表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/22

10 《閑話》目覚めなかった日

 

 これは、ローリ・クレイン。13歳が、目覚めなかった日の出来事ーーー

 

 

******

 

 

「そろそろ皆起き出しますね」

 

 1年3組の教科担任ラモワ・ティエ・ジークリングは時計を確認しつつ、講堂を見渡した。

 そこには各々の枕を抱えて横たわる、30名程の子供達。

 

「今年で6回目ですが、毎年この瞬間は妙に緊張してしまうのですよねぇ。最初の年を思い出して…」

「あぁ、ジークリング先生が初めて【記憶の魔法】の儀式に立ち会ったのはルシア・ヴァーチュが1年生の年でしたからなぁ」

「今でも忘れられませんね、起きないルシア・ヴァーチュを抱えてジークリング先生が右往左往している様子は」

「他の1年生と一緒になって半泣き状態で」

 

 ははは。周りにいる年嵩の教師達から笑い声が上がり、ジークリングは頬をかくしかない。

 1年生を担当する教師の中で、いや、現在のテフル魔法学園の中で一番若い教師であるジークリング。教師になりたてだった恥ずかしい出来事の殆どを先輩教師達には知られているので、反論のしようもない。

 

「私が学生の頃に記憶の継承者はいませんでしたし、色んな意味で初めてだったもので…。とは言え記憶の継承者はだいたい10年に1人と聞きますから、ルシアがいるうちは安泰ですね」

「いやいや、だいたいはだいたいでしかありませんから。油断は大敵ですぞ、ジークリング先生」

「1学年に複数と言う事はなくても、在学期間が被る中で2人や3人現れる時代はあるそうですから」

「えぇ…」

「まぁその逆に20年も30年も現れなかった時代もあると聞きます。要は、生徒達が起きてくれないと分からんって事ですな」

 

 ポンッと、同じ3組の担任、実技担当のジャコ・リジエールに肩を叩かれた。

 そうしている内に子供達がもぞもぞと起き出してくる。

 寝ぼけ眼をこすってそのまま二度寝しようとするちゃっかり者がいるので教師達は注意しなくてはならない。ジークリングが受け持つ3組はそう言うちゃっかり者が多いので、特にだ。

 

「わたくしはジークリング先生の心配も分かりますけどね…」

「シャッテン先生」

 

 背後からゆらりと声を掛けるのは1年2組、教科担当のドリナ・シャッテン。

 大人しくて物静か…を通り越して不気味な雰囲気を漂わせる女性教師だ。幽霊より幽霊っぽいと生徒達は噂し、例年何人かが彼女を対象に肝試ししようとする。ただ、そう言った生徒達を正面…いや背後から? 迎え、トラウマレベルで驚かしてあげるので印象と違ってノリは良い人物である。

 

「2組は3組に比べれば大人しい良い子が多いですが、好奇心が強い子もおりますから」

「あぁ、ローリ・クレインとかですかね?」

「3組のシシー・サングリエさんと救護クラブでご一緒の時などは、好奇心に身を任せているきらいがございます。特に近頃はトラモントのヴァロータ・チャチャイ殿と言う彼女の好奇心を大いに刺激する対象と出会ってしまいましたし。そんな子がもし記憶の継承者になってしまったらと考えたら…」

「そ、それは確かに心配ですね」

「きっと、とんでもない魔法使いになりますわ」

「はい?」

 

 生徒の将来を案じて不安になっている先輩教師に何と声を掛けたものか。そう考えていたジークリングをよそに、シャッテンのその目はキラリと光っていた。表情が暗いから、光がより強く感じる。

 

「好奇心も探究心も良き魔法使いとなるのに必要な要素ですわよ、ジークリング先生」

 

 ローリはいつか何かを成し得る魔法使いになる。フフフと不気味な笑みと共にそう残して、シャッテンは2組の教え子達の元へと離れて行った。

 からかわれた? 生徒自慢された? ジークリングの頭上には「?」がいくつも浮かぶ。

 だが目の前で二度寝しようとしている生徒が目に入って、すぐにその疑問を彼方へと放り投げた。

 

「ローリ。ローリってば!」

「起きなよ、ローリ! ねえ!」

 

 大半の生徒が起きた頃、ジークリングは悲鳴のような子供の声を聞く。振り返ると、2組の生徒達が未だ起きる様子のない1人の生徒を取り囲んで必死に起こそうとしていた。

 見覚えのある光景に、ジークリングは息を飲む。

 

