第四章 九
私は迷宮の道を降りながら、自分の犯してしまった過ちを最大限後悔していた。
感情の湧き出るままに言葉を垂れ流し、怒りに任せて行動するなど許されない事だ。
ましてや愛する弟子と決別しようなどなどとは
……
「私はいったいどうしてしまったのだ……」
……
心の一部ではそれは冷静な判断ではない、理性的ではない、正しくないと、諌めているのに他の大部分を占める感情に振り回されてしまう。
特に彼ーーハイドラの事となると自分らしからぬ子供っぽさが顔を出す。
現に今も脚を止めずに彼から遠ざかっているにも関わらず、追いかけて来るかもしれないと背後に期待しているし、迷わないように太い道を選んで歩いていたりする。
「(家出した子供だな)」
もはや自嘲の笑みしか出てこない。
凱門オルヒア、未熟者ここに極まれり。だ。
脚取りは泥田を歩くが如く一歩一歩が重苦しい。
このままハイドラだけで本殿へ行かせていいわけがない。
あそこには確実に闇蜘蛛ブブキと子蜘蛛衆が待ち構えている。
どうひいき目に見たって無事ルルディを助けられるとは思えないし、私が居たとしても危険な賭けには違いない。
しかし今更どの面下げてハイドラの前に立てる?師でも弟子でもないなんて啖呵切っておきながら、すぐ又共に戦おうなんて厚顔無恥ムチな面皮の厚さは私にはない。
そんな真似をするぐらいなら、剣士を辞めてやる。
止まらぬ逡巡を繰り返していると後から私を追いかけてくる足音がすることに気がついた。
遅いではないかハイドラ。もう少しで私は迷宮から永遠に去ってしまう所だったぞ。
しかし、詫びを入れたところですぐに許してもらえるなんて思うなよ。今後は心入れ替えてだな……
「……なんだ、オマエか」
何気なしに振り返るふりをして見ると、その人物は森の民フラウラだった。
「今さら何の用……と言ってもオマエは会話できないんだったか」
あるいは彼からの伝言が……とも考えたが「ん」しか言えないのでは本当の意味で話にならない。
明らかに落胆の色を隠せないでいると、フラウラは強引に私の手を掴んで来た。
「忘れ物、届けにキタ」
「うわっ⁉ いきなり何だ?」
それはなんというか、不思議で奇妙な感覚だった。
洞窟の中でしゃべっているような筒を通して声を聞いているような、こもった声が手を伝わって聞こえてくる。
「こっちの声も聞こえているのか?」
「ちゃんと聞こえテル。フラウラ、触れると話せる。ハイドラに教えてもらった」
一族の者に話を聞いた時、フラウラが一番"もり"に近いと言っていたが、人よりも植物に近くて、会話の方法も普通ではなくなったのだろうか。
「コレを渡すのを忘れてタ」




