第四章 十
「これは……大薬師ウーヴァの……手記?」
「フラウラ、ウーヴァ知ってる。娘にこれわたす。ルルディ、ウーヴァのムスメ」
「なぜ私に?ルルディでは無いのに」
「これ見せる、娘と仲直り出来るのかもって。ウーヴァと娘仲悪い。ハイドラとオルヒアも仲悪い。でもこれを見せると仲直りできる!」
どうやらフラウラはこの本を仲直りできる道具か何かだと勘違いしているようだ。本来なら持ち主であるウーヴァの意志を尊重して、私などが見るべきものではないのだが、ウーヴァがどのような人物であったか興味がある。そして不仲だった母娘の行き違いやわだかまりを溶かすことが出来るなら、その一助として動きたいとも思った。
それにどうやら私にはフラウラの期待に満ちたきらきら視線の重圧をかわせそうにない。無垢な瞳も時には罪深く思えるな。
私達は道端の木に腰掛け、手記を読み始めた。
その手記はおよそ二十年前、大薬師ウーヴァがこの地に修行に来た時から始まっていた。当時から天才の名をほしいままにしていた彼女は、周囲のねたみや協調性のない性格のため一人でいることがほとんどだった。
○月×日
今日も一人で迷宮の調査に出かける。ここは季節を問わず様々な薬草が生息していて本当に薬師冥利につきる場所だ。
△月×日
迷宮内にて"森の民"らしき人物を見かける。木に肌に植物を生やした頭、噂通りの奇妙な格好をしていた。私の姿を見るとすぐに逃げてしまった。
×月×日
再び"森の民"と遭遇する。ケガをして動けないところを助けた。無事に村に帰れただろうか。
○月△日
"森の民"ルドラに会う。静かな牛のような男だ。私の話を飽きもせず、ずっと聞いている変わったヤツだった。
「フラウラ、ルドラ知ってる。とても強い。村一番の戦士」
「ウーヴァはここによく来ていたのか?」
「最初は怖かった。けどウーヴァかしこい。村でいろんな事教えた」
×月△日
植物の毒と凶暴化について聖薬師ニエべに釘を刺された。要は詮索するなということらしいが、疫病の元凶となりうる可能性があるのに放ってなどおけるか。私一人でも研究を続けるつもりだ。
□月△日
結局、ルドラの申し出を受けることにした。私のような粗野な女が嫁ぐなんて思ってもみなかった。人生なにがあるか分からないものだ。
×月○日
娘が生まれた。肌と瞳の色はルドラに似ていて可愛い。ルルディと名付けた。私に母親が務まるのか分からないが、精一杯がんばろう。あとはルルディが私に似ないことを願うだけだ。
△月○日
私は大薬師神宮のカラクリに気がついてしまった。近隣の村や門前町の病の原因はコレだったのか。ルドラと話し合い、ルルディを連れて祖母の元へ帰ることにした。
このルドラという男がルルディの父親だったのか。最初にフラウラをみた時に、ルルディと印象が重なったのはこの為だったのか。
「ルドラはまだ村にいるのか?」
「……もういない。私達は外の世界では生きて行けない。でも、ルドラはルルディに会うと言って出て行ってしまった」
ルルディから父親の話は聞いていない。うまく会う事が出来なかったか、会う前に死んでしまったか……




