01 始動
『知っているか? 今世で殺し合った2人は、来世で結ばれるんだそうだ』
一瞬のまばゆい光の中、幸せそうに見つめ合う男女が映し出される。
いつまでもそうしていてほしい。
そうあっていてほしい。
けれど、どれだけ祈っても“カット”は無情にも跨がれ、爆音と共に赤々と燃えあがる爆発の映像が映し出される。
中心地である2人の生存の可能性を叩き潰すかの如く、壮大に。
今まさに2人の命が散り逝くのを描くが如く、壮絶に。
『リンジュッ……フラセ!』
立ち上がる爆発の煙を見つめ、その意味を悟ったルシア・ヴァーチュは涙を流しながら友人達の名前を呼ぶ。
映像と共に流される美しくも悲哀溢れる音楽が、いっそ彼女の悲しみを引き立たせていたーーー
「……ッッッ!」
タブレットの映像を観ながら泣いている私、ローリ・クレイン。13歳。
先日【記憶の魔法】の授業で思いがけず手に入れた知識と、その証である薄い板型の本…タブレット。
タブレットには私が生まれてから見聞きした全部と、継承した知識『カログリアシリーズ』の全てが収められていて自由に引き出す事が出来る。
つまり通信料も契約料も払わず、いつでも全話読み&見放題。【記憶の魔法】万歳。
惜しむらくは、【記憶の魔法】の本の内容は本人にしか見えない事。この超絶名作を1人でしか楽しめないのだから、あぁ、なんて勿体ない…。
授業終わり、校舎の屋上で私が1人で見ていたのは『カログリア王国戦記』のアニメ。
劇場公開までされた三作品の内の一つで、作画、音楽、どれを取っても素晴らしい仕上がりになっている。もう一度言うけど、これが通信料契約料払わずいつでも見られるなんて…【記憶の魔法】マジ万歳だよ。
「でも現実にはしないもんねぇ」
しっかりエンディングまで見てからタブレットを仕舞い、私は屋上から魔法学園を見渡す。
テフル魔法学園の敷地は広大だ。
6学年3組分の教室の他に、救護室や職員室、クラブ活動で使用する部室等もある校舎。寮と食堂。食料や用具を納める倉庫が複数。運動場は2つ。そして学園長専用の離れ。
首都メディウムに存在しているけど街からは少し離れていて、一番街側に設置されている正門からですら森を一つ越えなくてはならない。その正門の反対側には連なった山。日々授業やクラブ活動の場所として使われている。
見渡せる限りは魔法学園の敷地だと思って良い、と先生は言っていた。
「えぇっと、これをこうしてぇ…」
魔法を発動させると目の前の空間に透明なガラス盤みたいなモノが現れた。
ガラス盤に向けて私が手や指を動かせば、ガラス盤の中で見えていた風景が近くに寄ってくる。
これは【望遠の魔法】。遠くを眺める為の魔法。
「…う。ここまでかぁ」
拡大させていたガラス盤の風景が、あるところで止まる。これ以上は拡大出来ない。
【望遠の魔法】でどこまで遠くを見られるかは、魔法使い次第。つまりここが今の私の限界、と言うわけだ。
覚えたばかりの1年生だと、せいぜい芝居小屋の一番後ろから舞台の中心を観るのに使って丁度良いくらい。そしてその程度ならわざわざ魔法を使わなくても、普通にお店で売っている望遠鏡で事足りる。
熟練者になると遠く離れた山にある木々の葉っぱ一枚一枚を確認する事も出来るって、先生が言っていたのでわざわざ屋上に来てみたけど……葉っぱどころか、木の見分けも出来ない。
先の様子を離れた場所から調べる事が出来て、世界ふしぎ発見の旅に絶対に必要になる魔法だと思ったけど現状ではあまり役に立たなさそうだ。使えるようになるには練習あるのみ。とほほ。
ガッカリしながら【望遠の魔法】の方向を動かすと、運動場が見えた。
運動場ではガッツリ武闘派の武芸クラブが鍛錬をしていて、特に意味はなく、先頭で指揮を取っている武芸クラブ部長の先輩に【望遠の魔法】の焦点を合わせて拡大してみた。
とーーー
「うえぇっ」
急に武芸クラブ部長が振り返って、思いっきり目が合った。完全なる不意打ちに、わざとじゃないけど勝手に見ていた気まずさが合わさって、思わず変な声が出た。
目が合ったのは気のせいじゃない。
間違いなく武芸クラブ部長は私を見た。て言うか見ている、今も。
【望遠の魔法】で見ながら固まっていたら、武芸クラブ部長がニッコリ笑って私に向かって手を振るので……私も手を振り、スルスルと屋上の壁に身を縮めて隠れた。
「ックリしたぁ」
