ぼうけんをはじめよう!
―――不明・不明/不明―――
「ん、う⋯⋯⋯っ!」
がばりと、身体をはね起こすようにしながら、一番早く起きたのはカリスタだった。
まず覚醒して真っ先に感じたのは草木と土の香り、そして大きく深呼吸したくなるほどに美味しい空気。そして全身から感じる自然の手触りだった。
周囲を見渡せば横たわっているジキルとマキナ、そしてラヴィニアがおり、彼女は急いで脈を測る。
「死んでは⋯⋯いないわね、よかった」
三人が死んでいないことに安堵して大きく息を吐き、全員を揺らすようにして起こすカリスタ。
「ほら、起きて、起きなさいよ」
「⋯⋯覚醒、状況確認開始」
「う、うーん⋯⋯う、お⋯⋯か、カリスタ⋯⋯?今はどういう状況だ⋯⋯?」
「はて、ここは一体全体何処なんでしょう?」
「さてね、見回してみればわかるんじゃないかしら」
カリスタ、マキナ、ジキル、ラヴィニアの四人は起き上がり、周囲を見渡し、そして全員が言葉を失った。
雲と同じくらい高い空に浮かぶ島々。
ワイバーンのような羽翼に馬の頭を持つ鳥。
太陽と月が同時に浮かんでいる星空。
四人が呆然と立ち尽くしている、見晴らしの良い丘陵から認識出来するべては、ただ一つの言葉で表せた。
「――――まるでファンタジーの世界ですわ」
ラヴィニアが呟くように零した発言に、内心同意する一同。
少なくともその景色は現実世界で見れるものではなく、空想や御伽噺、絵本や小説でしか見れないような現実離れした景色だった。
そして、そんな景色を見て呆けている一同に声をかける声が一つ。
「よし、よし、みんな起きたみたいだね?」
その男性の声を聞いて、全員が思わず振り向く。
身の丈ほどの両手杖を抱えるように持ち、魔術師然としらローブを着ている、どこか軽薄な態度で、どこか軽々しいメフィストの男性。
「ん、あーあー、では改めて」
眼前の男は声を整えてから、詠唱のように滔々と語り始める。
「ここは異界にして夢界、七十の階段を降りた焔の洞窟の先、七百段の先にある深き眠りの門の先にある世界、明晰夢のような夢幻でありながら目覚めと共に等しく忘れてしまう泡沫の舞台」
そして一転、冷淡にも思える平坦な声色とは真反対のような、生き生きとしたバラエティ番組の司会者のような声色と表情で
「さぁ勇敢なる諸君!冒険に往こうじゃないか!」
そう宣言した男性に、一同は不審者を見る視線を送るばかりであった。
―――夢・見晴らしの良い丘陵/不明―――
「それで?ここは集合的無意識な夢の世界で、私達は夢から覚めることが出来ていないってこと?」
「あぁ、まぁ、大体あってるね」
先程まで語っていた男性はそのあまりの胡散臭さに、この状況を引き起こした不審者だと思ったカリスタの鉄拳により、大きなたんこぶを作って正座をさせられている。
「それで、貴方は誰なんですか?悪人じゃあ無いんでしょうけど」
「お兄さんは案内人だよ、君達みたいに夢から覚めなくなって人はたまにいてね、そういった人をを案内して現実に引き戻すのがお兄さんの役目さ」
ジキルのその問いに、やはり軽薄に答える男性。彼は自身の名前も名乗らず、ただ自分の役割を語り両手杖をクルクルと回すだけである。
その軽薄さは筋金入りらしく、カリスタに睨まれてもただ笑顔を返している。
その光景を見ていたジキルはカリスタに耳打ちする。
「カリスタ、多分この手合は何が何でも話さないと決めたら話さないタイプだ」
「⋯⋯はぁ、面倒臭くてやり辛いタイプだわ」
カリスタはため息をついてから案内人を名乗った男性に視線を戻すと、ラヴィニアが夢から覚める手段を質問する。
「それで、ええと、一体どんな方法で夢から覚めるのかしら?」
「それは単純だ、目を覚ますというのならば、眠りから覚めるならば、とある道具があるだろう?」
「⋯⋯回答、目覚まし時計?」
「御名答!我々は目覚まし時計を探さなければならない!秘密アイテムを探す冒険譚だ!」
マキナの回答に、声高らかに語る夢の案内人。
