03 情報収集の魔法
「情報収集する対象の人物がいつ、何処で、誰と、どのような会話をするか予め調べ、その場所に先回りして【盗聴の魔法】や【盗撮の魔法】を仕掛けておくのが一番確実ではある」
「その時点で時間が掛かりますねぇ」
「そう。思うように上手くいかないのが実践と言うものだ。この前のローリくんのお祝いで【盗聴の魔法】が仕掛けてあったが、あれは私の参加と言う突発の出来事に対し、学園内の利点を活かし私の席を用意する流れで魔法を仕掛けるチャンスを作った」
「ふえぇ。あの時、わろたさんの席を用意してくれたのは…」
「魔法が仕掛けてあったのは椅子。椅子を持って来てくれたのは私が6年生の中で一番警戒しないルシアくん。魔法を仕掛けたのは、それこそあそこにいるフィオーレくんか…もう1人情報系に強い学園生がいたね、恐らく彼だろう」
何故か、放課後の屋上で突如始まったわろたさんによる魔法使いの情報収集法講義。
実地での体験と言うのも勿論、1年生の授業では聞かない危険な香りがするプロの話にかなりワクワクしている。
「もし私が学園内の者ならまず東屋に監視装置がないか調べるね。特定の場所の出来事を記録する魔法を施した仕掛けの事だけど、テフル魔法学園には防犯の為にあちこちに設置されている。その内、授業で探すだろう」
「へぇ、それは楽しみですぅ」
「監視装置があるなら記録した出来事を後に取り出し確認できる。つまり東屋での事を盗聴も盗撮も必要無く、把握できると言う事だ」
「便利ですねぇ」
「しかし魔法学園の監視装置の確認は先生方、又は限定的な資格を持った上級生にのみ許可されている。当然ながら私は先生ではないし、1年生のローリくんでは許可は得られない。つまり、東屋に監視装置があったとしてもこの手は使えない」
「なんてこったぁ」
「これらは事前に準備が可能な場合、又は領分内での活動の場合。だが大抵は突発的、出たとこ勝負になる事の方が多い。情報収集に限らず、どんな状況に遭遇しても臨機応変な対応を瞬時に取れる事が腕の良い魔法使いの条件だよ」
わろたさんの教えに、はぁいと返事をする。
臨機応変な対応を瞬時に…魔法使いの場合、使える魔法の数が多いと良いと言う意味だ。精度は言わずもがな。
であるならば、使える魔法の数もその精度も、公式チートと呼ばれるわろたさんがこの状況ではどうするのかと期待が高まる。
私の期待を知ってか知らずか、わろたさんが指を動かすと私の前にガラス盤が現れた。大きさは私が【望遠の魔法】を使っていた時のと同じくらい。
「さて、これが何か分かるかい?」
「【望遠の魔法】ぉ、ですか?」
「これそのものを正確に言うと透鏡。他の魔法と併用して使う補助魔法の一種だ。補助魔法は省略される事が多く殆どの魔法使いは意識せずに使うから、授業で教わる事も少ない。ただ魔法精度を上げる時は補助魔法への意識も重要になってくるから、覚えておいて損はないだろう」
「分かりましたぁ」
「一度に使用、併用、そして連結させる魔法の数が多い程、難易度も上がるがより高度な事が可能となる。今回この透鏡に同時使用する魔法は…」
「わっ。私が映っていますぅ!」
わろたさんの透鏡に、私の姿が映し出される。でも鏡のように反射して映っているのではなく、私を斜め上から見下ろす形だ。
ひょっとしてと思い振り返ると、わろたさんが私を見下ろしていた。
「私が見ているものを【投影の魔法】で透鏡に写し出している。更に【望遠の魔法】を使えば」
わろたさんの目の前にさっきと同じように小さく調整された透鏡が現れると、先にあった透鏡に映っていた私がグッと拡大される。
つまり…。私はピーンときた。
「これならわろたさんに見えるモノを、私も見る事が出来ますぅ!」
「正解。複数で調査する時、全員で見ているよりは1人が見て、他はこちらで確認している方が何かと都合が良い。状況によっては更に【記録の魔法】を追加し、別の所で後に確認するのだが、今回それは無しで」
「勿論ですぅ。仮に有りでもそこは断っていますよ。流石に先輩達に無遠慮過ぎますからぁ」
「良い子だ」
わろたさんに頭を撫でられる。えへへ。
「では良い子のローリくんの為に、更に魔法を追加してあげよう」
「え?」
