第四章 十五
「……ではお前はその娘のために“黄金〈メルキオ〉”を求めているのだな」
「はい。ルルディを救うためにぜひとも」
僕は、森の民の村にある広場のような空洞で、ロジエさんと数人の森の民を前に事情を説明し、“黄金”〈メルキオ〉“を譲ってくれるように頼んでいた。
「本来なら試練を乗り越えたものに与えるならわしだが、少年は“もり”達に“かれえ”を作ってもらった恩もある。それにルドラの娘、ルルディを救うというのならなおさらである。この者に“黄金〈メルキオ〉”を与えようではないか」
森の民は互いにうなづき合い、全員一致で“黄金〈メルキオ〉”をもらえる事になった。
「ところで誰がよいかな?」
「フラウラがよいでしょう。あれが最も森に愛されておる」
「うむ。フラウラか……」
「ん……しかしのう」
そこにいる全員が腕を組んだまま黙り込んでしまった。僕は何のことか分からずロジエさんの顔を見て首をかしげた。
「あの……“黄金〈メルキオ〉”って何なんですか?」
「まずは聞いてくれるか。我々は長年森と共に生きている為、体から植物が生えるようになった。いわばこの体は大地と同じなのだ。食することで生命力を植物に与え育てると同時に、植物からも生命力をもらい共生している。その均衡は個々で差があるのだが、フラウラは人としての食事を全く行わない。声が出せずに、裸足か接触でないと会話ができないのはそのためだ。すべて植物からもらって生きているのだ。いわばその体は小さな森なのだよ。“黄金〈メルキオ〉”とは生命力そのもの。フラウラはこの世で最も美しい“他者に生命力を与える”才を持つ」
あう……忘れてた。この人、スゴいしゃべるんだった。
要は“黄金〈メルキオ〉”=フラウラさんって事なのかな。
「まだ終わってないぞ。フラウラはそのあふれる生命力を、生命力の枯渇した黒い“もり”に狙われている。お前達も見た事があるだろう?大暴れするアレだ。」
「あ!あの火口で襲われた」
「あの時、フラウラはお前達の様子をうかがっていて、黒い“もり”に襲われたんだ」
火口であんなのに襲われて全員無事だったのは偶然じゃなく、陰でフラウラさんと緑の“もり”が助けてくれたからだったのか。
「じゃフラウラさんは、いつあの黒いヤツに襲われるか、わからないってコトですか」
「お前にフラウラをやるのはいいが、同時に危険も一緒に背負う事になる。我々としてはなんとかしてやりたいが、戦うのは得意でなくてな」
いま危うく流しそうになったけども、フラウラをやるとかなんとか聞こえたような気がする。ルルディを助ける為にフラウラさんの力が必要な事はわかった。でも物じゃないんだからあげる、もらう、では納得しないでしょう。
これはアレだ、オルヒアさんに怒られるヤツだ。
誤解される前にどうにか……そうだった。もうオルヒアさんはいないんだった……
こういうのを心のスキマ風とか言うのだろうか。そこにいつもいるはずの人がいない寂しさ。堪え難い心細さ。 もっと料理を作ってあげたかったな……
「フラウラ!フラウラはいないのか!」
「フラウラなら、いないよ」
ロジエさんの声に、近くにいた村人が答える。
「さっき、そこの少年を探してたから、神宮の本殿に行くみたいって言ったら、何かを抱えて飛び出していったよ」
僕は再びロジエさんと顔を見合わせて、首をかしげた。
「もしかして、僕がもう神宮本殿に行ってしまったと勘違いして、追いかけて行ったのでしょうか」
今のいままで、黒い“もり”の話をしていた事もあり、急にフラウラさんが心配になってきた。
「それはマズいな。フラウラは“もり”がいないと何もできん。本殿の近くは毒素が強くて“もり”がいやがるから、本当に一人になってしまう。そんな所を襲われたら……」
「僕、追いかけます!ロバロのことをお願いします」
「まかせておけ。近道を教える」
実はこの時、フラウラさんは僕を追いかけて行ったのではなく、オルヒアさんを追いかけていた。
もちろん僕がそんな事を分かるはずもなく、つい昨日まで三人で仲良く旅をしていたのがウソの様にバラバラになり、それぞれ過酷な試練へと向かって行った。




