表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/25

02 三大悲恋

 『カログリア王国戦記』が悲しくとも「美しい」と評される一番の要因は、三大悲恋にある。

 作中で描写される、戦争によって引き裂かれた恋い慕い合う男女達の人間模様。

 敵対する勢力に分かれ殺し合う。

 刺客に狙われ片方が命を落とす。

 生き残ったものの、贖罪から相手の手を取らず袂を分かつ。

 三つ目は物語の締めくくりでもあるけど、どれも一巻ごとの見せ場であり劇場版に選ばれた名シーンだ。

 

 この三大悲恋…三組のカップルは、想い合ってはいたが通じ合ってはいない。所謂、両片想いと言うやつ。

 各カップルを最終的に引き裂いたのは戦争だけど、それまでに成就していなかった理由はそれぞれにある。

 だが成就させてさえいたなら、例え戦争があっても結果は確実に変わっていただろう。それ故、ファンからも「先にくっついてさえいれば…!」と涙ながらの考察がなされている。

 

 ならばそのお望み通りくっつけてしまおうと私は考えた訳なのです。

 

 戦争と三大悲恋を回避し、『カログリアシリーズ』のファンが望み私も見たい未来…ハッピーエンドを迎える。

 それがラブアンドピース。

 

 でもそれを面と向かって人に説明するとなると…。

 少し考えてから、わろたさんにニッコリ笑って見せる。

 

「愛と平和を世界に齎す、ハラハラドキドキの大計画なのですぅ」

「愛と平和」

「はい。愛と平和」

 

 コホンと一つ咳払いをして、タブレットを取り出す。

 

「実はですねぇ、私が継承した異世界の物語には大変素晴らしい恋愛要素が練り込まれているのですよぉ」

「ほう」

「そしてその要素を余す事なく正しく知識として取り込んだ私は、13歳にして恋愛マスターとなったのですぅ!」

「…ほ、う」

 

 バーンッとアニメなら効果音が付く感じで、私は高らかに宣言する。

 決して嘘ではない。

 『カログリアシリーズ』の知識を得ていなかったら、まず三組のカップルの内、全然気付かなかったカップルもいるわけだから。だけど知識を得た今、ファンの考察によって浮き彫りにされたそれぞれのカップルの情報、欠けているモノや必要なモノを私は完全に把握している状態にある。

 お陰様でこの2人、実はそうなの!? とカップルである事を知ってビックリしただけでなく、さりげない言葉や仕草に隠された意図が分かり1人密かに悶えさせていただいている。

 悲恋の三組に限ってではあるけど、恋愛マスターと言って何の差し支えがあろうか。ふふ。

 

「一応これでもうら若き乙女ですからぁ、人様の恋愛事に興味津々でしたよ。しかし恋愛マスターとなった今、私の恋愛事への勘はこれまでと比べようもなく冴えわたりその本能が察知したんですよぉ」

「…と言うと?」 

「このカップル達はさっさと成就させないとヤッバい事になるって!」

 

 クワッと顔に力を入れて力説する。

 具体的に説明する訳にもいかないので、やばい事については「やばい」で押し通す。実際にやばいのだから、やばいでいいじゃん。

 私はわろたさんに指でちょいちょいっと着いてくるよう伝え、低い姿勢のまま隠れていた塀を離れて屋上を移動した。

 

ーーーこの時間帯ならここから見えるはず。

 

 運動場が見える塀とは違う側の塀に取り付いて、こっそり窺い見る。【望遠の魔法】を使ってもバレると学んだので、仕方なく目視で。

 少し離れた所に大きな池と、池を眺められる位置に建てられているガラスの東屋が見えた。

 

「えっとぉ、東屋に多分、フィオーレ先輩がいると思うんですけどぉ」

「うん、いるね。楽器を奏でている」

「見えるんですかぁ!?」

 

 私の目では池と東屋がある事しか分からなくて、ガラスとは言え視界が遮られている東屋は中に人がいるかすら確認できない。

 なのに、人がいるだけでなく何をしているかまでわろたさんはあっさり述べた。驚いて振り返ると、わろたさんの見えている方の目の前に、丁度目の大きさくらいの丸くて薄いガラスが浮いているのに気付く。

 メガネのようだけど、メガネじゃない。でも何度か『カログリアシリーズ』で見ている。

 

「わろたさん、それって」

「さっき君が練習していた【望遠の魔法】だよ」

 

 やっぱり。

 

「慣れるとこのくらい小さくできるし、縮尺も任意で変更可能だ。用途によっては基本の大きさでも問題ないが、今のように隠れて見る偵察等には向かない。2年生くらいで大きさを変える授業があるだろう」

「へぇ~……いや、じゃなくてぇ! 魔法を向けたらフィオーレ先輩にばれちゃうじゃないですかぁ!」

 