「あらあらまあまあ…」

「シャッテン先生! ローリが!」

「今確認してみます。皆さん大丈夫ですよ、心配しないでください」

 

 生徒達をかき分けてシャッテンが眠ったままの生徒…ローリを抱き上げる。

 

「シャッテン先生、如何ですかな?」

「……えぇ、間違いないかと」

 

 シャッテンの答えに、ジークリングは唖然とする。

 確かに油断大敵だ。まさかこんなにも早く“その日”が来るなんて…。

 5年前の事が脳裏を走るが、しかし新任当時の自分とは違うぞと気を持ち直して、不安そうな表情を浮かべる生徒達の頭を笑顔で撫でてやる。

 

「とりあえず、救護室に運びますかね」

 

 

******

 

 

 1年2組のローリ・クレインが記憶の継承者になった。

 

 その知らせはすぐさまテフル魔法学園中に広まる。

 当然生徒たちの関心はローリが継承する知識の内容で、食堂はいつにもましてガヤガヤとさざめいていた。

 そんな中でルシアはいつもより早いペースで昼食を口に運ぶ。

 

「またしても救護クラブから…。【記憶の魔法】は情報系魔法の基礎。何故、その情報系魔法を司る我が後衛クラブから記憶の継承者が出ないんだ?」

「何故と言われても、こればかりは仕組みがある訳じゃないから。偶然だよ、偶然」

 

 同じテーブルを囲む6年生、その中の後衛クラブ部長を務めるフラセ・ドゥ・ラリオの文句とも言えないぼやきにルシアは苦笑する。

 そもそもの話、魔法適性を持って生まれてくる子供は少ない。魔法学園へ入学してくるのは例年30人前後、それを3組に分けるので1クラスの人数は10人程度。

 その少ない魔法使いの中から、だいたい10年に1人現れると言われる当人以外の記憶を持つ継承者。継承される記憶…知識は前世のものと異世界のものがある。

 魔法適性を持つ子供、記憶の継承、知識内容。カログリアの歴史は長いが、どうやったら我が子が、己がそれになれるのかと言うこれらの仕組みが解明された事はない。偶然、奇跡の産物である。

 

「唯一あるのは異世界の知識より前世の記憶の方が多い傾向にあるってくらいかな。それも絶対ではない」

「つまり、ルシアが異世界の知識だったからローリは前世の記憶、とは限らないと言う事ですわね」

「そう。起きたローリに聞いてみないと分からない」

 

 隣の席で優雅に食事していたリンジュ・フィオーレにルシアは頷く。

 

「ルシアに続いて救護クラブから2人目だぞ? 本当に偶然か?」

「偶然です」

「しつこくってよ、フラセ。お黙りあそばせ」

 

 尚もぼやくフラセに、ルシアとリンジュから間髪容れずに言葉が返ってくる。

 おまけに他の同級生からも「お黙りあそばせ」とリンジュの台詞をそのままにからかい口調で飛ばされて、フラセもついにフンッとそっぽを向いて閉口する。

 

「それにしても1年生の頃を思い出しますわね。ルシアが起きないとロクヤが大泣きして」

「ブハッ」

「ジークリング先生まで動揺なさって、忘れられない光景ですわ」

 

 フフフと良い笑顔で微笑む隣のリンジュ。

 そのリンジュの台詞に思いっきり噎せるのは、ルシアの正面の席に座っていたロクヤ・サティ・スファイだ。

 

「てめぇ、リンジュ…その話は、ゲホッゲホッ」

「あぁもう大丈夫? ほらロクさん、ゆっくり水飲んで」

 

 ルシアはロクヤに水の入ったコップを渡す。様子から見るに、気管の奥へは入っていなさそうだ。

 しかし…と、ルシアは隣のリンジュを見る。

 

「何?」

 

 ルシアの視線に気付いてリンジュが首を傾げると、サラリと肩から髪が流れる。

 リンジュの髪は美しく長いが、彼女がそれを結った姿をルシアは6年目の付き合いになる中で一度も見た事がなかった。食事の時などは邪魔だろうと思うのに、器用に汚す事なくこなしている。

 

「ロクさんには悪いけど、寝ていたからその時の様子は分からないんだよね。私が覚えているのは、起きた時に視界いっぱいにあったリンジュの泣き顔だから…」

「っっ!」

 

 カッと頬を赤らめさせるリンジュを横目に、ルシアはクスクスと笑う。

 

