第四章 二十四
身をかがめて小さな出口をくぐる前から、嬉しさで涙をこらえきれず何度も涙を拭っい、勝利に胸を張る彼女の前に立つ。
ーーしばし視線を交わし互いを確かめ合う二人。そして力強い抱擁。
「オルヒアさん……また会えると思っていまぜんでじだ」
「私は再び会えると信じていた」
離れていた時間は長くはなかったけれども、僕にとっては千日にも等しい時間だった。こんなにも大好きな人と離れようなんて、なぜ思ったのだろう。涙はとめどなく流れ続け、心地よい体温と息づかいを感じながら、愛しい人を抱きしめる腕に力を込める。
「大好きです、オルヒアさん」
密着していた身体をいきなり引き剥がし、間近でまじまじと眼を見つめられる。
「そそそそれはっ……どどどどどういうイミかな?」
「どういうも何も、そのままの意味ですケド……」
改めて意味を聞かれると恥ずかしい。でも僕としては、今の気持ちを素直に口にしたつもりなので、ウソイツワリも別の意図も入ってはいない。
「いいかハイドラ、マジメに答えてくれよ。我々二人の関係とは何だ?」
「……剣の……師匠と弟子……でしょうか?」
「私もそう思っていた。しかしそれは納得できないと言うか説明できない感情がある」
「それは分かります。……たぶん」
気がつけばオルヒアさんの顔は真っ赤に紅潮していて、肩に置かれている両手にもガチガチに力がはいっている。緊張……なのか?素手で怪人を打ち倒すほどの達人が、僕に対して?
「そこでだ。〈師と弟子〉という前提を違うものに置き換えて、もう一度考えてくれ」
「違うもの……」
まぶたを大きく見開いて、期待満々の眼差しを容赦なくブッ刺してくる。
……がしかし、その問いは僕には難解すぎるようで、直ぐに答えがうかばない。けれどもここが分水嶺だというコトは、ボクの魂がささやいている。
ハイドラ、これを外すと機嫌を損ねるでは済まないぞ。命を賭して答えをだせ、と。
大きく喉を動かすが、口が乾ききっていて上手くツバを飲み込めない。
〈二人の関係〉を〈師と弟子〉と違うものにして考える?
〈関係〉を〈ーとー〉に変える……〈〜と〜〉……
ダメだ。