ドキドキと打つ胸を押さえる。
「な、何で見ているって分かったんだろ…。隠れてはいなかったけどさ」
「それはローリくんが隠密魔法を併用していなかったから、相手の探知魔法に引っ掛かったんだよ」
「うわっ! わろたさん!」
落ち着く前にビックリ第二弾。
驚き過ぎてお尻が浮いたよ…。
横を向けば、いつからそこにいたのか。わろたさんこと、ヴァロータ・チャチャイさんが私の隣で座っていた。
高身長のわろたさんが壁に隠れるように座っている姿は、ちょっと可愛い。
「ヴァロータだ。こんにちは、ローリくん。救護クラブのお仕事はいいのかい?」
「こんにちは、わろたさん。今日は当番お休みなので、授業で習ったばかりの魔法を試していたところですぅ」
クラブの活動の仕方は、クラブによって違う。
武芸クラブのような常に全員で活動をするクラブもあれば、私が所属する救護クラブのように当番を決めて交代で活動するクラブもある。
救護クラブの場合、薬や包帯の在庫管理をしつつ、怪我人病人にいつでも対応できるよう活動中はずっと救護室に待機していなくちゃならないから当番制にしているのだ。なので、私が今日こうして屋上にいるのは断じてサボりではない。
「それはそうと。【望遠の魔法】を使う時は、その隠密魔法って言うのを使うものなんですか?」
「魔法使いに向けて使う場合であれば必須と言える。自分に向けられる魔法に魔法使いは常に警戒していなくてはならない。攻撃魔法に対してだけでなく、情報系魔法にはより敏感であるべきなんだ。情報収集は魔法使いに必要な要素、ならばその対策も同様だよね」
「ふへぇ~」
「4年生以上の上級生ともなるとその辺りを弁えて対策法を身に付けている。だから仕掛ける方は隠密魔法で姿や魔力を消して、気取られないようにする」
「そう言う事、授業で先生は言いませんでしたけどぉ」
「まだ1年生だからね。基本の魔法を覚える方が先だし、風景を見るくらいなら隠れる必要なんてない。ただ動かない木や山よりは動いている人、先輩なんかを見たくなるものだろ? あえて下級生に好きにやらせて、上級生が察知する練習にもしているんだ」
「なるほどぉ」
仕掛ける方と察知する方。隠れ、見抜き、出し抜いて上回った方が優位に立つ。
対魔法使い戦の一端を垣間見たようで、ゾクゾクしてくる。
しかし…。
「なら今の私じゃ、6年生の先輩を気付かれずにこっそり見る事は不可能って事ですねぇ」
ついつい、わろたさんの前だけど大きな溜め息を吐いてしまう。
でも仕方ないだろう、死活問題だから。
「…おや、気になる先輩でもいるのかい?」
「はいぃ、恋している先輩方を鑑賞しようと思ってですねぇ」
「ほう」
「その恋を成就させたいんですぅ。そして成就する瞬間をばっちり見たいんですぅ。でも公開告白でもない限り成就の瞬間なんて見られないしぃ、そもそも公開告白なんて出来る方々ならとっくの昔に成就しているって言うかぁ」
「成程」
「だからお膳立てをした後は、こっそり遠くから気付かれないように見られたらなぁと思っていたんですけどぉ」
【望遠の魔法】を習って、世界ふしぎ発見の旅は勿論、これは使えると思った。
拡大出来る距離は限られているけど、隠れていれば大丈夫だろうと。でも簡単に気付かれてしまうのなら、成就の瞬間を見るのは諦めるしかなさそうだ。
私のせいで雰囲気がブチ壊されでもしたら目も当てられない。
非常に残念だけど仕方ない。優先するべきは恋の成就なのだから…。
そこでハタと気付く。
「そう言えばわろたさん、今日はどうしてこちらに? ルシア先輩なら救護室にいると思いますよぉ」
ビックリしていて気付くのが遅れたけど、どうしてわろたさんが屋上にいるのだろう?
急に現れる神出鬼没な人だし、『テフル魔法学園生シシー』でも初登場以降たびたび現れるキャラだけども、基本的には救護室で差し入れしてくれるおやつを片手に皆でお茶している印象が強い。なにせ救護室にはだいたいルシア先輩がいるのだから。
わざわざ屋上に何の用だろうと首を傾げたら、わろたさんの肩が少しだけずり落ちたような気がした。変な事を言った覚えはないけど、これが『テフル魔法学園生シシー』のアニメなら盛大にずっこけているところだね。
「先日の、ローリくんの発言が気になってね」
「私の発言?」
「君が見たいと言ったもの。名付けて」
ラブアンドピースーーー




