潮風を感じ
――――アルビオン王国・列車/昼――――
ラヴィニア・カーターは、はっきり言って良くわからない生徒である。
タラッサでありアルビノ、白髪と赤目による儚げな雰囲気からは虚弱な身体を想起できる。
実際そのイメージはその通りで、彼女のアルビノの体質は日に弱く、校内で見かける度に日傘をさしている姿を見ていた。
そしてその奇妙さを加速させているのは口調である。
独り言のように話し続ける言い回し、仰々しく、それでいて大袈裟な比喩表現で話す。まるで作家かなにかである。
俗に言う『不思議ちゃん』という生徒がぴったりかもしれない。
で、今の僕達が何をしているのかというと――――――
「お、海の匂いがしてきたな」
「視認可能範囲に街を観測」
「あ、見えてきたわね」
――――――列車に揺られて、彼女の実家に向かっていた。
――――アルビオン王国・特別対応教室/昼――――
「⋯⋯最近この流れにも飽きてきたなぁ」
授業も終わり、いつも通りに実戦が即座に始まり、生徒を運動させつつなんとか鎮圧した後、僕はそう呟いた。
僕が教師に就いてから一ヶ月間か二ヶ月ほど経ったわけだが、流石にこうやって同じような倒し方しかしていないと飽きていくるというもの。だからといって奇を衒い手札を明かすのは、暗殺者としての仕事がやりづらくなってしまうのだが。
「⋯⋯ところで橘先生、ラヴィニアってどうしているんですか?」
気絶させずに無力化し地面に横になっているジキルが、そのままの姿勢で僕に訪ねる。
「もう学校に来なくなって一週間ですよ?流石にこう、心配になるんですけど」
「え、そんなにもう経っていたのかい」
数週間先の定期試験の準備ですっかり忘れていたが、流石に一週間となると不安になる。というか一週間もいないのになんでクラス担当である僕に連絡が来ていないんだ?
あぁ、いや、もしかしたら嫌がらせか?セフィラの推薦状とかに不相応だとかで。
そういった経験は無いとは言えないし、その思考には同意したいところだが、如何せんこうやって仕事の邪魔をされるのは困る。もしそうだったら犯人を見つけ次第御礼参りをしてやろう。
「それは違うかと思われます」
犯人にどのような御礼参りが出来るかを脳内で計画していた所、その計画が御破算となる声が聞こえた。
後輩であり学園長、つまりセフィラがこの教室にやってきたわけだ。
「学園長!?」
「は、え、学園長⋯⋯!?」
「はいそうです私が学園長です」
当然、気絶せずに起きているカリスタとジキルは驚愕し、マキナだけは小首を傾げていた。もしかしたら先輩になにか言われていたのかもしれない、だからといってこの学園の最高権力者相手にその反応は異常だが。
しかし流石に生徒の前、公共の場であるため上司と部下との関係で対応しよう。流石にそれくらいの分別は持っている。
「⋯⋯セフィラ学園長、貴方がこの教室に直接来たということは何かしらがあった、ということですかね?」
「えぇ、夢で少しありましてね」
夢。
一見その発言は正気の沙汰とは思えない狂人の戯言にも聞こえるが、この国は魔術の最先端国家であり古い伝説が色濃く残るアルビオン王国。
かつての魔術師が夢の中で忠言を残してたとしても、何ら不思議ではない。
「アングルシー家の初代当主曰く、特別対応教室の生徒を連れて見舞いに行け、とのことです。出来ますね?」
そしてセフィラから、休暇申請や日程調整などの書類を手渡される。その書類が意味するところは『前倒しで仕事を終わらせろ』ということだろう。
「⋯⋯つまり仕事ですか?」
「つまるところ仕事ですね」
僕は受け取った書類を地面に叩きつけた。
――――アルビオン王国・列車/昼――――
というわけで数日後、列車に揺られて潮風を感じる湾岸都市『リウエルプール』に向かっているのが今現在の状況である。
なお週末になるまで諸々の書類処理やラヴィニアの実家に連絡をしていたのは、悲しき社畜の運命かな。
「ちなみにカリスタ、お前ってリウエルプールって行ったことあるのか?」
「ないわ、家族との旅行とかでも」
「となれば全員初めてか、マキナはほぼずっと学園生活だしなぁ」
「返答、そもそも海を見たことがない」
「あ、それは自分も、良くて湖って所だな」
「凄いわよ?水平線の向こうまでずうっと潮風を感じれるんだから」
見舞いに来た生徒三名、『カリスタ・アルブレヒト』『マキナ・マクスウェル』『ジキル・H・パニーム』は始めていく港町を楽しみにしながら車窓を眺める。
「というか先生、私達の交通費全部出してくれたけど、いいの?」
「必要ならホテル代とかも出すって言ってましたけど、いいんですか?」
「あぁそれは平気、名目上出張みたいな扱いだから経費で落とせるし、最悪落とせなくともお金はあるから」
なにしろ教師になってから忙殺されているせいで、ろくに給料を消費する暇が無い。そのせいで通帳の残高は増える一方である。暗殺者時代の金も合わせたら、田舎に土地を含めた家が建てられるくらいには溜まっている。
思わず頬がほころんでしまうくらいには溜まっているのだから、多少使い込んでも問題はない。
「ま、今回のお見舞は校外学習みたいなもんだから、気軽にしていいよ」
「だとしたら他の生徒は連れてこないの?」
「連れてこれると思う?」
「無理ね」
「見舞いに来ると思う?」
「来ないな」
そういうことである。
「リウエルプール」
アルビオン王国の湾岸都市、かなりの歴史がありかつてのアルビオン王国の栄光を色濃く残している。
歴史的な港湾施設が残っているのでそれ目当てで来る人もおり、現在も重要な港の一つとなっている。
元ネタは英国の湾岸都市リヴァプール。
余談:最近ここに書くことが思いつかなくなってきました、てなわけで質問とかを募集しています。




