12.決着
いくら投手戦とはいえ、24回まで試合が硬直…
今のルールだと、翌日再試合になりそうですね。
当時はそんなものありませんでしたね。
その辛抱が、ついにきっかけを捕らえた。
打者が3巡目に入った24回の表、海浜のトップバッターがついに打球を捕らえたのだ。
ライト前へのクリーンヒットだった。
しきりにガッツポーズを取るランナーを尻目に、相手校はリリーフの準備をしていた4人目のピッチャーを送りこんだ。
次のバッターはバントで送ろうとして失敗、ピッチャーフライに終わった。
三番打者も内野ゴロを打たされたが、ファーストランナーがエンドラン気味にスタートしており、必死に走ってなんとか併殺は逃れた。
そして、今までの試合で唯一打点を記録している、海浜キャプテンの4番打者。
今までも、全く打てる気配はなかったが、データでは回の後半にいけば行くほど打率は上がっているようだ。
2アウトとはいえ、ランナー二塁。
ヒットを打たれると、点を取られる。
どうせ、一塁も開いているのだ。
監督からのサインは、「敬遠」だった。
「おい、敬遠だってよ」
「こんな打てそうもない四番にか?」
「まあ、判らなくもないがな。とにかく一点もやる訳には行かないからな」
キャプテンは、そう言って深く頷いた。
実際、作戦としては間違っていない。
相手校の監督も、そう思っていた。
こんなジャージ姿のチーム相手に逃げるような戦術を取ることに、後ろめたさはあったのだが。
「おい、敬遠か!」
「卑怯だぞ!」
「真剣にやれよ!」
珍しく海浜のベンチから野次が飛ぶ。
普段は味方への声援しかかけていなかったのだが。
そして四番バッターも、バットをピッチャーに向けて怒鳴った。
「勝負しろ!」
ピッチャーはいまいましそうににらみ返すと、監督の指示を扇いだ。
いくら急造ピッチャーとはいえ、まだ最初の対決である。
前のピッチャーが打たせなかったように、抑える自信はあった。
だが、監督はあくまで敬遠を指示した。
感情に流されて、試合を落としたくなかったのだ。
監督の指示に頷き返し、次の敬遠球も大きく外した。
その時である。
セカンドのランナーが、三盗を試みたのだ。
お世辞にも足が速いとは言えなかったが、その必死に走る姿に、キャッチャーも動揺した。
念入りに外された敬遠の球はあまりに遅く感じられ、捕球が遅れた上に、送球動作もバランスを崩した。
四番バッターがホームランでも打つような勢いで援護の空振りをしたことも、送球の狙いを惑わせてしまった。
ランナーを刺しにいったボールが、ベースカバーについたサードのグローブを大きくそれて、転々とグラウンドを転がっていく。
「回れっ!回れっ!」
「行けえっ!」
海浜ナインが、半ばベンチを飛び出して、必死に駆けるランナーに声援を送る。
ランナーが三塁を蹴って、ホームに駆け込んでくる。
ようやく追いついたレフトが、肩も抜けよとばかりに矢のようなバックホームを投げ込んだ。
だが、ボールが返って来た時には、もうランナーはホームベースに滑り込んだ後であった。
「やったあっ!勝ったあ!」
一斉に群がり集まってくる海浜ナイン。
応援席も、まるでお祭騒ぎのようだっだ。
揉みくちゃにされながら、生還したランナーは泣きじゃくっていた。
取り囲むみんなも、泣きじゃくっていた。
そんな様子を、呆然と相手校の選手が見つめていた。
応援席の、南洋第一の選手たちも、見つめていた。
「さっきの四番、勝負しろって言ってたのは、相手ピッチャーにじゃなくて、セカンドランナーへのサインだったんだな」
能口も、大騒ぎしている海浜ナインを見つめながら、そう呟いた。
「…そうだな」
キャプテンがちょっと悔しそうに、そしてちょっと照れくさそうに答えた。
「海浜、下手くそばかりだが、いいチームだな」
南洋第一ナインは、誰も頷かなかった。
そんな下手くそなチームに負かされた悔しさと、そんなことを認めたくない照れくささが、認めることを無意識の内に拒んでいた。
「…まるで、決勝に勝ったみたいな騒ぎだな」
「…俺たちだったら、地方大会で勝った位で、あんな大騒ぎしないよな」
だから、負け惜しみのような事を口にするしかなかった。
「…しない、んじゃないよ」
能口は、エースだったピッチャーは、そう呟いた。
「なに?」
「ただ、忘れていただけだよ。勝った時の喜び方を…」
(続く)
この勝ち方は楽しい。
みんな一生懸命にやって、策が実っての勝利。
負けた方はショックが大きいですね。
1点取られたら負けなんですから、3塁に向かうランナーを刺しに行ってはいけませんでした。
落ち着いて敬遠を続けて、ランナー1,3塁で次のバッターを仕留めておけば、事故は起きないはず。
だって2アウトなんですから、スクイズや犠牲フライはない。
監督か、キャッチャーは方針をもう一度確認しておくべきでしたね。
油断してはいけないのですいけないのですよ。




