ぷーるへようこそ!
―――夢・木製扉の前/不明―――
馬頭のワイバーン騒動から一転、そこには木製扉がぽつんと立っており、彼ら彼女らを待っていたかのように佇んでいた。
自然豊か道の途中に、いきなり木製扉が経っている光景は、不可思議奇っ怪極まりない。
「この先なの?案内人」
「ん、そうみたいだね、杖もそっちだと指し示しているみたいだ」
両手杖を地面において、倒れた方向を確かめてから案内人は語る。
倒れた両手杖が指し示す方向は扉であり、扉を中心として反対の位置に回って両手杖を倒しても、やはり扉を指し示すように倒れる。
どうやら本当にこの先に目覚まし時計、目覚めるためのアイテムがあるらしい。
「⋯⋯で、どうするの?誰が開ける?」
「誰が開けるって⋯⋯とりあえず聞き耳でも立ててみるか、扉の向こう側にさっきの馬頭のワイバーンみたいなやつがいたら大変だし⋯⋯」
そう言ってジキルは扉に耳を当てて向こうの状況を確かめてみるが、どうにも唯一つの音、水面が揺れるような水音しか聞こえない。
「⋯⋯なんか、水音するんだけど?」
「波の音とかじゃなくて?」
「いや、そんな規則的じゃなくて割とランダム、大量の水があるっぽい⋯⋯?」
「⋯⋯まぁでも、結局のところ開けるのですよね?であるならば猪突猛進!邁進驀進ですわ!アリババの如く開けゴマ!」
そう言いながらラヴィニアはドアノブに手をかけ、開けた途端――――――
「っ!?」
「がぼっ!?」
「ごぼ、ごぼぼぼぼ」
「ごぼぼぼ、ごぼぼーぼぼーぼぼ」
――――――一瞬にして、全員が水中に放り込まれた。
タブレット端末の電源が入るように、瞬きも許さないほどの時間で状況が切り替わったのだ。
当然、そんな不意の攻撃じみた場面切り替えを食らった彼らの臓腑には、塩素で消毒された
水が入り込む。とっさに口を固く閉じて対応できたのは、カリスタとジキルの二人だけだった。
「⋯⋯ぷぁっ!あぁもう!」
「あぁくそっ⋯⋯メモ用紙全部濡れた⋯⋯乾かさないと⋯⋯」
だがしかし、その唐突な、誰かの意思を感じるほどの水責めは直ぐに解決した。
なにせ水面はとても近くにあり、この場で一番身長の小さいマキナでさえ水底に足が付くほどに深さがない⋯⋯だが彼女は泳げないようで、結局溺れてはいた。体が弱く運動が苦手なラヴィニアも同様である。
「けふ⋯⋯こほ⋯⋯耐水能力皆無、水泳不可」
「溺れたのはお父様が海に連れて行ってくれた幼少期振りですわ⋯⋯で、ここは一体全体何処なんでしょうかしら?」
全員は這いずるようにして水中から脱出し、そう言ってから周囲を見渡すラヴィニアと一同。
扉を開けたその空間は、白いタイル張りの巨大なプールで、そうとしか説明できない空間だった。
というよりも、それ以上に説明するほどの情報量がない。本当の本当に巨大なプールとしか表現できず、それ以外の要素がない。
「⋯⋯なんでプールなの?」
「さぁ⋯⋯夢だからじゃないか?」
「そうとも!夢なんだから何が起きてもおかしくない!だって夢というのは脳の記憶を整理したときに生まれるものなのだから!」
唐突に、水滴一つ付いていない状態で現れる夢の案内人。
「おやおや、ずいぶんと濡れいているじゃないか、そうら!服も髪も荷物も乾かしてあげよう!」
そう言って両手杖を片手で握って掲げると、心地よい温風と共に一瞬にして衣服も髪も乾く。
「あら、優しいのね」
「快感、心地良い風」
「あらまぁ!夢の案内人様はとっても親切なんですね!」
「そうとも!夢の案内人は優しいのさ!特に女子供にはね!」
「⋯⋯⋯⋯さらっと心地よい温風を適度な風力で吹かせるとかいう、精密な魔術できるんですね、案内人サンって」
「そう?普通じゃない?」
「天才は黙っててくれ⋯⋯魔術って火力を上げるより維持や制御のほうが難しいんだからな?ドライヤーくらいの温風を生み出して乾かすとかいう芸当、地味に面倒臭いし一定の威力を維持とかマジで面倒臭いことこの上ないからな⋯⋯実習でやったけど二度とやりたくない」
そう言うジキルの表情には、酷く哀愁と苦痛が漂っていた。
「⋯⋯ま、それほどまでに練度のある魔術師ってことなんですね、そうですわよね?案内人様?」
「そうさそうともおうともさ!夢の案内人のお兄さんは強いのさ!まぁ戦闘はあんまりできないんだけどね!そこら辺は頑張ってほしい!お兄さんは案内人であって戦士じゃないからさ!」
「そう、まぁそれなら一応準備だけはしておこうかしら、ジキル?事前にルーン魔術のメモ用紙を作っておいたらどう?」
「そうだな⋯⋯歩きながら書くとするよ、戦闘なら乖離は強いだろうし」
彼の得意とするルーン学派の魔術である『ルーン魔術』は戦闘向きというわけではない。
なにせ『ルーン魔術』は魔力を込めながら物質に刻んだり、インクに魔力を込めて紙に描いて発動する特性がある都合上、どうしても準備に時間がかかる。
それ故『ルーン魔術』は、魔術の中でもとりわけ防衛戦に向いている。だがそれも準備期間があってこその話だ。
「では次のステージであるこのプールを探索しようじゃないか、先程までの平原と比べたら少々窮屈かもしれないが、まぁ仕方ない仕方ない」
そう言って、地面に倒れた両手杖の方向を指差す案内人。
一同はプール特有の塩素の匂いが漂う空間で、夢から覚めるための歩を進めた。
―――夢・巨大プール/不明―――
一同は、その場で立ち尽くしていた。
「⋯⋯詰んだわ」
「あぁ、詰んだな」
「回答、解決不能?」
「流石にこの状況は打ち切りかしら?」
当然それには立ち尽くす理由があり、留まる理由も進めない理由もある。
彼ら彼女らの眼下には底が見えないほどの大穴があり、プールの水が流れ込んでいる。
どれくらいの深さなのかと思って底を見ようとしても、プールの水が白泡を立てており見えず、一体全体見当がつかない。
だが少なくとも、その深さはこの場にいる全員の身長を足しても全然足りないどころか全く足りないほどであり、四方から流れ込む大量の水で満たされないほどの底なしである。
――――――さぁて、どうしようかしらね
カリスタはその状況に、少しだけ楽しそうに笑った。




