第四章 壱
それはなんと言うかとても不思議な体験だった。
少女の発した合図で、辺り一面にいた緑の塊はにわかに波立ち、統率のとれた動きで一斉に僕達をさらった。
驚愕と混乱の中、どうする事も出来ずその流れに翻弄され、縦穴でへと押し戻されて行く。
「縦穴が……⁉ 」
落ちる!と身を強張らせた瞬間、ふわりと緑の絨毯ごと浮き上がった。
勢いそのままに下からの強風は僕らを上へ上へと押し上げ、次の横穴へと誘って行く。同様にある時は細い縦穴を、ある時は太い横穴を、上へ下へと流れ行く森の景色が速すぎてどちらの方に動いているのかも分からなくなった頃、ようやく目的地らしい地下空間にたどり着いた。
あの沢山空いていた縦穴や横穴は、"森の人"の移動に使う通路みたいなモノだったみたいだ。
という事は、空船の桟橋から落ちた時に、助けてくれたのも"森の人"だった可能性が高い。
「オルヒアさん、平気ですか?」
「……きぼぢわるい……吐きそうだ」
僕たちを運んで来た"森の人"の塊は、そこでこぶし大程の大きさに散りぢりとなり、壁の穴に吸い込まれて行った。
「どこなんだここは?」
「かなり上の方に移動したみたいですけど、迷宮内に戻れたのでしょうか」
辺りを見回すと、15間(27.3m)四方ほどの空間があり、石壁の穴からは迷宮内の景色が見えている。どこかの崖とか壁をくりぬいて作られたその場所は、天井から例の細かい光が降り注ぎ、薬師の隠れ家の奥にあった通路と同じ技術で作られていた。
地面に座り込んでいた僕は、一緒に来た少女に助けられて、ようやく立ち上がることが出来た。
「ん」
初めてルルディに会った時も、知識の中にない容姿にかなりの違和感を感じたが、それを遥かに上回る奇態というか摩訶不思議な雰囲気だ。
改めてその人物をよく見てみると、少女、と表現はしているものの、人なのかどうかも分からない。
髪の部分は数種類の草が綺麗に生え、腰まで伸びている。
鼻や頬は滑らかな木工の面を想わせる年輪が浮かび、尖った耳の先からは木の枝の如く葉が生えていた。
服は着ているというよりは、荒い繊維質の布が体から直接出ていると表現した方がよく、遥かに常識を超えている。
しかし握られた手からは確かに温もりを感じるし、僕を見つめる金色の眼差しは、はっきりと意志を感じる優しい目をしていた。
褐色の肌色と金色の瞳はルルディと近い種族も思えるが、あえて言うなら人と植物の間にいる生物だろうか。
「綺麗だ……」
……
「ん」
少女は目線を落として、少し恥ずかしそうにしている。
僕は慌てて手を離し、愛想笑いをしてしまう
いきなり手を握りながらじろじろ見るのは失礼だったかな。
「……捕虜とかそういう感じでは無さそうですね」
「何かしらの意図を感じるから、意思疎通は出来るのではないか?」
少女はおもむろに壁を指差し、僕達を奥の方へと連れて行こうとする。




