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10 えんだああああいやああああ

「えんだああああいやああああ!!!!!!」

「うわっびっくりしたぁ」

 

 カラリと晴れたテフル魔法学園の放課後。

 校舎の屋上に響き渡ったのは私、ローリ・クレイン。13歳の声である。

 

 わろたさんにラリオ先輩への説明をお願いして早一日、あの後私は気付いた。

 ラリオ先輩が動く事は疑っていないけど、いつ何処で動くか分からないから恋愛成就の瞬間を鑑賞できないじゃん! と。結局、昨日は晩ご飯の時間になってもラリオ先輩の姿を見なかったし…。

 でも仕方がない。ラブアンドピースの目的は鑑賞じゃなくて、恋愛成就し悲恋を回避する事。

 可能な限り協力すると言ってくれたわろたさんは十分過ぎる程にお仕事をしてくれた。これ以上の高望みも我が儘もいけない。そう思って昨日は枕を濡らしながら眠りに就いた。

 そして翌日の今日。

 特に約束はしていなかったけど、放課後にまた屋上に来てみたらわろたさんが待ってくれていた。

 

「恋愛マスターさんの勘に脱帽したよ」

 

 そう言ってわろたさんが取り出したのは、とある魔道具。

 手のひら程の、一見すればただのカードのようなそれは【記録の魔法】で記録したモノを保存しておく魔法装置。

 なんと、あの後わろたさんはとある場所に【盗聴の魔法】と【盗撮の魔法】を仕掛けていたと言うのだ。そして【記録の魔法】でその光景を魔道具に残したと。

 目的は勿論、ラリオ先輩とフィオーレ先輩の恋愛成就の瞬間を鑑賞する為。

 

「場所は賭けだったけど、良い子の恋愛マスターさんは運も良いらしい。日頃の行いかな?」

 

 保存された記憶をわろたさんが透鏡に投影してくれた。観やすいように編集しておいたとの事で、わろたさんは先に見たようだった。

 映し出された場所は東屋の中。

 見る限りかなり落ち込んでいるラリオ先輩がいて、時間はかなり遅いらしく暗い。だけど月明かりのお陰か、はたまたわろたさんの編集のお陰か、内容は鮮明に見えた。

 そして、そこへ現れるフィオーレ先輩。会話もばっちり聞こえた。

 

 そして…。

 

 そして…。

 

 気付いたら、恋愛成就の瞬間に叫んでいました。

 突然だったので、あのわろたさんを驚かせてしまったらしいけど、ちょっと…、涙で霞んでよく見えません…。

 因みにあれはカップル成立時に叫ぶものらしい。ファン達が語らう考察スレッドでたまに見掛けた。違うと言う意見もあるけど、詳しくは分からない。

 

「あ゛り゛がどうございま゛すぅう、ばろたざぁあん…。ごれでぜんヴぁいたちはだいじょうぶですぅうう」

「うん、喜んでくれて何よりだよ。これ使う?」

 

 ズビッと鼻をすすったら、わろたさんがハンカチを差し出すので素直に受け取って有難く使わせてもらう。

 

「…でも、わろたさん的には大丈夫ですか? フィオーレ先輩を登用出来なくて」

 

 わろたさんのハンカチで思いっきり鼻をかんでから、ふと思った事を聞いてみた。

 ハンカチはちゃんと後で洗ってから返しますよ。

 

「主には前もって、フィオーレくんにはお付き合いはしていないけど両想いのお相手がいる事を伝えておいた。そうしたら、情けない男に発破を掛けてやれ、と主からもご指示をいただいてね。今回の事をきっかけに関係が進むのは想定内さ」

「え~? 使者さんまで出して、わろたさん…と言うかトラモントはマジでフィオーレ先輩を引き込もうとしていたのにぃですか?」

「我が主は粋なお方なのだよ。魔法師団の次に魔法使いを集めて、好戦的だと中央には睨まれているが…まぁ事実戦いを好む方ではあるが、余程でもない限り個人の意向を踏みにじるような無為な事はなさらない。それに、ローリくんにはまだ難しいかもしれないが、作戦や計画と言うモノはいくつもパターンを用意しておくものなんだよ」

「と、言いますとぉ?」

「今回の事でトラモントにとって一番良かったのはフィオーレくんをノトスから貰い受けた後、お相手役としてラリオくんも引き込む案」

「え゛っ。フィ、フィオーレ先輩を餌にラリオ先輩まで釣ろうとしていたって事ですか?」

「上手い事言うね。だが、ズバリそうだ。フィオーレくんは勿論、まだまだ未熟だが実務と実戦両方をこなせるラリオくんも素晴らしい人材だからね。得られるなら是非欲しい。それにこの案なら結果的にはローリくんのラブアンドピースの意向にも沿うだろう?」

