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シモン中央学園の問題児達は斯く語りき  作者: 糸又 字四
「うたかたのゆめまぼろしがごとく」
42/46

わいばーんをたおそう!



―――夢・丘陵の道/不明―――


「あらあら!大変綺麗な綿雲ですわ!まるで極東の菓子のようです!」


「質問、休憩時間?」


「まぁ休憩時間でいいんじゃないか⋯⋯まぁ傍から見たらやばいだろうけど」


「平気でしょ、夢なんだから覚めたら忘れるわ」


一同はラヴィニアの召喚した(ダンウィッチ)に騎乗しながら、頬を撫でる風を感じながら移動する。

ある者(ラヴィニア)は景色を眺めながら、ある者(マキナ)は呆然と遠くを見ながら、ある者(ジキル)は不安そうな顔をしながら、ある者(カリスタ)は周囲を警戒しながら。


「いやぁ快適快適、やっぱり乗り物っていいねぇ、お兄さんは大満足さ!」


そして、夢の案内人はへらへらと軽薄な態度を崩さずに笑っていた。


「ワンワン!!ヴルルルル!!!」


「あ、また野生の獣が」


「全速前進ですわ(ダンウィッチ)


「キャイン!?」


「あぁ吹き飛ばされた」


そのグロテスクかつ家ほどの巨躯を持つ(ダンウィッチ)は思いの外素早く動き、道中襲ってきた野生の獣を吹き飛ばしたり踏み潰し、はたま捕食しなが走っていた。

哀れと思うかもしれないが、こんな見た目の怪物に襲ってくるほうが愚かというもの。


「⋯⋯というか、なんで目覚まし時計なんですか?まさか夢から覚めるには目覚まし時計、みたいな理屈じゃないですよね?」


「うーん、大体合ってるんだよね」


ジキルは怪訝そうな顔でのそう言うが、その問いに簡単に帰す夢の案内人。


「まぁさっきも言った通り、ここは人々の夢が集まった世界でね、今探している物も目覚まし時計とは言っているけど、実際は『目を覚ますアイテム』であるならばなんでもいいんだ。でもここらへんにはそんなものはないだろう?」


そう言って両手杖で周囲を指し示すが、その先には森と空、そしていくつかの不思議生物だけであり、その不思議生物の一匹、ワイバーンのような馬頭がこちらに向かって滑空を始める。


「⋯⋯あのワイバーンっぽいやつこっち来てない?」


「来てるわね」


「回答、我々を補足しているというより捕食対象と見ている可能性が大」


「⋯⋯やばくない?」


「やばいわ」


■■■■(警々しい鳴き声)――――――!!」


すりガラスを引っ掻くような鳴き声で叫ぶ馬頭のワイバーンに対抗するかのごとく、生き生きとした表情のラヴィニアが叫ぶ。


「ならば全速前進ですわ(ダンウィッチ)!風よりも何よりも早く走りなさい!!なんなら返り討ちにしてやりなさい!!!」


■■■■■■(不可解な声)


子供のような声色を発した(ダンウィッチ)は走り出す。どうやら先程までは歩いていたようだが、その巨躯のせいでラヴィニアですら誤解していたらしい。


「うぉ思ってたより早っ!?」


「まさかこの子こんなに走れるだなんて、わたくしですら予想外ですの」


馬頭のワイバーンが滑空とともに急襲してきたからか、(ダンウィッチ)はその巨体を左右に揺らすことで回避する。

突撃してきたそのワイバーンらしき生物がいた場所は地面が削れており、再度飛翔することで地面が完全に抉り返される。


「じゃあ私は迎撃っ⋯⋯!?」


「あっぶな!マジであっぶな!!」


だがしかし、足場にもなっている(ダンウィッチ)が左右に揺れたのならら、その体の上で立って迎撃しようとしたカリスタがバランスを崩すのも当然というもの。幸いにも、ジキルが抱えてくれたおかげで落下することはなかった。


「あぁもう⋯⋯!この足場じゃ迎撃は無理そうね!なにか策はあるジキル!?」


「自分が結合の魔術の応用で『固定』する!当てるのは任せる!ラヴィニアは(ダンウィッチ)の指示で手一杯だからマキナも頼む!」


「可能、命令(オーダー)は?」


「あのワイバーンっぽいやつの撃退もしくは撃破!自分が両足を(ダンウィッチ)に固定するから当てることだけを考えろ!」


「了解」


ジキルは懐から取り出したメモ帳に、魔力を込めながら素早くペンを動かし『固定のルーン魔術』を作成する。

そしてマキナとカリスタに手渡し、靴の裏に貼り付けさせてから叫ぶようにして言う。


「固定はした!自分は直接触れる距離じゃないと無理だから任せるぞ!」


「いいわ!それじゃあ派手にやらせてもらうわ!!」


目的(ゴール)、ワイバーンらしき生物の撃退もしくは撃破、手段(プロセス)、カリスタ・アルブレヒトのサポート、開始(スタート)


