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シモン中央学園の問題児達は斯く語りき  作者: 糸又 字四
「自己を厭い続ける」
34/41

【番外閑話:とある学生達による談笑推理】

思ったよりも長すぎるしそこそこ重要な情報書いちゃった。

でもこれは番外編です、誰がなんと言おうと番外編です。

――――シモン中央学園・食堂/昼――――


「⋯⋯ねぇ、二人は橘先生ってどう思う?」


フィッシュアンドチップスを飲み込み、油に塗れた口内を紅茶で綺麗にしてから、カリスタはマキナとジキルに問うた。


「どう思うって言われてもなぁ⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯?」


いきなりの質問に、当然の反応を返す二人。

ジキルは両腕を組んで考え、マキナは小首を傾げる。


「まぁ、悪い先生じゃない⋯⋯んだろうけども」


「返答、道徳が欠如した人物ではないが常識が欠けている可能性あり」


両者は思い思いに自らの回答を出し、その問いを投げかけた彼女は頷きながらも顎に手を当てて考える。


「⋯⋯どうせお前橘先生の噂話や正体を調べているとかなんだろう?」


「話が早くて助かるわ、手伝ってくれるの?」


「嫌だと言っても無理矢理手伝わせるだろうに」


「あら、随分と物分りがいいのね、嫌いじゃないわ」


「⋯⋯で、どうやって調べるんだ?まさか探偵でも雇うつもりじゃないよな?」


「まさか、でも悪くない発想よ、当たらずとも遠からずって感じね」




だって、探偵を雇うんじゃなくて、探偵の真似事をするんだもの。


――――シモン中央学園・倉庫/昼――――


「橘先生?あぁ良い人だよあの人は」


掃除当番の生徒に話を聞くことが出来た一同は、埃っぽい倉庫の掃除を手伝いながら話を聞く。


「ふうん、良い人って、例えば?」


「基本的にあの人って放任主義っぽいから、悪いことを見ても叱りはするけど、二度とやるなとは言わずに見えないところでやれって言ってくれるし」


悪いこと、と彼が口にした瞬間カリスタが眉をひそめるが、何事もないかのように掃除を手伝い続けている。

昔の彼女だったら即座に口喧嘩、そして殴り合いになっていたことだろう。


そんな彼女を気にもせず、掃除当番の生徒は楽しそうに話す。


「むしろバレない手法とか、秘密の隠し通路とか教えてくれるぜ?まぁ隠し通路って言っても大半が壁を登ったり屋根伝いに飛んだりとかだけどさ」


「⋯⋯先生って大八洲出身だよな?なんかマンガに出てくるニンジャみたいだな」


「そうそう!正しくニンジャだ!この前なんていつも持ってる重そうなトランクケースに加えて倒れた生徒を抱えながら屋上まで登ってたんだぜ?」


あんなのほぼマンガだよなー!と、楽しそうに笑って大きな荷物を彼は運び終える。


「ま、なんというか先生ってよりも歳の離れた兄貴って感じだね、ここの卒業生だからかな?」


そう言って、彼から聞けた話は有用な話はそれ以上だった。

なにしろ、後に続いたのは大八洲のニンジャ話だったもので。


――――シモン中央学園・第二図書館/昼――――


「橘先生⋯⋯ですか?」


図書室の受付をしている生徒は、『校内恋愛模様』と手書きの文字で書かれた手帳を片手にしながらそう言った。


「まぁ、私の周りでも特に悪評は聞かないですよ?むしろフレンドリーだとか、頼めば大体のことはしてくれるだとか⋯⋯」


「でも、聞かないってだけでしょう?それに悪評かどうかわからないのもあるはずだし」


「それは勿論ありますよ?学園長から推薦文もありますし、むしろ噂がない方がおかしいくらいです」


大八洲のエリートニンジャだとか、セフィラ学園長の愛人だとか、ラプラス・マクスウェルの実験生物だとか、学生時代に不良集団の御礼参りに大立ち回りして勝ったとか。


「あ、最後のはマジっぽいぞ、本人が言ってたし」


「えっ」


閑話休題(それはさておき)


「あと、これは噂話とは別なんですが⋯⋯」


受付の生徒は耳打ちをするかのように、口元に手を添えて小声で話す。


「ここだけのハナシ、橘先生を好いている生徒は居なくはないんですよ」


「えっあれが好きなの?」


「は?マジで?」


「困惑、理解不能」


「ひ、ひどい言われよう!?」


各々が好き勝手に反応し、その反応の殆どがボロクソに言っていることに、少し橘 立花(たちばな りつか)に哀れみの感情が生まれた受付の生徒。

だが文字通り毎日ボッコボコにされていれば、当然の反応である。


「でも本当なんですよこれが、ああいった影のある大人って好きな人が多いんです。むしろ童顔でフレンドリーなのに初日のアレ(仮想的殺害)みたいな一面がある、そういった面に惹かれる生徒もいるらしくてですね。所謂『悪い男』って感じで好まれるのかもしれません」


