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シモン中央学園の問題児達は斯く語りき  作者: 糸又 字四
「うたかたのゆめまぼろしがごとく」
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むこうぎしにいこう!

質問とか募集したいんですけど、どうすればいいんですかねぇ⋯⋯

「さて、状況を整理するわ」


眼の前にて、大量の水が流れ込んでいる大穴の前で、一同は床に座って状況を考える。


「まず目の前に巨大な大穴があるわ」


「そんでもって向こうに扉があって、案内人の杖で確認した結果、あっち側にいかなくちゃいけない」


「ですが、向こうに渡る手段が現状ではない、と」


腕を組んだり、顎に手を当てたり、頬に手を添えたりとして考え、最初に口を開いたのは、マキナ・マクスウェルだった。


「提案、カリスタの飛行魔術」


「無理ね、その前に魔力が尽きるわ」


マキナが提案するが、カリスタ自身が即答する。だが魔力の問題を解決したのならば、渡れるのではないかと考えたジキルが続けるようにして質問する。


「じゃあ自分達が魔力を供給したらどうだ?どうせお前のことだし人数分の飛行魔術くらい維持できるだろ⋯⋯」


「維持はできるわ、でも万が一にでも足りなくなって落っこちたら不味いでしょう?」


カリスタが暗に『死んだら不味い』と言った発言と共に向けた視線で射抜かれた夢の案内人は答える。


「そうだね、この前言った通り、夢の世界で死んだりすると更に深く眠ってしまう、二度と覚めないほどに、何日も眠ってしまうほどに、ね」


過去には何年も目覚めなかった人も、文字通りに二度と目覚めなかった人もいたよ。と、微笑みを崩さずに付け加える案内人。

その姿に、その情報に、悪寒を感じない人物はいなかった。


「ロープとかを投げるのはいかがでしょう?」


「この距離は届かんだろうし、そもそもロープが無いしなぁ⋯⋯」


全力で物を投げたとしても、穴の半分にも届かないどころか、その半分程度の距離しか届かないだろう。

たとえ魔術で加速したとしても、濁流に飲み込まれてロープの片端は地の底に流れていくのは確定的である。


「周囲の水流を凍らせたりとかは?足場ができればジキルの魔術で繋げられるわ」


「不可能、あの勢いの水流を凍らせても即時崩壊する」


カリスタの提案を棄却したマキナの言う通り、水流の勢いはかなりのものである。

仮に泳ごうとでもしようものなら、子供の体格である彼ら彼女らは簡単に飲み込まれてしまうだろう。


「どうする?回り道でもするか?」


「⋯⋯最悪の場合そうするしか無いけれど、向こう岸に繋がる道がなかったら本当に詰みね」


その言葉に、殆どが沈痛な面持ちをするが、それでもなお考え続けた。


カリスタは諦めきれないのか顎に手を当て考える。

ジキルは念のためにメモ用紙に沢山のルーン魔術を書いている。

マキナは膝を抱えていつもと変わらない鉄面皮で考えている、ように見える。



そしてラヴィニアは、ラヴィニア・カーターは、突如として立ち上がった。


「⋯⋯あ、そう、そうですわ!」


「うおぁっ⋯⋯どうしたんだいきなり?」


「嗚呼!どうしてわたくしは忘れていたんでしょう!?どうしてこの志を忘れていたんでしょう!?」


いきなり立ち上がり、滔々と口から言葉を紡ぎ続けるラヴィニア。


「物語を愛するものならば忘れべからざる信念!物語を作る側ならば忘れられない考え!腕を動かし足を動かし脳を動かしてその信条を遂行しなければいけません!!わたくしがそうであるが故に、わたくしがそちら側であるが故に!!わたくしはその情熱で身も心も薪にして認識して知ったもの全てを火に焚べなければいけなかったんです!!!世界とは物語の集まりなのですわ!!人生というくだらない物語をねじって束ねて集めて纏めると出来るモノ!苦痛に満ちた苦汁のような人生も、甘露な味しか知らない甘味のような人生も、あらゆる人生という一切は世界を続けさせるインクの染みにしかなり得ない⋯⋯嗚呼!これだから世界はなんってくだらないのでしょう!!!最高です!最高の気分です!!現実で手にした武器を空想に持ち込んで好き放題にやりたい放題!遍く虚構を手中にし、非現実に攻め込む!これほど楽しいことがあるのでしょうか!?いやないでしょうし有るはずがありませんわ!!!」


