学外を歩き
――――アルビオン王国・リウエルプール駅/昼――――
「南国風の羽用リンスだって、買ってみるか?」
「家族のお土産に買おうかしら、ちょうど近いうちに会う予定があるし」
カリスタ、マキナ、ジキルの三人は買い物をしていた。
それは観光客向けの土産屋だったり、食べ物を売っている店だったりと、橘立花からもらったお金を使って豪遊三昧である。
「おい見ろ、ここにもドラゴンキーホルダーあるぞ、懐かしいな、子供の頃に買ってくれってごねたなぁ」
「⋯⋯へぇ、こんな場所にもあるのね」
ジキルが持ってきた、黄金色のドラゴンが巻き付いているキーホルダーを片手に持って、真剣そうな顔で悩むカリスタ。
その表情からは購入を検討していることが想像できるほどの真剣さだ。
「お前ちょっと買おうとしてない?」
「え、欲しくないっていうの?」
「いや今でもちょっと欲しいけどさぁ⋯⋯」
己の親友が想像以上に小学生みたいな魂をしていることに少し驚くジキル。だがカリスタはそんな彼の心中を微塵も気にせず、周囲を見渡しながら問う。
「ところでマキナは?何処に行ったの?」
「マキナなら店前で両手ジェラートしてるぞ」
ジキルの言う通り、マキナは店の前でジェラートを両手に持っていた。
その表情は相も変わらず無表情、だが両手にジェラートを持っているやつをご機嫌と言わずしてなんと言うべきだろうか。
やがて会計を終えて両手を買ったお土産で埋めながら、いつの間にか両手のジェラートを食べ終えていたマキナに小走りで寄る二人。
こちらに気づいたマキナと共に、三人はゆっくりと歩き始める。
「待たせてごめんねマキナ、手間取ってね」
「少し荷物が多くなっちまったな⋯⋯ところでマキナ、持ってたジェラートは?」
「完食、おかわりを要求」
「ちなみに何個目?」
「回答、さっきので10個」
「二桁超えちゃったかぁ、流石にそろそろ腹下すぞ」
「⋯⋯⋯⋯了承、これ以上食べない」
その長い逡巡は、マキナが渋々と了承したのが理解できる時間だった。
その返答の後に周囲を見渡して、小さくジキルが口を開いた。
「⋯⋯なぁ、やっぱり」
「疑問、視線を感じる」
「まぁ、そうでしょうね」
周囲の人間は三人、というよりもマキナとジキルと注意深く見る。その視線は見世物で踊る獣や、物珍しい動物に向けられるような視線だ。
嫌悪というよりも困惑、理解できない異文化を見てしまったような感覚に近い。
ジキルのその問いと周囲の視線に、腕を組みながら二人を見つつ考えるカリスタ。
メフィストとキリエが仲良くしている姿なんて、この二人以外には見たことがないもの。人目を引くのは当然よね。
⋯⋯もしも種族を隠すとするならば、ジキルは光輪のせいで帽子やフードが被れないし、必然的にマキナになるでしょうけれど。だからといって、それはそれで腹が立つわね。たかが偏見や差別で私の大切な友人が姿を隠さなきゃいけないだなんて、ソッチのほうがおかしいわ。
「⋯⋯まぁ何かあったら私が解決するから、安心してちょうだい」
「ちなみにどうやって?」
「これ」
「そっかぁ」
力強く握られた拳を目の前に、ジキルの気の抜けた声は、人混みに紛れた。
――――アルビオン王国・リウエルプール/昼――――
店を出てから歩き始めて数十分後、唐突にジキルが口を開いた。
「⋯⋯なぁこれって」
「言わないで」
「でもさぁ⋯⋯これ完全にアレだろう?」
「黙って」
ジキルは周囲を見渡す。
視界に入るのは港特有の建物、建物、更に建物。
路地裏特有の入り組んで折れ曲がった道はすぐに建物で視界を防がれ、頭上を見上げてかすかな雲しか存在しない。