「さ、さぁ、そんな事ありましたっけ?」

「そんな事も何も、今日ルシアが起きるなら起きるまで動きません! て授業ボイコットして救護室に立て籠もったじゃねぇか」

「ルシアが寝ているベッドにへばり付いて、髪ボッサボサにして、こりゃダメだって先生達の方が折れただろう」

 

 違うクラスなのに。ロクヤとさっきまでそっぽを向いていたフラセの声が重なる。

 入学時に決まるクラス分けは6年間持ち越しとなる。4年生以降、どれだけ人数が減っても、だ。

 ルシアとロクヤは3組だが、リンジュはフラセと共に1組。

 あの日、起きた途端に違うクラスのリンジュに良かったと泣きながら抱きつかれたのは、ルシアにとっては心温まる思い出だ。

 まぁ、リンジュの方は違うらしいが。

 

「………2人とも、お黙りあそばし」

「やべ、これ以上はガチでキレるぞ」

「もう前のように吹っ飛ばされるのは御免だ」

 

「リンちゃんのふっ飛ばし芸は見事だからな!」

 

 パァンッ! 小気味いい音を一つ、手と手を合わせて鳴らしたのは残る2組の生徒、ユージン・キーファー。

 ユージンの向かいに座る同じく2組のアベニール・ハオスも手を合わせていて、2人共食器の中身は空になっている事から食事が終わったようである。

 それを見て、これはいけないとルシアは急いで食事を再開させる。

 

「ルシア、救護室へ行きますの?」

「うん。先に一度、ローリの様子を見ておきたくて。私も世話をする立場は初めてだから」

 

 救護クラブの部長として、直属の後輩でもあるローリが起きるまで彼女の面倒を見るのはルシアの役目である。

 その為、昼休みから午後の授業が始まるまでに準備や段取りを確認しておこうと、食事を急いでいたのだ。

 

「ごちそうさまでした! じゃぁ私行くね」

「お気を付けて」

「何か手伝える事があったら言えよ。後、いつも言っているが不審者が来たらすぐ追い返せ!」

「はいはい、ありがとうねぇロクさん」

 

 ロクヤの小言を聞き流しながら食器を片付けて、ルシアは食堂を後にする。

 その足取りは軽やか。きっと振り返ればロクヤがコケやしないかとハラハラとした面持ちで見ているのだろう。分かっているから、あえて振り返らないけど。

 

 彼等はルシアにとってとても大切な存在だ。

 ルシアが記憶の継承者となっても起きてくれたならそれでいいと態度は変わらなかったし、せっかくの知識を未熟さから上手く説明できなくてあからさまに落胆する大人達に「勝手に群がって来ておいて失礼な!」と怒ってもくれた。

 彼等がいてくれたから、知識を得てもルシアはルシア・ヴァーチュのままでいられた。

 知識を得る前と得た後では否応なしに見える世界は変わる。それは良い事ばかりではないが、大人しそうに見えて好奇心の強いローリなら必ず喜びとする事が出来ると、ルシアは先輩として信じていた。ルシアがそうであったように。

 希少、特別。自分を指してそう呼ぶのは憚れるけれど、自分と同じ体験を味わう者が増えるのはどうしたってワクワクしてくる。

 

「ローリ、目覚めた君が見る世界がどんなふうに変わるのか、楽しみだね」

 

 

******

 

 

「それじゃシシー、【清潔の魔法】を掛けてみようか」

「はいっ!」

 

 シシー・サングリエは思いっきり返事をした。

 目の前には救護室のベッドで身動き一つせず眠り続けるローリ・クレインの姿が。

 

 【記憶の魔法】の授業で受けた儀式からただ1人、ローリが目覚めなかった日の放課後。

 3日間眠り続けるらしいローリを、救護室にてルシア率いる救護クラブが世話をする事になった。

 と言っても朝、昼、夕方、夜の4回、衛生の為に【清潔の魔法】をローリに施すだけだと救護クラブ部長のルシアは微笑む。

 

「それだけでいいんですか? ご飯を食べられないなら、ローリお腹空きませんか?」

「現状、既にローリは【記憶の魔法】が続いている状態だから、あまり違う魔法を重ねがけしない方がいいの。もっと長期なら栄養状態を保つ魔法の使用も考えるけど、3日なら水分補給させれば大丈夫。代わりに、起きたらすぐご飯を用意してあげること」

「はいっ!」

 