「⋯⋯その子、将来悪い男とかに引っかかるんじゃない?それに教師と生徒の関係じゃ色々と倫理的にダメじゃないの?子供に手を出す大人とか⋯⋯」


「それがいいんじゃないですか!禁断の恋愛って感じで!」


その後はテンションの上がった受付の生徒によって、恋愛話に傾倒していったため、橘 立花(たちばな りつか)の話はそれっきりだった。



――――シモン中央学園・廊下/昼――――


「橘のことだぁ?あぁ知っている、知っているよアイツのことは、俺の生徒だったしなぁアイツ」


タバコを咥えながら、気だるげにそう語った先生は歩きながら話し始める。


「まぁ一言で言っちまえば問題児だよアイツは、それも大八洲らしい問題児だ」


「大八洲らしいって⋯⋯どういったものなのよ?」


「⋯⋯大八洲については知ってるな?授業でやったしよぉ」


「肯定、履修済み」


「まぁ、はい、一応は」


「やったけれど⋯⋯」


マキナは歴然と、ジキルとカリスタは少しは狼狽えながらも肯定した。

彼ら彼女らの脳裏には大八洲の地理や歴史が、大まかにだか想起されていることだろう。

刀に侍、言桜乃皇に桜、怪異に寿司。

そういった単語がしりとりのように羅列されていることだろう。


「じゃあもう分かんだろ、大八洲らしい問題児ってのが」


「⋯⋯まさか、ハラキリとか」


「流石にそこまではしてねぇな」


その言葉にカリスタとジキルは安堵する。

橘立花が学生時代に腹を切っていれば、今この場で教師が出来ていないから当然ではあるが。


「ま、武士道とか誉って側面じゃねぇがなアレは、酷かったもんだぜぇ?大八洲出身だからって舐めた態度を取ったり皮肉を言ったやつを片っ端から殴り飛ばしたからなぁアイツ」


「その、口喧嘩とか無かったんですか?殴る前に」


「無い無い、マージで無い、皮肉を言われたり舐めた態度取った瞬間に拳が振り抜かれていたからな」


――――シモン中央学園・庭園/夕方――――


「で、結局のところわからなかったわね」


「そうだな、わからないことがわかった」


「混雑、情報過多による混乱」


3人が庭園のベンチにて項垂れて、天を見上げたり地面とにらめっこをするほどに聞き回っても、橘 立花(たちばな りつか)の噂話や経歴は無造作かつ膨大だった。

真か嘘か、虚構か真実か、破茶滅茶に滅茶苦茶に入り乱れた噂話は調べるだけでも大変だった。


「まぁ一先ず、新しく集めた情報をまとめてみっか⋯⋯」


ジキルが手帳を取り出して、見聞きした情報を書き始める。

一つ目に書かれたのは『実戦練習を毎日のように強いてくるが、普通はそんなことをしない』という文。


「⋯⋯そもそも、私たちは授業終わりに毎回やってるけれど、普通の先生はあんなに実戦をしてくれないのよね」


「まぁあんな事するのは橘先生だけだろうしなぁ⋯⋯そもそも、ほぼ不意打ちみたいな攻撃を防げる人は少ないだろうし」


「可能な職業、軍人、傭兵、騎士⋯⋯学者は該当無し」


二つ目に書かれたのは『食堂のメニューに問わずタバスコをかけている』という情報。


「⋯⋯これ有用な情報かしら、不必要に思えるのだけれど」


「いや、まぁ、でもあの人食堂の激辛メニュー食ってたけど平然としてたぞ?マキナですら気絶するくらい辛いやつ」


「感想、あれはヒトの食べるものじゃない」


「しかも食べた感想が『味がして良かった』だと、辛党なのかねぇ⋯⋯」


そして三つ目は――――――


橘 立花(たちばな りつか)先生について、調べているんですか?」


三つ目の新情報を書き終える前に、椅子の裏から話しかけられる。

凛とした芯のある声の女性であり、振り向いてみればそこにいるのは『クリミア・フローレンス』であった。

シモン中央学園の保険医でありながら、魔術学会の医療班として働いているブラムストーカー(吸血鬼)の女性。


「あぁ、はい、カリスタが気になると言ってたんで」


「そうですか⋯⋯では、良ければお答えしますよ、橘先生については最近詳しく調べる機会があったので」


そう言ってベンチに座り、ジキルが書いている手帳を捲り、一枚目の文を回答するクリミア・フローレンス。


「一つ目に関しては、()()()()()()()とのことです」


「質問、経験とは戦いの経験?」


「正解です、私もそういったものは無くはないので理解できます。殺気や戦意、長く戦っているとそう言ったモノを感じ取れるようになるんですよ、反射とも言い換えられますね」


なぜ保険医であり医療責任者の人間がそんな事ができるのかを、誰も問うことは出来なかった。

当人達からすれば怖かったのかもしれないし、その質問を許さないような圧があったのかもしれない。


「二つ目はあくまでも恐らくですが⋯⋯()()()()()()()()()()()()()があります」


「精神的なストレスか、それとも身体の負荷か、原因はわからないにせよ味覚が働いていない可能性があります」


「つまり、味を感じ取れていないって事ですか?」


「詳細な検査をしていないからわかりませんが、味覚が働いていないからこそ味を求めるためにタバスコを使用していた可能性があります。辛味というのは味覚ではなく痛みですので」


「でもあの人一食にタバスコ二本くらい使ってましたよ」


「それはおかしいですね、次に見つけたら特別な治療手段を用います」


力強く握られた拳と特別な治療手段という単語がどのようなものなのか、想定するのは容易いだろう。


「三つ目に関しては⋯⋯あぁ、これですか」


書きかけの文を見た瞬間に、クリミア・フローレンスはジキルに手帳を返す。


「残念ながら、これに関しては私は知りません、セフィラ学園長ならおそらく知っているかもしれませんが⋯⋯まぁそこまでする必要が無いのでしょう?」


「まさか、そんな恐れ多いことはしませんよ」


「えぇ、あのお方は忙しいのでどうかお願いします、では私は仕事があるのでこれにて」


そう言ってベンチから立ち上がり去っていく彼女の背中を見送る三人。

だがジキルは返された手帳に書かれた、自身の文字で書きかけの文を眺めながら考える。






まさか誰も橘立花の大八洲時代の詳細を知らない、なんて。

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