快晴である、ということはわかるが。
「完全に迷子だよな、これ?」
「⋯⋯迷子じゃないわ、精々進むべき道を見失ってるだけよ」
「迷子じゃねぇか、かっこよく言っても騙されんからな」
ジキルの言う通り、彼ら三人は完全に迷子になっていた。
地図がないというわけでもなく、地図を持っているカリスタが方向音痴というわけでもない。
ただカリスタが
「こっちのほうが近道ね」
と言って路地裏に足を動かし、ジキルとマキナも
「へぇ、じゃあそっちにするか」
「了承、異論はない」
と従順について行った結果がこれである。
慣れない街や浮ついた心のせいとも言える。
「どうすんだよ⋯⋯時間的にはまだ余裕あるけれど、多分もう先生着いてるぞ?」
「どうしましょうかしら、召喚獣でも飛ばしてみる?」
「学外での魔術行使はよっぽどのことがない限り原則禁止だろ、卒業生ならともかく迷子になったから召喚獣を呼びましたとか⋯⋯卒業までの笑い草だぞ?」
「提案、大通りに出るのは?」
「そもそも現在位置がわからないからなぁ⋯⋯ちなみに今の場所が分かる人は?」
「ずっと地図を見ていたからわからないわ」
「回答、ジェラートのことしか考えてなかった」
ジキルは頭を抱えた。
膝を曲げてしゃがみ、石畳の地面を眺めながら頭を抱えた。
「はぁ⋯⋯こんな場所じゃ治安も悪そうだし、とりあえず一直線に移動てから大通りに戻って⋯⋯おい、カリスタ、どうした?」
半ば諦めの提案をして顔を上げたジキルは、酷く眉間にシワが寄った顔をしていたカリスタが視界に入った。
彼女の視界の先には誰も居ない、にしては何かを《《待っているような空気》》で満たされた路地裏の突き当りを睨んでいる。
「それで隠れているつもり?だとしたら滑稽なほどに下手ね」
「――――――言ってくれるなぁ、お嬢ちゃん」
その挑発で、奴らは現れる。
ニヤニヤとした顔をしたガラの悪い男達が、ナイフや縄を握って、道を防ぐように現れる。
五名ほどの大人であり体格の良い成人男性、その振る舞いから察するに犯罪に手慣れた人間だろう。
「女の方は傷つけるなよ、男の方は⋯⋯殺さなければいいぜ」
「⋯⋯ちっ、後ろにも当然いるよな」
ジキルが即座に逃げようと、カリスタとマキナの腕を握って走ろうとした瞬間、囲い込むようにぞろぞろと現れる。
前には五人の大人、後ろにも四名の大人。その全員が成人男性であり、子供である三人からすれば大きな体を持っている。
「さてお嬢ちゃんども、命が惜しけりゃ大人しくしてくれよ」
リーダらしき人物が刃物を向けて脅してくるが、カリスタはやけにシニカルな表情で言い返す。
「残念ながら手間を掛けるわよ、下手したら赤字になるかもしれないわ」
「⋯⋯⋯⋯もしかしてお前挑発してるの?逃げないの??」
「だって囲まれているし、小悪党を叩き潰すのは善行でしょう?ならやるべきよ」
そう、挑発のような発言をするカリスタの両肩を勢い良く叩いてから力強く握り、絞り出すように喋るジキル。
「落ち着けって⋯⋯!ほらアンガーマネジメントってあるだろ⋯⋯!?6秒くらい耐えてみたら変わるかもしれないって⋯⋯!!大の大人相手に喧嘩とかやったこと無いんだってこっちは⋯⋯!!!」
「⋯⋯それもそうね、じゃあ6秒数えてあげる⋯⋯1⋯⋯2⋯⋯」
やがて、6秒が過ぎると――――――
「じゃあ6秒経ったから叩きのめすわね、数え終えても逃げないってのはそういうことなんでしょう?」
「そうじゃないんだよなぁ!アンガーマネジメントってそうじゃないんだよなぁ!」




