第四章 二十二
遠くで誰かが僕を呼んでいる。
——!
ルルディ……フラウラ……これは……オルヒアさん?
——!
いやそんなはずはない。オルヒアさんはもうどこかに行ってしまったハズだ。
……
つまらない事で喧嘩をしてしまい、つまらない別れ方をした。
……
もう少し、もう少しだけボクに思いやりがあれば、あんな事にはならなかったのに
もう一度会ってあやまりたい。ゴメンなさい……オルヒアさん……ゴメンなさい
「ハイドラ!」
「!」
突然耳元で名前を呼ばれ飛び起きてしまった。
辺りは薄暗く、薬草の匂いが漂よう部屋の中、見覚えのない風景。
雪山をフラウラさんを探して歩いていたまでは覚えている。寒さでは動けなくなって岩の陰で休んでいて、それで……
誰かに助けてもらった、……ではなく、捕まったのか。
僕の両手両足は太い縄で縛られ、濡れた体のまま座敷牢とおぼしき小さな部屋に転がされている。
太い格子の間からは、火鉢の置かれた土間と閉じられた扉が見える。
「ハイドラ!そこにいるのか?」
「オルヒアさん⁉ 」
姿は見えないが、声が近くから聞こえる。たぶん、となりも座敷牢になっていて、そこに捕らえられているのだろう。
「良かった。ケガはないか?」
「はい。少し寒いですけど大丈夫です」
もしも再び出会う事があれば、真っ先に謝罪の言葉を言うつもりだったが、いざとなったら気まずさが先立ってしまい勇気が出ない。
「先刻はすまなかった。私がどうかしていた」
「そんな! 謝るのは僕の方です、あの……ゴメンなさい。あんな事言うつもり無かったんです……その……色々考えが足りなくて、本当にすみませんでした」
「いや私が浅はかだった。この短い間に色々と考え悟った事もある。面と向かって話したい事もある。改めて顔を合わせた時にまた話し合おう」
離れていたのはほんの少しの間にだけなのに、その声を聞けたことが、懐かしくて嬉しくてたまらない。
やはり僕はオルヒアさんが大好きなのだ。
「オルヒアさん、フラウラさんの居場所を知りませんか?本殿に行ったらしいのですが……」
「それなら心配ない。フラウラは村にいるはずだ。本殿には行っていない」
その言葉に全身から力が抜け、胸のつかえが無くなって行くのを感じた。
よかった、本当に。




