第4話 弁解してる間に戦闘が始まった
部屋は重苦しい沈黙に包まれていた。
「本当に違うんだ!」
俺は必死に叫ぶ。
「毒なんて知らない! 誰かが俺を陥れようとして――」
「黙れ。」
魔族兵の一人が剣を抜き、その切っ先を俺の喉元へ突きつけた。
「証拠はすべて揃っている。」
「だから、それは誰かが――」
反論しようとした瞬間、それまで部屋の外で様子を見ていた奴隷たちが次々と前へ出てきた。
「あいつです!」
一人の男が俺を指差す。
「ずっと前から怪しいと思ってました! 『魔族なんて一人残らず殺してやる』って、そんなことを平気で口にしていたんです!」
「夜中もずっと何かぶつぶつ呟いていました!」
「隊長を殺すため、この村へ潜り込んだに違いありません!」
次々と飛び出す証言に、周囲の魔族たちの視線はますます険しさを増していく。
「最初からスパイだったというわけか。」
「違う!」
俺は声を張り上げたが、誰も聞こうとはしなかった。昨日まで同じ小屋で寝起きしていた奴隷たちが、今は口々に俺の罪を証言している。その光景を前にして、俺はようやく理解する。
――あいつら、最初から俺を犯人にするつもりだったんだ。
「そんなこと一言も言ってない!」
必死に否定するが、その声は次々と重ねられる証言にかき消されていく。
「こいつ、最初から妙に怪しかったんです。」
「急に態度を変えて魔族に媚び始めたんですよ。」
「魔族に取り入っているふりをして、内心ではずっと嘲笑っていたに違いない!」
まるで事前に口裏を合わせていたかのような証言が続き、部屋の空気は完全に俺を犯人と決めつけていた。
ノールは険しい表情のまま黙って俺を見つめている。
「悠真……本当にお前なのか?」
その目には迷いが浮かんでいた。昨日まで自分の角を褒め、酒を酌み交わした相手だ。本心では信じたいのかもしれない。だが、毒薬という物証があり、さらに複数の証言まで揃ってしまえば、疑わない方が無理というものだった。
(くそっ……完全にはめられた……!)
どれだけ無実を訴えても状況は俺に不利すぎる。このままでは誰にも信じてもらえないまま処刑される――そんな最悪の未来が頭をよぎった。
歯を食いしばった、その瞬間だった。
ドォォォォォン!!
腹の底まで響くような爆発音とともに建物全体が激しく揺れ、天井から土埃がぱらぱらと降ってくる。
「何だ!?」
誰もが外へ視線を向けた直後、廊下を全力で駆けてきた魔族兵が扉を勢いよく開け放った。
「ノール様!!」
「どうした!」
「大変です! 連合国軍です!」
「何だと!?」
「人間どもが村へ攻め込んできました! 外壁はすでに突破されています!」
その報告に部屋の空気が一変し、ノールは即座に剣を抜いた。
「敵の数は!」
「少なくとも数百! まだ増えています!」
「くそっ……!」
ノールが舌打ちした、その時だった。
バァァァン!!
再び轟音が響き、今度は部屋の壁そのものが吹き飛ぶ。石や木片が激しく飛び散り、視界を埋め尽くした土煙の向こうから、全身を鋼鉄の甲冑で覆った兵士たちが姿を現した。
その手には、この世界では見たこともない黒い金属製の武器が握られている。
長い銃身と木製の銃床。
どう見ても見間違えようがない。
(……は? 鉄砲!?)
思わず三度見したが、何度見ても鉄砲だった。
(いやいやいや、ちょっと待て! ここ、剣と魔法のファンタジー世界じゃなかったのかよ!? なんで近代兵器が出てくるんだ! 世界観どうなってんだ!!)
隊列の先頭に立つ指揮官が剣を高々と掲げた。
「全隊!」
その号令とともに、兵士たちは一斉に銃口を魔族へ向ける。
「人間は撃つな!! 魔族のみを狙え!!」
一瞬の静寂が場を支配し、次の瞬間――
「撃てぇぇぇぇぇ!!」
ダダダダダダダダダッ!!
耳をつんざく銃声が響き渡る。放たれた銃弾は容赦なく魔族たちの身体を貫き、悲鳴とともに次々と床へ倒していった。
「ぐあぁぁぁ!!」
「ぎゃああああ!!」
魔族たちも炎や雷の魔法で応戦するが、圧倒的な弾幕を前に距離を詰めることすらできない。
「隊列を崩すな!」
「次列、撃て!」
ダダダダダッ!!
絶え間ない射撃によって魔族たちはじりじりと後退を余儀なくされる。
「くそっ!」
ノールは炎の魔法を地面へ叩きつけ、大量の煙を巻き上げた。
「全員、退け!」
煙幕に紛れ、生き残った魔族たちは森へ向かって走り出す。その途中でノールだけが足を止め、煙越しに俺を振り返った。
「悠真ァァァァ!!」
怒りと悔しさを滲ませた叫びが響く。
「覚えておけ! 貴様だけは必ず見つけ出す!」
「そして、この手で殺してやるからな!!」
そう言い残すと、ノールは炎と煙の向こうへ姿を消していった。
やがて銃声も収まり、戦場と化した村には静寂が戻る。地面には魔族の死体が無数に転がり、焦げ臭い煙だけがゆっくりと漂っていた。
俺はその光景を呆然と見渡す。
目の前には武器を構えた連合国軍。逃げ延びた魔族からは毒殺犯として命を狙われ、奴隷たちからは裏切り者として憎まれている。おまけに俺自身は冤罪を晴らせないまま、この騒動のど真ん中へ放り込まれていた。
自分の置かれた状況を改めて整理した俺は、思わず深いため息をつく。
「……これ、俺だけ詰んでないか?」
魔族からも人間からも信用を失ったまま、俺の異世界生活はとんでもない方向へ転がり始めていた。