 返事をするシシーの横で、2年生と3年生の救護クラブの先輩達は冷静にメモを取っている。緊張しているシシーの目には映っていない。

 意識の無いローリのお世話をする。ローリが起きたら、意識の無い人をお世話するやり方を教えてあげる。今のシシーの頭にはそれしかなく、やる気にみなぎっている一方、ルシアからの指示を頭で記憶しようとするばかりでメモする冷静さは欠いていた。

 【記憶の魔法】を習得したのでメモは必要無いと言う考えも頭の隅にあるのだが、細かな連絡事項はメモを取った方が実は手間が掛からない…と彼女が学ぶのはもう少し後である。因みにこの学びは学園生全員がいずれ通る道なので、教えてあげる先輩はいない。

 

「で、では! 【清潔の魔法】! 行きます!」

「そんなに気合入れなくても大丈夫だよ」

 

 決死の覚悟、のような顔で構えるシシーにルシアは「どうどう」とその頭をゆっくり撫でて落ち着かせる。

 1年生のシシーに任せている時点で分かるように、【清潔の魔法】は簡単な魔法だ。すぐに終わる。メモを取り終わった2年生と3年生がガチガチに緊張している後輩をよそに、おやつの用意をしているくらいである。

 

「ふぅー………出来ましたぁ…」

「うんうん、ご苦労様」

 

 ローリに無事【清潔の魔法】を施し終え、額の汗を拭いながらシシーはやりきった表情になる。もう一度言っておくが【清潔の魔法】は簡単な魔法だ。

 それでも、一仕事終えた後輩を先輩達は拍手とおやつでもって労うのである。

 

「おや、今日は何かのお祝いかい?」

「うわぁあっ!!」

 

 皆でおやつを頬張っていると、音もなく、急に現れた不審者に救護クラブは驚きの悲鳴を上げた。

 

「チャ、チャチャイさん」

「やぁ救護クラブさん達、毎度驚かせてすまないね」

「そう言うなら毎度いきなり現れるのは止めて、普通にドアから入って来て下さいよ!」

 

 咄嗟にルシアにしがみついてしまったシシーが恐る恐る顔を上げると、この前の長期休暇明けに知り合い、以降なんやかんやと付き合いがあってすっかり顔馴染みになったヴァロータ・チャチャイがそこにいた。

 

「これはお詫びの品だ。皆さんでおやつにどうぞ」

「あ、これはどうも。いつもありがとうございます」

 

 食べかけのおやつを置いて、チャチャイから差し出された包装された箱をルシアが受け取る。

 救護室に顔を出す度にチャチャイはこうやっておやつを差し入れしてくれる。今広げているのもチャチャイからの物だ。

 学園外部の人間から物を受け取るのはあまり褒められた行為ではないのだが…費用は全て無料のテフル魔法学園の生活でも、おやつは支給物に含まれていない。支給されるお小遣いや部費をやりくりして賄うように、と言うのが生徒の金銭感覚を養わせたい魔法学園の教育方針だ。

 その為、タダで貰えるおやつは学園生達には喜ばしい物なので有難く受け取っておく。

 

「スファイ先輩に怒られるから、いつも通り内緒ね」

 

 3年生の先輩がしぃっと人差し指を口元に当てて言うので、シシーは素直に頷く。

 おやつ調達に苦労している他のクラブに知られるのも厄介だが、チャチャイが気に入らないと言って憚らない6年生のロクヤ・サティ・スファイに知られようものなら、救護クラブ全員で正座させられた上で長い説教を聞く羽目になる。

 途中退学者のチャチャイは元学園生には含まれず不審者扱いとなる。登用係からの物品の授与は公平性に反する。等々、チャチャイからおやつを貰ってはいけない真っ当な理由は一応あるのだが、スファイがチャチャイを気に入らない本当の理由は後輩の中では周知の事実であった。

 肝心のルシアだけが分かっていない状況だが、わざわざ口にするのは野暮と言うものなので後輩達は黙って見守っている…。

 

「でもさっさとくっついてもらえば、目くじらを立てられる事もなくなるのでは?」

「いやぁあのタイプは余計執着するでしょう…」

「ローリが言っていましたけど、物件としてはチャチャイさんの方が優良じゃないかって」

「物件って…。まぁ、それはそうだけどね。現状では付き合いの長さ以外スファイ先輩に勝ち目ないし…」

「この際、それもありなのでは? 意外とお似合いなんじゃないですか?」

「おやつのセンスも良いですしね」

 