そう語りながら、カリスタは片手杖を構え、マキナは尻尾の先端をワイバーンらしき生物に向ける。


「拘束と妨害はお願いねマキナ⋯⋯!私は大きいのをぶつけるから⋯⋯!」


「了解⋯⋯対空捕縛魔術(アンチエアーマジック)、掃射開始」


マキナがそう唱えた途端、尻尾の先端に6つの魔法陣が円形状に展開し、一つずつ光線が放たれる。かと思えば、その光線はすぐさま枝分かれして、無数の光となってからワイバーンらしき馬頭に向かう。


だが当然、馬頭のワイバーンも何もしないわけもなく。


■■■■(忌々しそうな声)⋯⋯!」


踵を返すようにしてその身を翻して追跡するのをやめたのかと思えば、弧を描くようにして自身を追跡する対空魔術から逃げる⋯⋯かに思えた。


「撤退?」


「逃げたか?でもあんな簡単に逃げるか?」


「⋯⋯⋯いえ、多分来るわね」


カリスタが言った通り、馬頭のワイバーンは円を描きながら大きく旋回し、後方ではなく横から突撃しようとしていた。

その速度のまま、その速さのままで突撃されたのならば、いくら(ダンウィッチ)が巨体といえど乗っている彼ら彼女らはひとたまりもないだろう。


「ジキル!策はある!?」


「あるし既にやってる!このメモ用紙を(ダンウィッチ)が踏み潰すようにして投げる!自分がやるからお前等はふっ飛ばされないようにしっかりと捕まっていろ!」


「であるならば(ダンウィッチ)!皆様を中に取り込んで保護なさい!」


■■■■(子供の声)!!」


「えっちょ何!?すごい肉肉しいのだけれど!!」


「仮定、(ダンウィッチ)内部?保護と推測」


「こっちのほうが安全ですわ!少々不快に思われるかもしれませんがね!!まるで大八洲の春画のような状況ですから!!!」


「たった今その発言で不快度が跳ね上がったわ!!」


「元気だなお前等!?」


くしゃくしゃになったメモ用紙をジキルはしっかりと握って、遠くで旋回し終えてこちらに飛翔する馬頭のワイバーンを見やる。

警々しく叫ぶそいつは、瞳に映る彼らを完全に敵か獲物と見定めており、何が何でもこちらを殺さんと敵意を向けてくる。

やがてその距離が縮み、決して遠くない距離になった瞬間、ジキルは手にしていた丸めたメモ用紙を(ダンウィッチ)の進む先に投げる。


当然(ダンウィッチ)はそのメモ用紙を踏む、それを確認したジキルはタイミングを見極め――――――


稼働(アクティベート)!」


そう叫んだ途端、(ダンウィッチ)の巨体が()()()()()


素早く動いていた(ダンウィッチ)の体が一瞬で止まるとなれば、慣性で身体が横に吹っ飛ぶのが当然である⋯⋯ジキルの身体を(ダンウィッチ)に固定していなければ、の話だが。


