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04 若返り効果

 リンジュ・フィオーレ。

 6年1組。音楽クラブ部長。

 強い矜持があり、優雅にして気品溢れる雰囲気を纏っているので一見近付きがたい印象を与えるがその実、悪戯っぽい一面も持っている。

 冷静で、成績は学年一優秀。音楽クラブの部長らしく音楽に精通し、扱えない楽器はないと言われている。戦闘面においても、接近戦こそやや不得手で仲間のサポートに回る事が多いが、1人の場合は遠距離からまるで曲を奏でるが如く緻密に計算された魔法を操って敵を搦め捕る。

 容姿は極めて端麗。特に、結う事なく常に流している髪は大変美しく彼女の美髪に憧れる女子は後を絶たない。

 まさしく、学園きっての才女。

 

 フラセ・ドゥ・ラリオ。

 フィオーレ先輩と同じ6年1組。後衛クラブ部長。

 曲がった事は大嫌いな性分の堅物熱血漢。一流の魔法使いを目指して鍛錬を怠らない努力家。

 戦闘面においては接近戦を得意とし、魔法と体術両方を操る。短気で突っ走るところがあるものの、情報系魔法を司る後衛クラブの部長は伊達ではなくその情報収集能力から状況判断は早い。

 あらゆる技術や魔法に総合的に秀でており、現時点で大人顔負けに仕事をこなせるとして中央組織の魔法師団への就職が既に決まっている。

 尚、容姿の方も大人顔負け…つまり老けて見られる事が多いが、これは鍛練や作業のし過ぎの疲労と眉間等に残った皺で貫禄があるように見えているだけである。

 

 以上、『カログリアシリーズ』のあらゆる情報をまとめたサイト「ウィキ」より、先輩2人の紹介文を一部抜粋。

 この2人、一部のファンからは美女と野獣なんて呼ばれ方をしている。

 でもお肌のコンディションがよろしくないだけで、ラリオ先輩はけして不細工ではない。イケメンと言うよりは男前かな。

 

 2人はお互いに想いを伝える事なく、卒業後はわろたさんも知っている通りの進路で離れ離れになる。

 そしてその数年後、戦場で卒業以来敵として再会を果たすのだ。

 そして…。

 

「それにしても流石と言うべきか、見事な演奏だな」

「ですよねぇ。フィオーレ先輩の演奏が聴けただけでもラッキーですぅ」

 

 わろたさんがフィオーレ先輩の奏でる曲へ率直な感想を述べた。心から同意。

 フィオーレ先輩が部長を務める音楽クラブは、楽器や歌の活動を行っている。

 ただの音楽と侮るなかれ。魔法使いは音に魔力を含ませて人間へ様々な影響を与えたり、時には強烈な攻撃にしたりも出来るのだ。この「音に魔力を含ませる」がクラブに振り分けられる魔力適性になる。

 学園きっての才女、フィオーレ先輩の演奏は素人的表現で申し訳ないけど端的に言えばお金が取れるレベル。

 気位の高い先輩は練習する姿を人には見せないので、何らかの催し物でもない限り先輩の演奏を聴く機会がない。まぁ頼めば聴かせてはくれると思うけど、一筋縄ではいかない…的な話が『テフル魔法学園生シシー』にある時点でお察しである。悪戯っぽい一面があると言われる所以だ。

 

「あれ、止まった?」

「ラリオくんに気付いたのだろう」

 

 演奏が止った事に首を傾げると、わろたさんの言う通り楽器を置いて入口の方を向くフィオーレ先輩の姿が透鏡に映し出されていた。

 角度的に東屋の入口は見えないけれど、扉が開く音が微かに聞こえた。

 

『悪い、リンジュ…。一曲頼む…』

『相変わらず酷い顔ですこと。いつもより更に10歳は老けて見えましてよ』

 

 東屋での、フラセ先輩とフィオーレ先輩の会話が明瞭に聞こえてくる。

 それにしても声からしてフラセ先輩は大分お疲れのようだ。こんな声、後輩に聞かせた事はないのだろうなと思う。

 

『もう少しで総会だからな、情報整理と資料作りに追われて終わらないんだ…』

『我が音楽クラブの部費の増額はあるのかしら?』

『総会まで非公開だ、あほう…』

 

 東屋に置かれた長椅子にフラセ先輩が倒れ込む。

 

「あぁ、総会。各生徒に支給されるお小遣いと、クラブに振り分けられる部費の額を決める話し合いか。卒業して此の方、すっかり忘れていた」

「特に部費は各クラブの争奪戦で毎回大荒れになるのに、卒業したからって忘れられるものなんですかぁ?」

「…それこそ私、フラセくんと同じ後衛クラブだったから。1年で抜けたけど、とにかく予算書を前に眠かった事しか覚えていないな…。【記憶の魔法】で確認しようとすると若干吐き気が」

