11.リリーフ
予定通り、予定通り。
采配は厳しく、勝ちにこだわります。
試合は、判で押したような投手戦になった。
イヌイはヒット一本打たせなかったし、相手ピッチャーも得意のカーブを駆使して三振の山を築きあげていった。
海浜の打線は、全くタイミングが合わないようで、バットにかすりもしなかった。
回が進み、延長戦に入った時、相手高校はピッチャーを代えてきた。
もう一人の、本職のピッチャーである。
今まで9回を連続27奪三振に取ってきたエースを、降番させたのだ。
勝負に徹した、思い切りの良い采配だった。
「ひえー、俺だったら監督と殴り合いになるぜ」
思わず能口は、そう叫んでいた。
「バカ。それが出来なかったから俺たちは負けたんだろ」
バッテリーを組んでいるキャッチャーが、自嘲するように答えた。
「それだけ、勝ちに対する執念が違うのさ」
「実際、効いているようだしな」
キャプテンの言う通り、海浜ナインは目に見えて動揺していた。
今までカーブばかり来ていたのが、一転してストレート主体の投球になる。
一応振り回すのだが、スイングに力が無くなり、タイミングを最初から覚え直しているようだ。
相手校ナインは活気づき、なんとしても点を取ってやろうと意気込んでいる。
しかし、イヌイの投球は、延長戦に入ってからも、全く衰えなかった。
それどころか、ますます速くなっているように感じられた。
今までは、バントなら多少は当たっていたのだが、それすら掠らなくなってきたのだ。
ど真ん中しか投げなかったのが、コーナーを使って球を散らしてきたようだ。
こうなると、目で追ってバントできるという速さでは無いだけに、バットに当たるのはまぐれでしか無くなる。
それどころか、腕や顔の辺りを掠めて投げ込まれてくる球威とコントロールに、腰が引けてきてバントどころでは無くなってくる。
今までの、決まった所にしかこないという思い込みがもろくも崩れてしまったのだ。
「あいつ、俺たちとやった時は、まだ本気じゃなかったのかよ」
最初からこんなピッチャーに当たらなければ、対策を練れたのに。
そんなキャプテンの思い込みも、崩れていた。
「考えて見れば、あんな球、キャッチャーだって迂闊には捕れないぜ。アイツがミットに正確に投げているからキャッチ出来るんだ」
「俺の球もか?」
「はは、お前の球なら、なんだって捕ってやるよ」
相方のキャッチャーの言葉に、安心感を覚える能口だったが。
俺だったら、あそこまで正確に投げ込めるか?
「…コントロールも抜群ってわけか」
「ああ、確かにそうだな。しかし…」
このまま海浜の打線が点を取れないなら、やがて負けるだろう。
実際、両校とも点どころか一人のランナーも出せないまま、延長戦のイニングは進んでいった。
テンポは良いのだが、試合時間が予想以上に伸びて昼近くになっている。
それでもイヌイの投球は衰えを知らず、相手バッターにまともなスイングをさせなかった。
ときおりバントを仕掛けられるが、最初から構えていた守備陣がていねいに処理していった。
相手校の監督は、19回裏の守備から二番手ピッチャーを降番させ、三人目の急造ピッチャーをマウンドに送り込んだ。
「おいおい…こいつだって連続27奪三振だぞ」
「こんな打線にいくら三振取ったって、自慢にならないんだろ」
強力な打線を相手に、いまだランナーを許していないイヌイの方がよっぽど凄い。
三振記録なら、俺だって作ったし、あの失投さえなければ、18回だろうがそれ以上だろうがずっと投げ合っていたさ。
なかば自嘲気味に、能口は答えた。
「それよりも、絶対に油断できない相手ということだろうな」
「そうだな。点さえやらなければ負けることはないんだからな」
キャプテンのいう通り、相手校の作戦は功を奏したようだ。
明らかにさっきよりは遅い球なのだが、海浜ナインは全くタイミングを合わせる事が出来なかった。
最初から投げられていれば、回を追うに従ってタイミングが合うのだろうが、2番手ピッチャーの速い球にまどわされてしまったようだ。
「あーあ、俺たちならこんなピッチャー、即コールドなのによ」
「ボール球に手を出し過ぎるんだよ」
「スイングだって、基本がなってないしな」
「なんで、こんなチームに負けたんだろうな」
「それをいうなって。一番辛いのはアイツだし。せめて負ける様だけでも見届けてやろうぜ」
取り戻せない時間を惜しむように、能口は仲間のナインに声をかけた。
実際、長い延長戦をたった一人で投げぬいて、まだ一人のランナーも許していないのだ。
しかし、味方の援護も全くないまま、相手校の思惑どおり試合は持久戦のまま進んでいる。
交代できるピッチャーがいない以上、疲労が蓄積されるのは当然である。
それでも、イヌイのピッチングは今だ衰えなかった。
ふーん、へー、ソウなんだ。
じゃあボクちんも、ちょっと本気出してミヨーかなー