そして、先読みして強襲しようとした馬頭のワイバーンは、突如止まった(ダンウィッチ)に一撃を食らわせることができずに地面に激突する。


「ぐ⋯⋯固定はギリだが⋯⋯ラヴィニア!(ダンウィッチ)から二人を吐き出してくれ!」


「お任せあれ!」


■■■■(子供の嘔吐音)⋯⋯」


「あぁもう⋯⋯!気持ち悪いけどやることは唯一つね⋯⋯!」


「視界良好、戦闘を再開する」


そしてその隙を、地面に墜落し朦朧とした意識でいる相手を、彼女らは見逃さない。


(ダンウィッチ)!上に乗って動きを止めてやりなさい!!」


■■■■(はしゃぐ子供の声)!!」


「巻き込んでも構わないわねラヴィニア!?」


「そろそろ召喚を維持できなくなるので諸共吹き飛ばしても構いません!!!」


■■■■■■(覚悟を決めた声)――――!!」


「それじゃあ大盤振る舞いさせてもらうわ!逆巻く炎環(クロスファイア)!!」


突如として2つの火柱が発生し、雑巾絞りのようにねじれたかと思えば竜巻へと転じて、すぐさまそれは火災旋風へと成った。

馬頭のワイバーンとその上に乗った肉塊、(ダンウィッチ)すら巻き込んで一切を燃やしていく。


千度を超える旋風は鱗を燃やし肉を焦がし、更にそこにマキナの追い打ちがねじ込まれる。


「特性は衝撃、次点特性は貫通、魔力充填完了、斉射」


大木すらへし折り貫くほどに威力を上げた魔術の砲弾が一斉に放たれ、土煙が巻き起こり視界が阻まれる。

そして土煙が晴れると、真っ黒焦げになり風穴が空いた(ダンウィッチ)と馬頭のワイバーンが現れた。


その光景に安堵したのか、一同は大きく息を吐いて地面に座る。


「⋯⋯さて、なんとか生き残れたけれど、やっぱり学校用の魔術触媒じゃ制限があるわね⋯⋯さっきの火災旋風も4つくらい出すつもりだったのに、どうせならもっと良いのを持ってくればよかったわ」


「複数の魔術触媒持ってるのかお前⋯⋯良くそんな金あるな、高いのだと一本数十万とかするだろ?いやまぁ、片手杖の値段相場はわからないが」


「別にそんな豪華なモノじゃないわ⋯⋯こんな状況になるだなんて知ってたらもっと良い魔術触媒を持ってきていたかったってだけよ」


「一応聞くが、どのくらい持ってるんだ?」


「4⋯⋯いや、6本くらいかしら」


「⋯⋯前々から思ってたんだけど、カリスタの家って裕福じゃないか?」


「別に普通よ、普通の家よ」


「普通の家はシモン中央学園に入学すらできないが??通ってる自分たちが言うのもあれだけどバリバリの名門校だからな???」


「疑問、そうなの?」


「そうなんだよ多分特別対応教室(うちのクラス)でも一二を争うイレギュラーのマキナさんや」


「質問、カリスタは?」


「あれは才能がおかしい、特に魔術方面の才能がおかしい」


「人を怪物みたいに言わないでもらえる?」


「あーあー聞こえない、四属性同時構築並列発動が出来る怪物の声なんて聞こえない」


「⋯⋯あのねぇ、才能って点ではワタシと同じくらいのはいるでしょ!?この場にいない二人とか!?」


「アレはアレでおかしいが、それはお前の才能がおかしくない理由にはならない」


先程までの逃走からの反動からか、いつもと変わらない気の抜けるような雑談を始める3人。

だが、相反するかのように沈痛な面持ちで、黒焦げになった(ダンウィッチ)に寄り添うラヴィニアがそこにいた。


「ごめんなさい、(ダンウィッチ)⋯⋯次喚んだ時は楽しい時を過ごしましょうね?」


■■■(子供の声)⋯⋯」


「⋯⋯ラヴィニア」


「いえ、謝らないでくださいカリスタ様、良いと決めたのはわたくしですしカリスタ様が気負う必要はありませんもの⋯⋯それでも謝りたいというのであればわたくしは止めません、好きなように祈ったり、思うがままに献花をしても構いませんわ」


「それで私は満足するわ」


「⋯⋯それでカリスタ様が満足するならば、わたくしは止めませんわ」


そう言って、両手を握って祈るカリスタとラヴィニア。その光景を見ていたジキルも、この場で自分だけしないのも居心地が悪くなりそうだからと一緒に祈り、マキナはただ真似をして空虚な祈りを行った。


死者の声は生者に届かない、生者の思いは死者に意味はない。

まして、その死者が何度でも召喚できる存在であるならば無意味も無意味だが、それでも祈りには意味があるのだろう。


「⋯⋯そういえば案内人は何処に行ったの?まさか逃げたわけじゃないんでしょうね?」


「⋯⋯⋯おぉぉーーーい⋯⋯⋯こっちこっち⋯⋯⋯⋯」


⋯⋯夢の案内人はぜぇぜぇと肩で息をしながら、遠くから走って来た。その光景だけで何があったか推測できるだろう。


「ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯いやぁ良かった良かった⋯⋯夢の中で死んじゃうと更に深い夢に落ちちゃうから⋯⋯そうなれば覚めるのに更に手間取ってしまうからね!欠損とかは覚めると同時に治るとはいえ、怪我ないようで何より幸いさ!」


「⋯⋯⋯⋯何処にいたの?」


「実は途中から転げ落ちてたんだよね、だから全力で走ってきたのさ⋯⋯まぁお兄さんのことはどうでもいいんだ、ほら、次のステージみたいだよ?」


そう言って夢の案内人は両手杖で向かうべき行先を指し示し、その先には扉が一つ。



ただ、木製扉がぽつんと一つ。



彼ら彼女らを待っていたかのように、佇んでいた。

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