議論は皮肉の応酬と共に
ようやく書きたいことろが書けますねぇ!
というわけで定期試験編が始まりまする
―――シモン中央学園・特別対応教室/昼―――
授業終わりの特別対応教室は、今日も今日とて混沌としていた。
「そこっ!」
「あぶなっ」
「なんで死角からの攻撃を察知できるんですかねぇ先生は!?」
「当てたいなら足音と気配を消せ」
「死角を発見、同時攻撃」
「動きは速いが狙いがわかりやす過ぎる」
授業が終わった途端、生徒全員が教師の僕に飛びかかってくるのは最早恒例行事となった。避けた拍子に廊下に転がり落ちたとしても、道行く生徒や教師は一瞬だけ驚いたような顔をして、直ぐに視線を外すまでに。
「隙できましたわね先生!蛇のように滑らかに突いて差し上げますわ!」
「それは罠、よっと」
「っ!?」
飛びかかって拳を振りかぶって来たラヴィニアの片腕を掴み、その勢いを利用しつ魔術で加速、教室に投げ返しマキナ諸共巻き込む。
「⋯⋯さすがにキビしくなってきたな」
特別対応教室の教師を始めて二か月ほど経過しているが、最初に提示した課題、授業を除いたすべての時間を「先生である橘立花を倒す」という問題は未だに解かれていない。
だからといって生徒が成長していないというわけではなく、むしろ著しい成長速度ではある、その証拠に最近は速攻による一撃決着が通じなくなってきており、組手のように攻防入り混じる時間が長くなってきている。
⋯⋯そもそも、僕は近接戦闘が得意ではないから当然ではあるのだが。
「そう言えば先生?そろそろ定期試験だけれど」
吹き飛ばされたマキナとラヴィニアが立つのに手を貸しながら、カリスタはそう問うた。
定期試験。
シモン中央学園のような魔術学校といえど、当然ながらテストがあり、それが定期試験である。
魔術をどれだけ学んだか、魔術をどれほど使えるか、普段教えられた内容をしっかりと覚えているか、それらを確かめるための制度である。
絶え間ない研鑽と向上、自由と発展を目的とするシモン中央学園にとって重大なイベントであり、場合によっては停学や落第すらあり得る試練。
そして生徒達にとっては悪夢でもあり悩みの種でもある。
「うっへぇ⋯⋯そういやそんなのあったな⋯⋯」
「わたくし艱難辛苦を踏破する物語は好きですけれど、今回ばかりは本を閉じたい気分ですわ」
「そんなに気負ったり嫌がる必要はないでしょう?授業で学んで復習したことを思い出して、問題を解いて答えを書くだけなんだから」
「疑問、応用問題ならともかく、計算問題なら公式を利用すればいい」
「其れができるのはお前ら二人だけだわ天才共」
たとえ魔術の学校といえど、生徒からすれば蛇蝎の如く嫌われるのは無理もない。
実際、僕も大学時代は反吐が出るほど嫌いだった。指定された魔術使用時による大気中魔力濃度計算とか二度とやりたくない。
「あ、橘先生、少し渡したいものが」
「ファラグス・フランクリン先生?」
過去の苦い思い出を懐かしんでいると、人事部に所属していながら教師もやっている人物、ファラグス・フランクリン先生が声をかけてきた。
「数日後、定期試験があるでしょう?其れのことなんですが⋯⋯」
「というと?」
「⋯⋯こちらを」
フランクリン先生は手にしていた書類を渡される、見ろということなのだろうから読んでみることにした。
――――そしてその内容、僕は絶句した。
「⋯⋯あの、フランクリン先生」
「まぁ、はい、言いたいことはわかります」
「じゃあ退職届出してきますね」
「待ってください自分だけ逃れようとしないでくださいオレも出したいんですから」
「じゃあ一緒に出しに行きましょう」
「いいですねそれ行きましょう」
無論ダメだった。
現実は非情である。
―――シモン中央学園・第一会議室/昼―――
事の発端は、数日前の会議室であった。
重厚な両開き戸が閉まり、分厚く重たいカーテンで締め切られた会議室には、微かな雨音と書類をめくる音、議論の言葉だけが響いていた。
その一室に居るのは老若男女様々であるが、醸し出している雰囲気からは重鎮や幹部の類だと察することは容易い。
その中には、五大学派の代表、彼ら彼女らの姿もあった。
「では、次の議題は定期試験の内容についてですが⋯⋯例年通りの内容にするか、しないかになります」
進行役らしき人物が語り終えると、一人の女性が真っ先に手を上げた。魔女の帽子を被り軍服の上から黒羽のマントを羽織った、カラスのような装いエアロである。
「では、エタル・プレーアハンさん」