その生き生きとした語りに、カリスタは不信の目を向け、マキナの眉は動かず、ジキルは諦めたような顔をし、ラヴィニアだけが楽しそうな顔をしていた。
思わず、ジキルが声をかけていしまうくらいには。
「⋯⋯随分と楽しそうだけど、そんなに楽しみなのか、ラヴィニア?」
「えぇ勿論!だってだって!夢にも見ていた冒険ですもの!それも一人だけじゃなくて友達と一緒にする冒険譚だなんて!楽しさが顔から溢れ出てしまうほどです!」
「⋯⋯まぁどうせなら楽しんだほうがいいわね、それで?どうやって目覚まし時計を探すの?まさかノーヒントって訳じゃないでしょうね?」
「勿論だとも、ちょっと待ってくれ⋯⋯えーっとなぁ⋯⋯」
どうやって探すのかと問われた夢の案内人は、自身が持っていた杖を地面に立たせる。そして杖の自重で倒れたのを確認してから振り向く。
「なるほど、どうやら目覚まし時計はあっちにあるらしい、では行こうじゃないか探索者諸君!」
「もしかして今ので探したつもりなの?」
「やだなぁ、ここは夢の世界だぞう?常識が通じるわけがなかろう!」
「じゃあ私が良識を捨ててもいいのかしら、そしたらその頭に再びたんこぶが作られることになるのだけれど」
「あははまぁ冗談はさておき、この杖は探しているものを指し示す杖だからね、現存しているならば大抵のものは見つかるのさ」
「本当に?」
「本当さ、夢の案内人たるお兄さんが嘘を言う訳ないだろう?だから信頼していいとも!信頼も信用もしてくれたまえ!」
「それはなんか嫌」
即答するカリスタだったが、現実問題として夢の案内にである彼に頼る道しかないのが事実。現状を解決するには彼の言いなりになるしか無いのであった。
「それでどうするの?目覚まし時計の位置はわかったけれど⋯⋯かなり遠そうよ?」
「観測⋯⋯視界範囲に市街地を存在せず、最低でも数kmと推定」
カリスタとマキナの言う通り、周囲を見渡しても壮大な自然があるばかりで都市や市街地なんてものは見受けられない。
あるのは木々と大空、少し変わって河川や草木の生えていない道くらいである。
「流石に歩きたくはないわね⋯⋯なにか策はある?」
「空を飛んでいくとかはどうだ?お前なら飛行魔術を使えるはずだろ?」
「無理ね、流石に魔力のほうが先に尽きるわ」
「それならばわたくしにお任せください!わたくしの魔術であれば皆々様をお運びできるかと!」
ラヴィニアは会話に割り込むようにして声を上げ、懐から一冊の本を取り出す。
重厚な装丁をした小説を開いたかと思えば、眠る前の子供に読み聞かせるかのごとくつらつらと詰まること無く詠唱する。
「さぁさおいでませ不可視の怪物にして悪魔の弟、怪!」
ラヴィニアがそう唱えた途端、なにか大きなものが落下したかのように、否、実際に大きな『生物』が落下して地面が揺れる。
「さぁさ皆様方!この子にお乗りください!」
そう言うラヴィニアのそばには無数のロープが絡まったような、全身に触手と瞳を宿した家ほどのサイズを持つ肉塊が現れていた。
無論、ホラー映画のクリーチャーのような怪物を前にして驚くのは当然であるのだが、如何せんそういった人物はジキルだけだった。
「なん、この、えぇ⋯⋯?」
「物語のキャラクターを召喚する系列の召喚魔術かしら、ここまで大きい召喚物を喚べるのは流石ね⋯⋯よっと、ほらマキナ、引っ張ってあげるから」
「了承、搭乗する」
「ねぇナチュラルに怪物に乗ることに納得しないで?結構グロテスクだよそいつ?」
「何、不満なの?」
「不満かどうかでいえば嫌悪感があるんだよ!普通はクリーチャーに乗って移動とかしねぇ!」
「質問、代替案があるの?」
「無いんだけどさぁ!無いから乗るんだけどさぁ!!」
「怪」
ラヴィニア・カーターの召喚物、その一つ。
透明化できる怪物、無数の触手と目を生やした家ほどの大きさを持つ。
黒い粘性を持つ体液を残しながら機敏に動く。
移動手段として便利なため、頻繁に召喚されて乗り回される。