一切止まること無く、のべつ幕無しに語り続ける、ある種の狂気にも似たその姿から何かを感じ取ったのか、カリスタはラヴィニアに問いかけた。


「⋯⋯もしかして、いるの?この状況を解決できる子が、召喚できるの?」


しかしその問いには、首を横に振り否定するラヴィニア。


「残念ながら居ませんし存在しませんわ⋯⋯ですが今この場で居ないのならば、まだこの時間で存在しないのならば――――


彼女は両腕を大きく広げてから、宣言する




「――――《《作ればよいのです》》」


その目は、狂気にも似ていた。

その瞳は、天才にも似ていた。

その脳は、作家でしかなかった。


作家という、執念と狂気によって何かを生み出すことをやめられない生物だった。

召喚魔術師という、空想を以てして現実へと氾濫し、不条理や障害へと反乱する生物だった。


彼女は自らのロングスカートに手を突っ込むと、不思議なことにスケッチブックが取り出され、その一冊を地面に大きく開く。

明らかにそのサイズは大きく、ロングスカートといえど入り切る量ではないが、それこそ魔法のようなものだろう。


「さぁさ皆々様でアイデアを出しましょう!アイデアを出すのは創作の一歩です!」


「ちょっと待て、そのスケッチブックは何処から出した?」


「秘密ですわ」


「今そのロングスカートの中から出してなかった?」


「乙女の秘密ですわ」


■■

■■■


「えぇと、まず向こう岸に渡る必要があるから飛行生物なのは確定でしょ?」


「質問、どのように飛行する?」


「そりゃあ翼⋯⋯いや、この狭い空間じゃ無理か?ぶつかるだろうし⋯⋯」


「複数の翼を持たせるのはどうでしょう?4枚どころか6枚、いや、8枚とか!!」


「⋯⋯浮遊で良くないかしら、風でゆっくり移動するとか」


■■

■■■


「とりあえず浮遊して移動しますが⋯⋯特徴がいかがしましょう?ああ、見た目は私がやりたいのでお任せを」


「じゃあ見た目は任せるわ、でも特徴って言われてもねぇ⋯⋯この場所は狭いから、地下が好きとかどうかしら」


「浮遊するだけなら移動できないだろうし、風邪をある程度操れるとか?」


「提案、不可視になれる」


「なんで?」


「面白いから採用ですわ」


「なんで??」


■■

■■■


それから数十分後、ラヴィニアが取り出したスケッチブック、もといアイデア帳には大量の絵と文字が書かれていた。


「さて、ではこれを召喚するだけですわね⋯⋯皆様!かなり大きいので下がっていてくださいまし!」


ラヴィニア以外は数歩下がり、一人孤立した彼女はスケッチブックを掲げるようにしてから唱える。


「さぁさおいでませ!浮遊する瘤の集まりのような見た目をし、視覚を持たずとも一切を透過し見通せる怪物、光見えぬ腫瘍(ロイガーノス)!」


眩い光と共に、地面に魔法陣が描かれ、その怪物にして一同が協力して作り上げた召喚物であり共同作品が現れる。


■■■■■(口笛のような音)――――――」


光見えぬ腫瘍(ロイガーノス)

それは彼女の言った通り『浮遊する瘤の集まりのような見た目』であり、かなりの大きさを持っていた。案内人を除いた四人を縦に並べて同等ほどの長さを持ち、触手を伸ばして空を掴むようにして浮遊している。


「⋯⋯前々から思ってたんだけど、なんでラヴィニアの召喚物ってこんなグロテスクなの?」


「趣味ですわ」


「そっかぁ、趣味かぁ、じゃあ仕方ないなぁ」


ジキルは否定しなかった。

見た目が気持ち悪いのは事実だが、だからといってクラスメイトの趣味を否定するほどの傍若無人さを持っていなかったのである。


「さぁ皆様!さっとお乗りになってしゅばっと渡りましょう!!というかこの子を召喚するのにかなり魔力を使ったので今後は多分使い物になりませんわたくし!!多分できてもあと一回ですわ!!」


皆と協力して作り上げた共同作品、始めてできた創作を手伝ってくれた友達、その二つを理由とした興奮で心躍っている彼女はウキウキで光見えぬ腫瘍(ロイガーノス)に飛び乗る。


「そう、なら戦闘になったら私達の出番ね⋯⋯っと、ほらジキル、さっさと行くわよ」


「はいはい、っと」


「⋯⋯カリスタに提案、身長が足らない、引っ張って」

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