「10年前のロマノフ帝国との戦争、雪杖の争いで多くの教員が戦死しました⋯⋯そのためより実戦的な内容にすべきだと思われます」
シモン中央学園の定期試験の内容は、二種類に分けられる。
卓上で問題を解き、テスト用紙に答えを書く学術試験。
実践による練度を見るために、提示された目標を達成する実践試験。
しかし実践試験といっても、多くは的に向かって魔術を放つだけだったり、時間内に提示された術式を構築できるかなどといった物が多い。
それは偏に、シモン中央学園が魔術学会という研究機関の本部を兼ねていることもあるだろう。
学者は研究と探求が目的であって、戦う者ではないが故に。
「しかしそれは生徒に殺しの手法を教えるようなものではありませんか?」
無論、反論は出てくるものだった。
その理論は、生徒相手に殺し合いを教えるようなものであり、生徒が何れ軍人になり戦争へと赴く未来が確定しているような物言いなのだから。
「っ⋯⋯いいえ、それは違います、殺しの手法ではなく、殺しの手法から身を守る手法を教えるんです」
「たとえ貴方がそう言ったとしても、生徒の親御さんや期末試験を見に来ている各企業やパトロンはどう思うでしょうね?」
「⋯⋯⋯⋯」
その発言は、会議室の沈黙を起こすには十分な威力を持っていた。
たとえ魔術学会が研究機関だとしても、金という社会構造の根幹を担うものから逃れることは出来ず、資金を出しているパトロンがいるのは当然である。
なによりも、その関係性は時として対等ではなく、一方的な物言いが通るようなこともある。
誰もが口を閉じて。
誰もが思考を閉ざして。
誰もが座っていた。
ただ一人立っていたエタル・プレーアハンだけが、拳を力強く握っていた。
「⋯⋯魔術とは、えてして危険なものです」
だが、彼女のその一言、学園長セフィラ・ソフ・オウルの一言で、全員が背を正した。
「元素学派だとしても、五行学派だとしても、伝承学派だとしても、ルーン学派だとしても、理論学派だとしても、扱い方を誤り失敗したのならば、容易く人の命を奪えるものです⋯⋯この場にいる皆々様は、誰よりもそれを理解している、そうでしょう?」
その言葉は、この場にいる誰もが心底理解していた。
魔術学会の幹部であり、シモン中央学園の教師でもある彼ら彼女らは、学生時代に部屋の一度や二度、はたまた何度も吹き飛ばしている過去を持つ人物。
その記憶が脳に刻まれて無くとも、体に残っている実験の傷痕は忘れることはない。
忘れられることは、出来やしないのだ。
「⋯⋯汝が語りたい言の葉の本質は、其れでは無いのだろう?」
その一言は、先程学園長が作った峻厳な雰囲気を打ち消すほどの衝撃を持っており『その人物が口を開いた』という事実は、セフィラ・ソフ・オウルが一瞬だけ目を見開くほどだった。
「此度の議題は、定期試験の内容を変えざるべきかというものであるが故に、汝の言う魔術の危険さを語る場にあらず」
薄紫のロングヘアーを後ろで編み込んだ、長身痩躯で針金細工のように細い肢体でありながら大きな体を持つ女性の龍。
五大学派の中でも最も寡黙でありながら、最も過激であると呼ばれる人物。
五大学派が一人。
五行学派の代表が一人。
龙 见星。
「斯様な場でも、迂遠に語るのならば、己の思案を口にしていないと同義ではあらずや?」
単語一つ一つ、文字一つ一つに魔力が宿っているように、会議室一帯の押し潰さんばかりの圧を隠そうともせずに、淡々と語る五行学派代表の龙 见星。
だからといって、その言葉を向けられたセフィラは怯むことも動揺することもせず、しかし激昂することもせずに、態度すらも変えずに返答した。
「えぇ、ですが失敗は大切です、失敗は成功の母とは言うのですから」
「如何にも、されど一度失敗すれば己の命を失う失敗を許容するのは、愚の骨頂と言う他無い、幾ら阿呆と言えど其れを理解していないのならば獣同然であり、汝はそうではないのだろう?」
のべつ幕無しに、滔々と語る五行学派の代表。
回りくどく古い言い回しだが、その内容は皮肉や煽りが込められているということは、この会議室にいる全員が知っていることだった。
だが、その程度の煽り文句で意思を曲げるのならば、セフィラ・ソフ・オウルはシモン中央学園の長になっていない。
「であるならば、安全に失敗すること、正しく誤ることを出来る場を用意するのが最良ではないでしょうか?」
歴然と、会議室の静寂を切り開くようにして、凛とした声が響いた。
ちなみに五行学派代表が初期で出なかった理由は「魔術の性質上、下手に喋れないから」からです嘘ですこじつけです設定固まってなかったんです。