 さっき武芸クラブ部長に気付かれた事を思い出す。あの先輩は笑顔で手を振ってくれたけど、フィオーレ先輩もそうしてくれるとは限らない。怒られたらどうしようと、ハラハラしてくる。

 だけどそんな私を見て、わろたさんはフフッと低い音の笑みを零す。

 

「これでもプロだ。6年生とは言え、学園生に気付かれるようなヘマはしない」

 

 うわぁカッコイイ…。

 何て言うか、私の背後でわろたさんファンの方々が黄色い悲鳴を上げている。幻聴なんですけどねぇ。

 

「羨ましいですぅ。わろたさんなら恋愛成就の瞬間を見放題ですねぇ」

「個人的にそんな趣味はないのだけどね…。それはそうと、つまり君は恋愛マスターとしてあそこにいるリンジュ・フィオーレくんの恋を成就させたいわけか」

「お察しがいい」

「ラブアンドピースの一環として6年生の恋愛事情に君が首を突っ込もうとしている、と言う点は理解した」

「流石わろたさん!」

 

 要点をまとめてくれたわろたさんに感激する。

 流石大人。流石公式チート。

 

「因みにフィオーレくんのお相手は誰だい?」

「そこ気になりますぅ?」

「乗り掛かった船、と言うやつでもあるが」

 

 わろたさんが恋愛事に興味を示すなんて、ちょっと意外だ。

 

「6年生の恋愛事情ともなると卒業後の進路に直結する可能性が大きい。フィオーレくんは確か、卒業後は故郷に戻ると公言していたはず。それが変更されるのなら、行き先含めて情報はいち早く把握しておきたい」

「何故に6年生の先輩方の進路をわろたさんが把握しておきたいんですかぁ?」

「…ローリくん、忘れているようだけど、これでも私はトラモントから派遣された登用係なんだよ? 学園生の情報を把握する事が一番の仕事なんだよ?」

 

 有望そうな学園生を見つけ、引き抜けるなら引き抜く。引き抜けなくても進路先を調べ、何処へ就職するのか、就職先でどんな仕事をするのか、可能な限り情報を仕入れて自分が所属する組織で有効活用する。

 それが登用係のお仕事。ただのスカウトマンではない。

 スパイのような一面がある為に、学園生は情報を取られないように登用係を警戒する。これもある意味、対魔法使い戦の練習なのだろう。

 

「そうでしたぁ。わろたさんってちゃんとお仕事しているんですねぇ」

「君は私を何だと思っているのかな? 救護室でお茶しているだけの暇なおじさんではないよ?」

「まだ29歳じゃないですかぁ、自分でおじさんなんて言っちゃダメですよぉ」

 

 わろたさんが自分をおじさんと呼ぶのは、ギャグ調の強い『テフル魔法学園生シシー』ではお馴染みの持ちネタだ。ファンからは「29歳でおじさんと名乗るのは止めて、貴方より年上になっちゃった自分はどうなるの!?」と少々不評である。

 確かにわろたさんに“おじさん感”はない。励ますように肩を叩いてあげると、わろたさんは一つ息を吐く。何かを諦めたような気がするけど…気のせいにしておこう。

 

「話を戻して、今の時期だとフィオーレ先輩のお相手の方がそろそろ東屋にいらっしゃるはずですぅ」

「今の時期?」

「はい。もう少しで総会ですからぁ、かなりのお疲れかと」

 

 言いながら塀越しに東屋を見るけど……やっぱり遠すぎてよく見えない。

 お相手の先輩が現れたら「誰か来た」くらいは分かるだろうけど、東屋に入られたら私の鑑賞はそこで終了である。

 

「どうせなら会話も盗み聞き…もとい、会話込みで見守りたいところですけどぉ、私の【集音の魔法】じゃあそこまで届かないし範囲も絞れないから雑音の方が多くなりますよねぇ」

 

 丁度その時、運動場の方で爆音が鳴った。

 武芸クラブが攻撃魔法の撃ち合いでもしているのだろう、多分。入学してから此の方聞き慣れた音なので、確認にも行かない。

 【集音の魔法】は周囲の音を集めて増幅し魔法使用者に聞き取らせる魔法だ。今使ったところで爆音にかき消されるだけでなく、増幅された爆音で鼓膜を破壊されるだけである…。

 何より、【望遠の魔法】と同じでバレてしまうなら使っても仕方がない。

 はぁ…と溜め息が出る。

 

「ふむ…。魔法の効果範囲を絞る、又は指定する補助魔法は知っているんだね」

「えぇ、まぁ一応」

「ならばローリくん。魔法使いがいかにして情報収集するか、私が実地で体験させてあげよう」

 

 フフッ、再び低い音を漏らすわろたさん。

 ほの暗いその笑みには、背中にゾクッと来るものがあった。

 

「ハ、ハラハラドキドキィ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