「もういいです理解しました。お疲れ様ですぅ」

 

 1年生の頃のわろたさんに興味はあるけど、それは置いておいて…。

 情報系魔法の後衛クラブの活動には、今言ったように予算決めや経費計算などがある。情報は集めるだけでなく精査しまとめるのも大事、と言う事で。学園運営の一端を担っている為か、後衛クラブに与えられている権限はそれなりに強い。

 時期が決まっているとは言え、捌く資料は膨大でその労力は半端なく、総会前にはよく寝不足で隈を作っている後衛クラブ部員が見掛けられる。回復を求めて救護室にやってくる姿は完全にゾンビだ。

 事務仕事が主で、地味に見られがちなクラブだけど、同時に就職率はかなり高い。

 『カログリアシリーズ』の人気が出てブームとなった時、タイアップイベントで後衛クラブのイラストと共に「確定申告はお早めに」と書かれたポスターが発表されていた。経費予算の管理が大変なのって、何処の世界も一緒なんだなぁ。

 

『いつも通り、一曲分で起こしてくれ…』

『ルシアに頼んで疲労回復の魔法を掛けてもらう方が早いでしょうに』

『後輩達にはそうさせているし、仮眠もとらせている…。だが俺が行ったらやれ何徹目だ、やれ睡眠不足は万病の元だ、やれとにかく寝ろと小言が煩くて敵わん…』

『部長と言う立場の辛いところですわね。まぁ良いでしょう。いつものように、癒しの曲とわたくしの髪の梳かしで労ってさしあげる』

『いつも思うが、髪を梳かして労われるのはお前じゃないか…?』

『わたくしの髪に触れられるのよ? 曲以上の癒しではなくて?』

『……へいへい、さようでございますねえ』

 

 フラセ先輩が投げやりに答える。思考を放棄したようだ。

 フィオーレ先輩は改めて楽器を構え、演奏を始めた。ゆったりとした眠りを誘うと共に、心身が癒されていく曲。

 実際、音には魔力が込めてあって曲の効果を確実なモノとする。フィオーレ先輩が演奏するのだから、ルシア先輩の魔法に及ばずとも疲労回復の効果は一曲分でも相当あるだろう。

 

 それはそうと。

 

「……っ…くぅううう~」

 

 私は歓喜に身震いする。

 

「これですぅ、わろたさん。今の会話が聞きたかったんですぅ」

「え? 今の会話の何処に、そんな喜ぶ要素が?」

 

 珍しくわろたさんが驚いた顔になる。

 

「確かに良い雰囲気と言われれば、良い雰囲気だけど。仲の良いクラスメイトの枠は超えていないように思えるのだが」

「まぁお互いに自分の気持ちに気付かれないように振舞っているから仕方ないです」

 

 学生時代の2人が登場する『テフル魔法学園生シシー』でも、2人に限らず、児童書と言う事もあってか恋愛描写はないに等しい。あくまでもシシーを中心に爽快な学園生活を描いた物語だから。

 『カログリア王国戦記』で両想いなのが判明しているからそう言う風に見てしまいがちだけど、他の「同じクラス」の仲良しさん達と比べて特別に仲が良いような描かれ方はしていないのだ。

 

 と、長い間思われていた。

 

 実は『テフル魔法学園生シシー』に、フィオーレ先輩からのサインと言うべきかアプローチと言うべきか、フラセ先輩への好意を示す言動があったのである。

 それは今の会話にも紛れていて、それを聞けて私は大変満足している。

 

「今の会話には、フィオーレ先輩からの熱烈な想いが込められているのですよぉ。10歳は若返った気分です」

「10歳って…ローリくん3歳になってしまうよ」

「フィオーレ先輩が南のノトスのご出身なのはご存知ですよね」

「存じているよ」

「実は、あそこにはですねぇ…」

 

 わろたさんの近くへ寄ってヒソヒソと耳打ちする。それは異例の長寿作品である『カログリアシリーズ』において、かなり後になって明かされた重大な情報。

 カログリア王国の住民であっても知っている者は極僅かとされている。反応から見ても、わろたさんですら間違いなく知らない。

 屋上には私とわろたさんしかいないのだから、わざわざ耳打ちする必要はないのだけど……なんとなく、ね。

 

「それは…」

 

 私から明かされた情報に、わろたさんはさっきとは違う驚いた顔をする。

 

「…成程。私も若返った気分だ、20歳くらい」

「と言う事はわろたさん9歳ですねぇ」


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