私の頭から手を離したわろたさんが東屋へ視線を向ける。【投影の魔法】で写し出された東屋がどんどん拡大されて行き、私の眼では見えなかった東屋の中にいるフィオーレ先輩の姿を捉える。
本当にいたんだ…と感心する間もなく、透鏡から何やら音が聞こえてきた。
「効果範囲を絞り、かつ補助魔法で色々調整した【集音の魔法】を【投影の魔法】に被せた。これであの東屋の音も会話もローリくんが聞く事が出来る」
何と言う事でしょう。
まるでタブレットで見るアニメのようではありませんか。
「凄いわろたさん! 凄いですぅ! こう言うのって、魔道具とか色々必要だと思っていました」
実はそのアニメである『カログリア王国戦記』と『テフル魔法学園生シシー』にも、映像を扱うシーンがある。特に『カログリア王国戦記』は視聴者に分かり易くする為か、戦況を見たり作戦を立てたりするところで良く使用されている。
他にも直接だと、先生が授業で【投影の魔法】を使っているのを見た。
そのどれも何らかの道具が使われていたから、てっきりそう言うものだと思い込んでいた。
「もっと大掛かりに映す場合はね。あと魔力消費が抑えられるから、使えるなら使いたい。でも今日は何も持ってきていないし「魔道具がないから出来ません」では三流もいいところだよ」
「なるほどぉ、確かにぃ」
魔道具とは、魔法を定着させた道具の事。形も用途も多岐に渡る。
魔力を流せば定着された魔法が起動し、私達1年生がまだ習っていない魔法でも、魔道具を使えば使用する事が出来るとても便利でありがたい物だ。
だけど、確かにわろたさんの言う通り。
得意不得意、手間を考えて使っているだけで、魔道具に出来る事は魔法使いが出来る事……でなければならない。そう言う魔法使いを目指さなければならないのだ。
「どのくらい練習すれば、同じ事が私にも出来るようになるでしょうか」
「そこはローリくんの努力次第かな。魔法そのものは3年生までに教わるから、後はどれだけより遠くを見られるか、より遠くの音が聞けるか、より綺麗に映せるか、そしてより上手く隠れられるか。適性も関わってくるが、習熟に勝るものはない」
「はぁい」
先は長そうだ。とほほ。
て言うか、そうか。私に見せながら、わろたさんは先輩にバレないように隠密魔法も使っているんだよね。いったい、今この瞬間だけで何個の魔法を同時使用しているんだろう…。
情報収集に必要な魔法と考えれば、わろたさんが今行っている事は、精度の差はあれどもプロとしては出来て当たり前なのだろう。
1年生とプロを比べるのも失礼と言うものだけど、【望遠の魔法】だけでも習熟度と精度の違いをこうも思い知らされると、ちょっと気が遠くなってくる。
いけない、いけない。
今は自分の未熟さに落ち込むより優先するべき事がある。
わろたさんのお陰で先輩達の恋愛事情を垣間見られるのだからしっかり堪能…じゃなくて、ラブアンドピースに活かせるようにしなくては!
「おや、本当に誰か来たね」
「6年1組のフラセ・ドゥ・ラリオ先輩ですよね?」
ふんすっと気合を新たに入れ直していると、わろたさんが東屋に近付く人影に気付いた。
透鏡に映し出される前に、私は予想していた名前を告げる。
「そのようだ。彼がフィオーレくんのお相手なのかい? 確かにクラスが同じで実習では組む事も多く、その際の息も良く合っていると記憶しているが…。美人のフィオーレくんにラリオくんが懸想していると言われても驚きはしないが、毅然としたフィオーレくんの態度からはカップルと言うより相棒の印象が強いかな」
「ただ仲の良い男女ってだけで邪推している訳じゃないですぅ。ちゃんと証拠もあります。それも、思いっきり懸想しているのはフィオーレ先輩の方だって事の証拠が。先輩方の会話から、それを提示してご覧にいれましょぉ」
「……成程、私が知らない情報を掴んでいると。では、お手並み拝見といこうかな」
フフッ。わろたさんと、わろたさんの真似をした私、2人分の低い笑い声が屋上に零れる。
そうだ。魔法はまだまだ未熟だけど、私には【記憶の魔法】で継承した知識がある。わろたさんでも知る事が出来ない、世界の裏知識が…ね。
透鏡からはフィオーレ先輩が奏でる音楽が流れていた。
楽器も曲も、過去に【記憶の魔法】で異世界の音楽の知識を継承した魔法使いが齎したものである。
カログリアトリビアより。




