第四章 弐
怖さは感じないが、何をさせたいのかどうするつもりなのかはっきりとした意思が知りたい。
「まず聞かせてくれ。自己紹介で名乗る"長老"ってどう言う意味だと思うね?〈長く生きている老人〉?長く生きているなら老人だとは誰が決めたのだろう。〈長い〉の定義はどれぐらいの期間を言うのか。十年?百年?千年?俺は年の割に若いと言われるが、どう見えるね?」
奥の穴からいきなり現れて話しかけてきた若い男は、少女と同じ種族だろうが、こちらは怒涛のように喋りまくる。
その内容はよく分からない。と言うかドウデモイイ。
「あなたは誰なのだ?"森の人"なのか?」
「疑問はもっともだ。しかし先ずは聞かせてくれ。"もり"が言うには、あの食べ物の名前は〈かれぇ〉が良いと言うのだが、俺はもっと壮大で威厳のある名前がいいと思うのだがどう見るね?あの食べ物は"もり"にとっても、我々にとっても、重要なのだ。是非つくり方を伝授して欲しい。いやむしろ作ってくれ、今すぐ、大量に。ウーヴァのように、解毒霊薬を作れる者がいなくなって我々も困っていたのだ」
一言話すと十倍になってかえってくる。
よくしゃべる男の方はロジエ、全くしゃべらない少女はフラウラと名乗った。(実際名乗ったのはロジエだけで、フラウラは「ん」としか言わなかった。しかも名前を聞き出すだけで半刻もかかった)
ロジエさんはもの凄く話が長く、その九割九分は関係のない話題を次々と話し出しす。
そしてこちらの話をまったく聞こうとしない。そう言う意味では寡黙で「ん」と「ん?」のみで会話をしようとするフラウラさんとあまり大差ない。
とりあえず会話の端々から察するに、僕がルルディ汁と呼ぶ料理は"もり"にとって、薬とか解毒剤のような存在らしく、以前は大薬師ウーヴァがよく作ってくれたそうだ。
今はとにかく作ってくれとお願いされたが、僕達は急いでブブキとルルディの後を追って本殿に行かなくてはならない。
「それは任せておけ。あそこに行くには多少の準備が必要だが必ず用意しよう。」
ロジエさんはそう言って奥の部屋へ消えて行った。
「ハイドラは料理を作っておいてくれるか。私は他の住人に"黄金〈メルキオ〉"の話を聞いて来る」
僕はオルヒアさんが情報収集に行っている間、フラウラさんにルルディ汁の作り方を教えることになった。
ルルディ汁(“もり”的には"かれえ"と言うらしい)は材料の良し悪しで味が結構変わるため、いつもルルディがロバロに素材を吟味してもらっていたのだが、ロバロに僕の言う事が通じるのか不安だった。
しかしフラウラさんとの意思疎通に比べれば、ずっとずっと難易度は低い。
彼女は僕の言うことに素直にうなずくが、そのほとんどが理解しないでうなずいているみたいで、しばらくやり取りした結果、ほぼ何を言っているのか分かっていなかった。
「ロジエさんの言う事は分かっているみたいなのになあ」
「ん?」
僕の話している言葉と、ロジエさんが話している言葉が違うとは思えない。
フラウラさんの反応はどちらかと言うと、言葉を理解できないというよりかはーー
「試してみるか」
膝を抱えて少し寂しそうにしている彼女を、驚かせないように隣に座り、手を差し出してみた。
彼女は不思議そうにその手を見ながら、ゆっくりと僕の手を握る。
「フラウラさん、僕の言っていること分かります?」
すると彼女の表情は一変して、ぱあっと笑顔になり頭に花まで咲かせている。
予想以上の反応だ。
「人間と初めて話ス。ウレシイ」
つまりフラウラさんは、言葉が分からないのでは無く、聞こえていなかったのだ。




