上に大きいからな。ただ、牽制はまだ見たことないから判らないが…」

 能口も、そう応えつつも釈然としない気持ちだった。

 確かにクイックモーションで投げられるほど、イヌイは器用そうには見えない。

 しかし、そう簡単に得点圏にランナーを走らせていい道理もないだろうに…

 二番バッターが、ボックスについた。

 イヌイは牽制球を投げず、そのままバッターに向けて一球目を投げた。

 内角低めにズバリ決まって、1ストライク。

 バッターも一塁ランナーも、動いてこない。

「様子見、か?」

 二球目を振りかぶった時、ランナーがスタートを切った。

 バッターのバットは空を切ったが、キャッチャーがスローインの構えを見せた時には、すでにランナーは二塁を陥れていた。

「ふえぇ、さすがに東征の一番バッターだ。足が速いな」

「ノーアウト、2ストライクでランナー二塁か。踏ん張り所だな」

 東征の二番バッターも、タイムを取って素振りを繰り返す。

 勝負所と、感じ取ったようだ。

 サインを確認して、打席に入り直した。

「スリーバントもエンドランもあるな」

「どっちにしても、ランナーは三盗かけるぜ。さっきから守備陣形が変わっていない」

 イヌイは、まるでランナーなど最初からいないかのように、大きなモーションを見せる。

 二塁ランナーが走った。

 投げ込まれた三球目は、外角高め、コーナーいっぱいに決まった。

 完全に振り遅れたバッターは、しかしそのスイングでキャッチャーの送球を妨げる役割を果たした。

 送球の構え、だけで、ランナーは悠々と三塁に達した。

「ワンアウト、ランナー三塁か」

「まあ、バッターとしては最低限の仕事を果たしたという所だな」

 キャプテンが頷き、腕を組んだ。

「スクイズでも、内野ゴロ転がしても、犠牲フライでも、一点入るな」

「打順も、三番四番ですね」

「一点とれば、まず間違いなく勝てるからな」

「お前なら、どう守る?」

 キャプテンに尋ねられたキャッチャーが応えた。

「セオリーなら、回も最初だし、アウトカウントを増やすことが優先ですね」

「海浜の打線じゃ、そうも行かないだろう。満塁策を取って、ゲッツー狙いじゃねえのか」

「いや、イヌイは、多分そんな事思ってもいないだろう」

 能口が、少し強い声で言った。

「アイツは、多分逃げるとか避けるとか、そういう事は考えないはずさ」

「なんでそう言い切れる?」

 他のナインが尋ねた。

「あの不格好な体で、あれだけの球を放り込むんだ。わかるだろ?」

「いや?」

「アイツは、逃げたり避けたり出来ないのさ。多分、生まれつきな」

 乾、エラーとはいえ、初めて打たれました。

 そしてランナーが出ると、走られ放題、とバレましたね。

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