友人と出会い
「か、怪物が出るって言うんですよ⋯⋯!あそこにゃあ⋯⋯!」
まるで直接見てきたかのように、縛られた男は怯えながらそう語った。
怪物、という単語が気になったカリスタは、オウム返しのように問う。
「怪物?」
「は、はい、なんでも針金細工の犬だとか、見えない怪物だとか⋯⋯地元の奴らは肝試しとかで寄ったりするそうなんですが⋯⋯」
「それで?誰か殺されたの?」
「そ、それは無いんですが⋯⋯精々家から追い出されるくらいで⋯⋯」
それを聞いて、顎に手を当てて少し考えるカリスタ。だが彼女よりも早く答えを出したのは、床に転がっている悪党を縛っていたジキルだった。
「なぁ、その怪物って召喚されたものじゃねえの?ラヴィニアって召喚が魔術適正だろ」
「そうなの?先生と戦っていた時にそんな光景見たこと無いのだけれど」
「⋯⋯そういや先生と戦ってた時は触手とか出してたな、でも教科書には臨時召喚することで一部だけ召喚できるって書いてあったから、それじゃねえの?」
「なんでそんな回りくどいことをするの?一部だけじゃなくて全部呼べばいいじゃない」
「先生がわざわざ召喚させるような時間を作らせてくれるか?」
「無いわね」
即答だった。
身を持って経験した過去から来る返答の早さだった。
「こ、これで命だけは助けてくれますよね?あ、姉さん?」
「そうね、じゃあ教えてくれたお礼に楽に気絶させてあげる」
「ゔっ」
喉を掴み、気絶するには十分な威力の電撃を流す。
当然男は気絶し、その容赦の無さにジキルは少し引いた。
「ま、ともかくラヴィニアの実家に行かなくちゃね」
「⋯⋯お前さ、道がわかりそうな相手を気絶させてどうやって向かうつもりなの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
カリスタのその閉口で、ジキルは空を見上げた。
絶望的な今の状況とは相反するような雲一つ無いきれいな空だったが、なんだかとっても腹立たしく感じたのは、ジキルだけかもしれない。
―――アルビオン王国・ラヴィニア・カーターの実家前/夕方―――
「⋯⋯ようやく着いたな」
「えぇ、そうね」
「疲労、足が疲れた」
結局、一旦大通りに出てから人に聞き、しばらく歩き続けてようやくたどり着いた三人。
ラヴィニアの実家は街の離れにあり、大通りから外れて人気の少ない路地裏にあるせいで、あちこち歩いたせいか、三人の足は棒のようになっていた。
「まぁ早く入ろうぜ⋯⋯室内なら休憩できるかもだし、呼びベルあるしさ⋯⋯」
ジキルは疲労困憊な声色で呼びベルを押す。
だが不思議なことに、誰の返答もない。
館の主も、彼らの友人も出ずに、ただシンとした空気が流れるだけである。
その空気は、カリスタとジキルの脳裏に、嫌な妄想を過ぎらせるには十分な静寂だった。
「ジキル、マキナ、戦闘の準備をしなさい」
「自分はルーン魔術だから時間はかかるぞ」
「了承」
カリスタのその発言を皮切りに、各々が戦闘の準備を始める。
カリスタは腰に差していた片手杖を。
ジキルは万年筆の形状をした触媒を。
マキナは機械コードのような尻尾を。
その切り替えの速さは、橘立花が施した実戦的教育の影響かもしれないし、往来の気質かもしれない。
「できるだけ静かに、先生を奇襲するときみたいにね」
カリスタは小さな声で呟き、できるだけ足音を立てずに玄関扉に歩み寄る。
できるだけ声を出さずに、視線とハンドサインだけで意思疎通をする。
しかしカリスタがドアノブに触れようとした瞬間、ドタドタと騒々しい足音と誰かが転ぶような音、物を落とす音や引きずるような音が聞こえる
屋敷の外にいる彼らにさえ、明瞭かつ明確に慌てているとわかるくらいに聞こえた。
「わ、わわっ!」
コミカルなほどに滑稽な音で、幼児期に見るアニメのような効果音と共に、お転婆な少女の声が聞こえる。
「――――ぃぃぃいらっしゃいませぇ!皆々様ぁっ!」
勢い良く開かれた扉から、放たれた矢のように飛び出る少女。
「あら危ない」
「ぐぼぁっ!?」
素早く反応できて避けられたカリスタと、もとより扉から一歩離れていたマキナはともかく、ジキルは見事にその突撃を全身で受け止める。
「あら!あらあら!ごめんなさいジキル様!」
声色でわかるほどにお転婆な彼女は、白磁のような肌色とルビーのような赤眼をしていた。
「皆様方がお家に招かれると聞いて、わたくしあまりにも楽しみで少々興奮しておりましたの!だってだって!友人を家に招く経験なんて滅多に無かったものですから!」
「わかった⋯⋯わかったから、とりあえず自分の上に座るのやめてくれないかな⋯⋯重くはないけど苦しいからさ⋯⋯」
「あら、それは失礼しました」
倒れたジキルに馬乗りになって楽しそうにしていた少女はひょいと立ち上がり、先程までのお転婆な雰囲気を霧散させて、今度は淑女然とした雰囲気とともに、ロングスカートをつまんでお辞儀をする。
「わたくしはラヴィニア、ラヴィニア・カーター。お父様とここに住んでいる、皆様方とのご友人ですわ?」
ラヴィニア・カーターはそう言い、心の底から嬉しそうに笑った。
『アルビノ』
先天性白皮症とも呼ばれる疾患。
遺伝的要因でメラニン色素が少ない、もしくは一切無い身体的疾患。
その見た目から一部では偏見の目で見られたり、野生生物の場合は幸運の象徴と呼ばれたりする(白蛇など)。