「それはぁ……まぁ、そうなるのかなぁ…って感じですけどぉ」

「まぁ流石にそう上手く運ぶとは思っていなかったさ。主としても承知の上。今回はノトスの族長と良い形で繋がりが持てただけでも、トラモントに損はないと言える」

 

 わろたさんの言う通り、話が難しくなってきて思わず首を傾げてしまう。

 そんな私にわろたさんは小さく笑みをこぼす。

 

「ノトスの族長は代々とても優秀な事で有名なんだ。でも閉鎖的だから、こんな事でもない限りお会いする機会がない。フィオーレくんを貰い受けられないのなら、それはそれとして、愛娘の幸せをお祝いするだけだよ」

 

 天空都市と言う異名や閉鎖的って特性からノトスは小規模と思われがちだけど、実はそうではない。

 土地を治める族長とその一族、あとは独自の信仰を守る教徒が山の上に住んでいるだけで、その山から繋がる一帯の土地もノトスの管理下だ。特に海にも面する山の麓に構えられた、同じ名前が付いた直轄のノトス港は南方面の重要な拠点となっている。

 早い話、離れた土地のトラモントでもノトスとは是非仲良くなりたいのだそうだ。

 ノトスの住民を唆す為の見返り程ではないけど、幾つかの贈り物を使者は予め持って行っているらしい。フィオーレ先輩への縁談が断られた場合はそれを使って、族長と仲良くなる作戦に切り替えるのだとか。

 私からの情報でノトスの住民が不義の子を嫌っていても、族長であるお母さん自身はフィオーレ先輩を娘として大切にしている事が分かった。

 フィオーレ先輩にお相手が出来た事をノトスの人は誰も一緒に祝ってはくれないだろう。フィオーレ先輩のお母さんはきっと寂しいはず、そこが狙い目らしい。

 

「なんか、あざとくないですか?」

「作戦としてあからさまに説明しているからそう感じるだけだよ。ノトスの族長も気付きはするだろうが、そこを上手く振舞うのが使者の腕。悪い気はしない、そう思ってもらえればいいのさ。まずは、ね」

「なるほどぉ。大人の世界って難しいですねぇ」

「だねぇ」

 

 私は【記憶の魔法】で知識を得る前から、カログリア王国の地方はそれぞれの個性があって楽しいなってくらいにしか考えてこなかった。

 ファンも、カログリア王国中を旅してみたいとか住むなら何処が良いかとか、楽しく会話している。だけど政治的な観点から考察すると、全ての地方が自治だからこそ、色々と難しいらしい。

 

「……主さんにはあまりやり過ぎないように伝えておいてください」

「おや、なにかヤバいと思う事があるのかい?」

「知識を得て恋愛以外にも色々と勘が鋭くなっている記憶の継承者からの助言でぇす。わろたさんもさっき、中央から睨まれているって言ったじゃないですか。上手くいっている時はいいですけどぉ、少しでも崩れたら……一気に大変な事になっちゃうんじゃないかなぁって」

 

 『カログリア王国戦記』の戦争の経緯を見るとトラモントより、どさくさでトラモントを潰そうとしてわろたさんをラスボス化させた中央の方が悪いとは思う。

 でもトラモントにも落ち度が全くないと言う訳でもないらしい。色々と難しい中を上手く乗り切っているやり手なトラモントの主さんは、魔法師団を抱えてぬくぬくとしている中央をちょっと馬鹿にしているところがあるのだとか。だから他の地方都市とは違って中央への気配りは疎かだし、中央はそんな態度が鼻に付くし、危惧もする。

 やり手なら、中央にも味方を作っておけばよかったんだ…とはファンの意見。なら、正解なのだろう。

 

「中央にも気配りしておくべきじゃないかと。大変な事になったら、わろたさんも大変になっちゃうでしょうし。平和が一番ですぅ」

「…そうだね、肝に命じておくよ。ありがとう」

 

 お礼と一緒に頭を撫でてもらった。

 戦争になった一番の要因は何とかするつもりだけど、流石に難しい政治の話は私じゃどうにも出来ない。

 でも可能なら、良い流れになればいいと願う。

 それもまたラブアンドピースである。

 

 その日の晩ご飯の時間に、食堂に集まった皆に向けて6年1組のリンジュ・フィオーレ先輩とフラセ・ドゥ・ラリオ先輩の婚約が発表された。

 食堂はお祝いモードで大いに盛り上がり、ルシア先輩も泣いて喜んでいた。


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