 多少のお喋りは御愛嬌で。

 おやつを囲ってひそひそと喋る救護クラブの後輩達を視界に入れつつ、救護室を見渡したチャチャイは首を傾げながら包装を解いて箱の中身を確認しているルシアに尋ねる。

 

「ルシアくん、ローリくんの姿が見えないが今日はお休みなのかな?」

「ローリならあちらの、カーテンがしてあるベッドで寝ています」

「…具合でも、悪いのかい?」

「ご心配なく。今日1年生は【記憶の魔法】の最初の授業だったんですよ」

 

 確認し終えたおやつを、見付からないように棚へ仕舞いながらルシアはそう答えた。

 魔法使いならその説明だけで事足りる。案の定、片側だけ見えるチャチャイの目がゆっくりと開かれていく。

 

「ローリくんが……そうか。そうなのか」

「えぇ。起きるのは3日後です」

「今日はこれでお暇するが、ローリくんの顔を見て行ってもいいだろうか?」

「チャチャイさんならローリも構わないと思いますよ」

 

 席に戻って食べかけだったおやつを再び手に持つルシアが了承すると、チャチャイはシシー達の横を音も立てずに横切ってローリが眠っているベッドへと向かう。

 ルシアが戻って来たので後輩達のご愛嬌なお喋りは終了だ。

 

「いいんですか?」

「大丈夫でしょう。気になるなら、シシーが近くで見ていると良いよ」

 

 チャチャイがローリに何かするとは思わないが、何となく気になったシシーはルシアに言われたのもあってチャチャイの後を追う。

 カーテンをめくって中の様子を窺うと、チャチャイはベッド脇に佇んで眠るローリを眺めていた。

 

「知識を継承している最中の継承者を見るのは流石に初めてだが、本当にただ眠っているようにしか見えないんだね」

「は、はい。でも揺すっても大声で呼んでも、全然起きません」

「そうなのか」

 

 シシーから見ても、ローリは寝ているだけだった。

 ローリの肌は元々白い方だがそれが青白くなっている訳でもなく、ベッドに横たわっている姿でも具合が悪そうには見えない。

 寝息は規則正しく、先程測らせてもらったが脈拍も正常。触るとモチモチしていて気持ちいいふくよかなほっぺも変化なし。

 でも、好奇心に輝く大きな瞳を見られない事がシシーを不安にさせた。

 妙に落ち着いた性格のくせに、意外と好奇心が旺盛で何かしらの事態に遭遇しても慌てるどころかワクワクし、それを表情に出して隠しもしない。

 相当な度胸があるらしく、不審者扱いを受けるチャチャイともルシアの次に早々に打ち解けてしまった。おやつの差し入れ以上に、懐くローリがいたから救護クラブはチャチャイに慣れる事が出来たと言える。

 そう思うからこそ、チャチャイが来ているのにローリが寝ていて相手をしない今の状況がシシーにはとても違和感があって仕方がなかった。

 

「無理なのは分かっていますけど、早く起きてくれないかなって思います」

「そうだね。私もそう思う」

 

 シシーもローリの側まで寄ってその顔を見る。

 いつも一つに括っているこげ茶色の髪はベッドに寝かせる時に担任のシャッテン先生が外してあげたそうで、今は枕の上に沿って整えられていた。高い位置で括られていたから、下ろされているのを見ると思っていたより長かったのだなと気付く。

 ふと、チャチャイがローリの頭へと手を伸ばす。……が、触れる寸前で自分の掌を見て引っ込めてしまう。

 

「ではこれで失礼しよう」

「もう行かれるんですか?」

「女性の寝顔をいつまでも眺めるなんて無粋な真似はしないさ」

 

 そう言い残してチャチャイはカーテンに囲われた空間から出て行った。

 

『わろたさんは紳士だよ。スファイ先輩は見習うべきだと思うなぁ』

 

 前にローリがそんな事を言っていたのを思い出す。

 またチャチャイを追い掛けてシシーもカーテンの外へ出ると、チャチャイはあっと言う間にドアの方へと移動していた。

 

「ではまたね、救護クラブさん達」

「はい、差し入れありがとうございました。お気を付けて」

 

 じゃ、と軽く片手を上げて去っていくチャチャイに、救護クラブの先輩達はおやつをしっかり握るのとは反対の手を振って見送る。

 チャチャイの姿が見えなくなってから、シシーはもう一度カーテンをめくってローリを見た。

 

「気のせいかもしれないけど、わろたさんも心配そうだったよ。早く起きてね、ローリ」


一区切りと言う事で、明日の更新はお休みしまぁす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